第3話 面接で説教してくる人っていますよね?
「バイ、ト……。学生さん?」
「いいえ。大学は卒業したんですけど……無職です」
「それでバイト? 大学卒業したのに?」
さりげない質問が心にグサグサくる。
その通りなんだよな。
大学を卒業したら、普通何かしらの会社に就職するもんだ。
「今、4月でしょ。辞めたの?」
「いいえ。入社すらできなかったです」
まだ入社してから、社会の厳しさを知って会社を退社したなら分かる。
でも、俺は社会を経験していない。
どこの会社にも入社できなかったのだ。
「どうして?」
「俺が訊きたいですよ……」
なんで俺のことを雇ってくれなかったんだろう。
どの会社も俺を必要としてくれなかった。
俺の考えが透けて見えていたのかも知れない。
何故我が社を受けようと思ったのですか?
という質問に対して、俺は――。
いや、どこでもいいから。
ただ適当に選んだだけ。
年収とか、職種とか、楽そうだと思ったから。
とか、そんな感想しか出てこなかった。
顔に出てたのかもな、不満が。
「頭悪いの?」
「いや、まあ、悪いですけど……」
初対面の人間にどんな口の利き方してんだ、ババア。
でも、まあその通りだな。
小学生の時とかは神童と呼ばれていた時期だってあった。
でも、今となってはただの凡人。
いや、それ以下だ。
俺は頭が悪い。
普通の人よりもよっぽど。
「進学校へは行ってたんですけどね」
「なら普通の人より頭いいじゃない」
「俺ができたのは勉強だけだったんです。地頭がいい訳じゃない」
勉強でテストの点数を採れても無意味だ。
東大を出てからニートになる人だっている。
俺の昔の友達も東大を志望できるぐらいの頭の良さだったけど、四年浪人しているって風の噂で聴いたな。
テストで点数を採るのは、俺にとってそこまで難しくない。
誰とも話さずに、時間制限があって、間違いが2割あっても誰にも咎められることはない。
だから俺は書類選考や試験などはどこも受かった。
受からない会社の方が少ないぐらいだった。
「俺、面接で毎回落ちたんですよ」
面接は他人と話さなきゃいけない。
それがデスクワークの仕事であっても、必ず面接はある。
正直、理不尽だと思った。
働いたことないから分からないけど、仕事中でそんなにお喋りするものなのかな?
俺は進学校だったし、勉強もそれなりにできた。
それなのに、面接でまともに話せないだけで、どんな会社にも落ちた。
俺より底辺の学校から出た奴や、成績が低い奴等がどんどん受かっていった。
納得できない。
まだ接客業とか営業とか、何かしらトークスキルが必要な仕事で、面接を重視するのは分かる。
だけど、仕事をやってもいない内から俺は落とされた。
とりあえず、つべこべ言わずに俺を採用しろ。
そしたら俺の有能さをアピールできるのに。
そう思っていた。
でも、そうはならなかった。
落ちて、落ちて、落ちまくった。
インターンをやっていたらまた違ったかもしれない。
インターンだったら面接なかっただろう。会社側も固辞できなかっただろうし、そこで有能さを発揮できれば採用される可能性はあったかもしれない。
なんで俺はインターンに行かなかったんだろう。
なんで俺はチャンスを棒に振ったんだろう。
「面接で? どうして?」
「俺、人と喋れないんですよ」
人と話していると手が震える。
吐き気がする。
さっきの面接でもそうだ。
他人の眼を見て俺は話をすることができない。
病気か何かと思って病院に行ったけど、正常だと判断された。
それが逆に辛かった。
何かしらの障がいがあれば、それをアピールすればいいと思った。
会社だってそういう人を採用する枠がある会社もあるって聴く。
それでお金が貰えるらしい。
でも、俺は普通の人間だった。
ただの、普通の人間よりダメな人間だっただけだ。
「今、話せてるじゃない」
「今はいいんですよ。でも、面接ってなると、緊張して人と話せないんです」
面接は試されている気がするから緊張する。
まだ一対一だったらいい。
だけど、面接となると三人の試験官から試されたりする。
優しい役の試験官だとか厳しい試験官とかいて、心を揺さぶることでストレス耐性を測るらしい。
会社の人ってなんでそんなに性格悪いんだよ。
「そうかい。ミカンまだ食べる?」
「……いただきます」
慰める為にミカンをまた渡してきたのかな。
訳分かんないな。
でも、なんだかホッとする。
自分の婆ちゃんと話しているみたいだ。
「それでどこにも就職できなくて、フリーター確定です」
「でも働こうとするだけ偉いじゃない」
「まあ、ニートは死ぬんで。というか、ウチの親も半分ニートみたいなもんで、働かないといけないんですよ……」
俺はニートは恵まれた人間じゃないとできないと思っている。
だって、働かなくても生きていけるって相当家が金持ちじゃないと無理だ。
だからニートになれる奴は羨ましい。
俺の家じゃニートなんて無理だ。
「親御さん働いてないの?」
「働いていますけど、一年の半分は家にいますね」
お金ない癖に家でゴロゴロしてやがる。
定職に就いている訳じゃない。
すぐに仕事辞めて、新しい仕事している。
一年仕事を続けているのを見たことがない。
そんな親に似たのか、俺も働けていない。
お先真っ暗だ。
俺、自殺するしかないんだろうか。
「多分、働き出したら俺からお金搾取しますよ。俺の預金通帳勝手に使うぐらいですからね」
勝手にお金を引き出して、趣味に使っているのを見つけた時は流石に頭が真っ白になった。
こんなにドクズだとは思わなかった。
学費を出してやっているのは俺達だ。
だからこれは学費なんだ。
と怒鳴りながら俺の金で、パチンコするなり、カメラ買うなりしていた。
頭がおかしくなりそうだった。
「でもそれは両親にも何か事情はあったんじゃない?」
「まあ、そうですね……」
ここで説明しても意味ないよな。
親が子どもの金を使っても、それは親だから。
その一言で片づけられる。
それに無職なのは親のせいじゃない。
俺のせいだ。
「金が欲しいんですよ。でも、今日のバイトの面接も落ちましたね」
「どうして?」
「まともに答えられなかったからです」
面接した担当の人に、
『中古本屋って何をするか知っている?』
『えっ、と本を売る仕事ですよね』
『他には?』
『え、と、あの、えっと……』
『…………君さ、バイトの経験ほとんどないよね』
『はい』
『大学時代は何してたの? サークルも入ってないんでしょ?』
『えっ、と勉強を……』
『勉強は? 何? 特待生にでもなったの?』
『い、いいえ』
『だったら、君、何もしていないよね?』
と、たかだかそこら辺のお店の店長に説教された。
泣きそうだった。
言っていることが全部正論だったから余計に辛かった。
何も言い返せなかった。
俺はただ怠惰だっただけだ。
でも何もしなかった過去をなかったことにできるなんてできない。
だから俺は一生懸命喋った。
でも数分で話は終わって、何か質問はありませんか?
と言われた。
俺はありませんと答えると、はあーと露骨にため息をつかれた。
どうすればよかったんだ。
正社員どころかバイトにすらなれない俺はどうしようもないクズだった。
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