第三話 「再会の音色」

「(まさか、あの島にまた来るなんて....)」


「鮎人・・・」


「イ・・・」


鮎人が海が見通せる、オーシャニアクルーズの


デッキの上で自分達RS事務所のスタッフ達が


撮影で向かう事になる"島"の事を考えていると、


デッキに集まった撮影クルーの


人込みをかき分けて、今回のVRゲームの


空間プログラミングを行っている


"イ・ガンリン"


が手すりの側に立っている


鮎人の元へとやって来る


「俺達がこれから向かう、"死出島"ってのは、


 お前が高校時代に―――....


 色々あった場所なんだろ?」


「―――ああ...」


普段、鮎人が籍を置いているRS事務所の傘下に、


このイが代表を務めている映像技術制作会社である


V―제작회사(ブイ―チェジャゲサ)


が入っているせいか、


鮎人とこのイは同じ現場に入る事が多く


お互いに年が近いせいもあってか、


互いに周りの評価を争っている事もあるが、


ある程度親しい関係にある


「今回、俺が作った、この


 안개에 모래

 (アンゲイ・モデ=霧の中の砂)


 は、かなりの出来だから、これで、


 RSの制作界隈で俺がまた、


 一歩リードってトコだな・・・」


「そうか・・・」


「・・・・!」


普段から、このイは何かにつけて


自分に対して競争的な態度を取って来るが、


出世にあまり興味が無いのか、鮎人は


常に挑発的なイの言葉を軽く聞き流している


「(―――――)」


鮎人は、イから目を背けると


再び手すりの上に両肘をつき、


落日の夕日に染まったすでに日も落ちかけている


海上の遥か先に見える


いくつかの島影に目を向ける――――


"死出島"


「(まさか、あの島で


  撮影をするなんて――――)」


今回の、事務所の新人アイドルを集めた


無人島での撮影会。


「(あの死出島が今回の撮影場所に決まった時は


  俺も驚いたが―――)」


「あ~ そうそう~


 向こうついたら、若い子も多いから、


 少し、休憩したり島の中回ったりしてから


 撮影に入ろうよ~」


「(孫さん・・・)」


「私達の時代と違って、今は若い子も


 数が少なくなってるんだから~


 若い子は大事にしないとね~」


「(・・・・)」


鮎人が船の船首の辺りに置かれた


テーブルの辺りを見ると、そのテーブルの周りに


多くの撮影機材を抱えたスタッフ、


そして事務所の代表である孫が


何か周りに集まった撮影クルー達に


指示を出しながら島に着いてからの段取りを


説明しているのが見える――――


「その、死出島には、お前が今でも


 思ってる"宏美"や、お前の高校の


 同級生が・・・


 ―――色々あった場所なんだろ?」


「・・・どうかな」


"フッ"


「―――何だ」


鮎人の言葉にイは、


"隠す事は無い"


そんな表情を見せながら口の端を上げる


「・・・鮎人、お前、この事務所に入ってから


 全然女っ気が無いだろ?」


「・・・・」


少し離れた場所に集まっている、


事務所の同僚達にイは視線を向ける


「けっこうRS事務所の界隈でも、


 噂になってるぞ? お前は、


「ホモなんじゃないか?」って・・・」


「そう思うか?」


「―――まあ、そうは見えないが...」


「(・・・・)」


この所、インターネット周辺で


話題になっている芸能人とも、


アマチュアともつかないD―Tuberと呼ばれる


アイドル達のマネジメントを仕事にする事で、


この、鮎人達が所属するRS芸能事務所は


近頃インターネット界隈でもかなり掲示板や、


動画サイトで話題になっている


「・・・こんな女だらけの事務所に入って


 それで、お前は全く女に関心を示す


 素振りが無いからな・・・


 みんな、どこかお前の事を少し変な奴だって


 思ってるみたいだがな...」


「別に、言わせておけばいいんじゃないか」


「・・・・」


死出島で起きた事件は、その後、


鮎人の心に暗い影を落とし


鮎人はどこか学生時代の浮ついた性格から


何を考えているか分からない、


周りからすれば暗く見える様な、


何か鬱屈(うっくつ)した様に見える


性格へと変わっていた...


「それより、今回のゲームってのは


 どんなゲームなんだ?


 イがこのゲームのディレクターを


 やってるんだろ?」


「それは、言えないな」


「・・・・」


"イ・ガンリン"


今回鮎人達を死出島へと運ぶ豪華客船、


オーシャニア・クルーズにおいて


島に着くまでの間、事務所の代表である


孫に頼まれて、この


オーシャニアクルーズ内において


仮想空間で行われるVRゲームの企画を


総合的にプロデュースしているイだが、


どうやらそのゲームの内容は他の人間には


教える事ができないのか、


イは、鮎人の言葉に口の端を軽く上げ


鮎人に向かって少し気味の悪い表情で


笑みを浮かべる


「イ――――」


「・・・まあ、今回は、


 ウチの制作会社の上部企業である


 お前らRS事務所との


 仕事だからな...?? ―――鮎人?」


「(アレ―――)」


「ど、どうしたんだ? 鮎人?」


「(あ、あれ―――!)」


「な、何だ!?」


"スッ"


「(ま、まさか―――!)」


「な、何だ? ど、どうしたんだ?」


「(あの後姿――――)」


"ダダッ!"


「お、おい! 鮎人!?」


「(な、何で――――!)」


鮎人は、事務所の撮影グループの輪から外れ


階段から船室内へと降りて行く


茶色い髪をした、一人の女の


後姿を追いかける―――!


「(ひ、宏美さん――――っ!?)」


「あ、鮎人っ!?」


「っ――――!」

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