第3話 PM

「だから嫌だったのよぉ!式にパパ呼ぶの。一体どうしてくれんのよぉ!」

 私は思い切り叫んだ。挙式後の新婦の控室。一人きりの室内に絶叫が響き渡る。


「普段から女みたいに髪伸ばして、巻き髪なんかして、異常だよ、変態なんだよ、うちのパパは」

「私に恥かかせて面白いわけ?私だけじゃないわよ。旦那だって今朝パパに会ってから、一言も口いてくれなかったわ。もう終わり。離婚よ」

「それに何よ、あの髪型。式には父親らしくちゃんと髪切ってきて、って確かに言ったけど…。披露宴の間、色々な人に言われたわよ。「キューピーちゃん」みたいで可愛いとか、「子連れ狼の大五郎か、懐かしいなぁ」とか。ああもう最悪!あり得ない、台無しよ!」

 私は怒りの矛先ほこさきを見出すことができず、控室の壁に向かってずっと叫んでいた。


「お母さん…どこ行っちゃったのよ…。一人娘の結婚式だったのよ…」


 新婦の母親は、会場に到着した父親の姿を見た直後、行方をくらましたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る