第六話 「逆向」

「それじゃ、"巻き戻し"てくれ―――」


「・・・これで、何か分かるのか?」


「・・・・」


"ガシャッ"


「行くぞ・・・」


「・・・・!」


広い船内の一室で、鮎人は


首に掛けていたVRゴーグルを頭にはめると


無言で広い室内を見渡す――――


「(この空間は―――...)」


"ジジッ ジィィィィィィィ――――


「あ、鮎人さん」


「・・・澪か―――?」


"ジジッ!"


どこからか、いつもの聞き慣れた声がして


鮎人はゴーグルをはめたまま


隣にいる澪に目をやる


「そ、それ...!」


「・・・・」


"ジジッ ジジジッ"


「(・・・・・)」


「そ、そんなので、


 "事件"の事が分かるの・・・?」


「――――....」


第二の殺人が起こった殺害現場。


広いテーブルがいくつか置かれた


レストランの様な場所で、


自分のマネージャーである鮎人が


顔にゴーグルをはめ、


覚束(おぼつか)ない足取りでふらふらと


部屋の中を歩いているのを見て、


イの隣にいた澪が鮎人に後ろから声を掛ける


「・・・少し....!」


"ガタッ"


あまり視界が良くないのか、


ゴーグルをつけた鮎人が目の前に置かれた


テーブルの椅子に躓(つまず)き


軽くよろける


「ああ、すまん、上手く


 映像が出なかったか....?」


「少し、周りが鮮明じゃないな――――」


「・・・・」


"カチャッ カチャチャチャチャッ...."


「・・・これで、どうだ?」


「・・・・」


イがテーブルに座り、テーブルの上の


パソコンをマウスで操作すると、


ぼやけていた鮎人の目の前の空間映像がかなり


鮮明に、はっきりと浮かび上がってくる―――


「ああ....」


"スッ"


「(花瓶――――....)」


「あ、鮎人さん・・・・」


「大丈夫だ――― 澪....」


"カタタッ"


澪が鮎人に向かって心配そうな声を上げるが、


鮎人は目の前に現れたVR空間と


寸分違わず一致した場所に置かれた


テーブルの上の"花瓶"を手に取る――――....


「後は、"巻き戻し"をすれば


 いいんだよな――――?」


「そうだ...


 この、レストラン内の景色を


 "犯行時間"まで、


 巻き戻してくれ―――」


「・・・・!」

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