第2話 正午

「皆様お待たせいたしました。新婦の入場です」


 チャペルの扉が開けられた。葉加瀬太郎はかせたろう万讃歌ばんさんかに合わせて、新婦とその父親が腕を組み、バージンロードをゆっくり歩き入場してきた。まぶしいくらいに白く輝く花嫁のドレス。皆の視線が集中する。と次の瞬間、皆の視線は新婦の父親に集中した。花嫁をエスコートして歩く新婦の父親。その髪型。チャペルに思わず笑いが起こる。


 父親の髪型は、いわゆる「大五郎だいごろうカット」であった。前髪と頭頂部に若干の髪を残し、他の部分は綺麗にり、禿げ頭となっていた。出席者の誰もが、「子連れ狼こずれおおかみ」の「拝大五郎おがみ だいごろう」を連想した。気が付けば、いつのまにか入場曲が変更されていた。「しとしとぴっちゃん、しとぴっちゃん…」橋幸夫はし ゆきおのヒット曲「子連れ狼」である。


 腕を組んだ花嫁は、ずっと泣いていた。

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