第31話

「ふふん」


「やあ」


「今日で最後、だな……」


「私は今日でいなくなる」


「そう感じるんだ」


「お盆だからかな?」


「自分でもよく分からない」


「……」


「君との日々は楽しかったな……」


「私はこの部屋から出ることができないが……」


「それでも君といる時間は楽しかった」


「……」


「君は変わったよ」


「忘れ物をしなくなったし、手も洗うようになった」


「心なしか体も引き締まったし、朝ごはんもしっかり食べている」


「顔つきは爽やかになって、姿勢も良くなったように感じるよ」


「全部私のおかげだな!」


「……」


「冗談だよ」


「すべて君の努力の賜物だ」


「自信を持つといい」


「君はやればできる人だ」


「私が保証する」


「だからこれからも」


「私のことを忘れても」


「私の教えを忘れないでくれ……」


「……」


「いや……」


「やっぱり嫌だ……!」


ギュッ


「私のことを忘れないでくれ!」


「ずっと、ずっと、君の記憶の中に生かしてくれ!」


「私に居場所をくれ!」


「君と一緒にいさせてくれ!」


「私を……」


「独りにしないでくれ……」


「……」


「少し取り乱したな……」


「なんだか暑くなってきた」


「顔も熱いし……」


「君も汗をかいてるじゃないか」


「なんで君まで……」


「……」


「あっ……!」


「火事だ……!」


「隣の部屋から火がきてる!」


「早く逃げろ!」


「火の回りがはやいぞ!」


「なんで逃げな――」


「君は動けないんだった……!」


「ど、どうしよう……」


「どうすれば……」


「……」


「私が、君を運ぶしか……」


グッ


「ふんっ!」


「はははっ!」


「最近君を動かした経験がこんなところで活きるとはな……」


「でもおぶるのは……」


「うおっ、と」


「さすがにきついな……」


「それでも……」


「君には生きてほしいから!」


「だから私は……」


「なんとしても君を……!」

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