未完

魔桜

第1話 1時間に1本しか電車が通らない


『入場場所です』


 何度自動改札機にタッチしても同じ表示が出る。

 どうしてこんなことになったんだろう。


「え? マジ?」


 思わず声を出してしまうと、部活で疲弊しているであろう女子高校生がこちらを一瞥する。


 俺はその視線から逃れるように、ホームへの階段へと足を運んだ。


「嘘でしょ……」


 女子高生に聞こえないよう、小声で独りごちる。


 俺は自分が信じられなかった。


 こんなバカしかやらない失敗、成人した人間で、俺以外にする奴いるんだろうか。


「……はあ」


 電車に乗ろうとしたら、乗れなかったのだ。


 そのせいで、次に乗る電車は後1時間後。


 田舎あるあるだけど、1時間何もない場所に居座るのはしんどい。


「どうしたもんかね」


 交通ICカードを通してしまった以上、キャンセルは効かない。


 出場のところにICカードをタッチしたら、さっきの『入場場所です』という表示が出た。


 スマホで検索したら、近くにいる駅員に声をかけて事情を説明したら、返却なり、カードの処理をしてくれる……らしい。


 だが、


「駅員なんていないよ……」


 田舎の駅員は夕方くらいになると、いなくなってしまうのだ。

 なので、カードの処理はしてくれない。


 俺が取るべき行動は2択。


 ここで1時間次の電車が来るまで待つか、他の駅に行ってから駅員に事情を説明するかの2択だ。


 俺は前者を選んだ。


 ここの地理は詳しくないし、他の駅まで行って駅員にどうやって説明すればいいか分からない。


 というか、面倒くさい。


 人と喋ることが俺は苦手なのだ。


 周りからは良く喋るねと言われるけど、それは努力して話しているからだ。

 本当は誰とも話したくない。


「はー」


 溜め息を吐きながら、ホームに設置してあった木の椅子に座る。


 反対側にはお婆ちゃんが座っていたので、少し距離を取って座った。


 スマホを弄りながら1時間も時間潰せるかな。

 そう思ってスマホを取り出すと、


「ミカンいりますか?」


 と、お婆ちゃんがにこやかに話しかけてきた。

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