第2話 駅のお婆ちゃんはすぐに物をくれる

 駅のホームには俺と、お婆ちゃんの2人しかいない。

 お婆ちゃんの視線は俺に注がれている。

 つまり、俺が話しかけられたのだ。


「え、いえ、いいです」

「ほら、遠慮しないで食べなさい。あなた若いんだから。それともミカン嫌い?」

「い、いいえ。ミカン好きです」

「なら食べなさい」


 そう言われてミカンを受け取ってしまった。

 この強引な性格じゃ、お婆ちゃんにミカンを突き返せないだろうな……。


「ありがとうございます」

「食べてみなさい」

「えっ⁉︎」

「お腹空いてないの?」

「そ、そうですね」


 そう呟いた瞬間、ググゥーと俺のお腹が鳴った。


 めちゃくちゃ気まずい。


「ほら、遠慮せんと食べなさい」

「は、はい。……いただきます」


 何で俺はこんな所で見知らぬお婆ちゃんから、ミカンを貰って食べないといけないんだろうか。


 注射針で毒とか混入してないだろうな。


 でも、田舎の婆ちゃんは飴とかあげたがるから、ただの親切の押し売りかもしれない。


 嫌だなあ。


 他人から生もの貰うのほんとに怖い。


 腐ってたらどうしよう。


「あ、うまい……」

「そうやろ、そうやろ。甘いやろう。ウチの畑でとれたもんやからねー」

「畑あるんですね。凄いですね」

「凄くないよ。親からもらったもんだからね」

「へー、そうなんですねー」


 十分凄いと思うけどな。


 俺の家には遺産なんてものはないからな。

 あっても借金くらいなものだ。


「どうしたの?」

「え?」

「なんか途方に暮れてたでしょ」

「あー、ちょっと電車に乗れなくて」

「さっきのやつ?」

「はい。さっき来てたやつですね」

「何で乗らなかったの? 乗れたでしょ」

「あー」


 このお婆ちゃん、結構長い間俺のこと見てたみたいだな。


「乗ろうとしてた電車と違う電車だと勘違いして乗らなかったんですよ」


 電車の発車時間には間に合ってた。 

 だが、乗るはずだった電車と違う電車だと勘違いして、見送ってしまったのだ。


 電車の側面に書かれていた駅の行き先を見て、俺は呆然としてしまった。


 それでさっき、交通ICカードをどうにか入場キャンセルできないか試していたのだ。


「何で勘違いしたの?」

「こっちが2番乗り場だと思ったんです」


 俺は1番乗り場の方を指差す。


 こっちに電車来ると思ってたら、逆方向だったのだ。


 最悪だ。


「あんた、この辺の人じゃないの?」

「この駅に来たのは初めてですね」


 田舎過ぎて電光掲示板がないんだよな。


 東京の地下鉄は迷いやすいとか言うけど、東京で迷ったことなんてほとんどない。

 ちゃんと矢印がいっぱいあるから、間違えないし、ちゃんと電光掲示板がある。


 だけど、田舎は分からないんだよなあ。


 しかも、1番乗り場に『2番』って看板みたいなものがあったから、こっちが俺の乗るべきだった2番乗り場だと思うじゃん!


 なんだこの2番って看板は。

 どういう意味なんだ。


 距離なのか?

 それとも、二車両目はここに止まりますっていう表示なのか。


 どういう意味かは知らないけど、紛らわしいんだよ。


 作ったやつ出てこい。


「何でここにいるの?」

「面接で来たんですよ。ここまで来た時はバスだったんですけど、帰りは時間的に電車の方が早かったんで、電車で帰ろうと思ったんです」


 結果的には失敗だったな。

 こんなことならバスで帰れば良かった。

 バスだったらこんな失敗しなかったのに。


「面接って、会社の⁉︎ へー、ITとかね?」


 何でそういう発想に至ったんだ。

 俺が眼鏡かけて真面目そうだからだろうか。


 だけど、違う。


「バイトです。中古本屋の」

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