不審者①

そうそう、あの日は

とても蒸し暑く

チロチロと蛍が舞う

季節でございました。


その日の夕食後には、

お宿より少し上に位置する

川上に出掛ける

蛍狩りの予定を組んでいました。


蛍は梅雨時、蒸し暑く、

今にも雨が降りそうで、

降らない、

そんな時に出没します。

ほんの数時間の、逢瀬です。


川の水がとても綺麗なので

宿内の川にも蛍がやって来ます。


ただ、敷地内に舞う

蛍さんたちは数が少なくて

淋し過ぎます。


やはり沢山の蛍が、

合コン…と、言っては

ロマンがないですね


多い方が、楽しい。


まるで

季節外れのクリスマスツリー

それはそれは、美しく

許された時間が短いからこそ

感動で、胸が震えます。

頑張って相手を見つけるんだぞ

…って、応援したくなります。


車で来られる方々も

マナーを弁えていらして、


近くの広場になっている

駐車スペースに

スモールランプだけで静かに進まれ、

同乗者の方が、

誘導され駐車されます。


話し声も、

ほぼほぼ聞こえません。


お宿からのお客様は、

歩いて参ります。

ぽちぽち

歩いて5分くらいです。

お宿側の引率者を必ず一人

同行させます。


夕食の際、最終のお誘いをし

行かれる方を募ります。

勿論、

有料のオプションではなく

行かれる方の道案内だけです。


夕食が済まれたお客様は、

殆ど蛍狩りに出掛けられ


私は、宿泊棟の入口にある

下駄箱の皆様のお履物を、

スタッフと一緒に、磨きます。

時間はまちまちですが、

だいたい夕食後位の時間、

靴磨きタイムです。


お履き物は、お客様のご性格

ご職業・暮らしぶり等々

顕著に顕れます。


職業柄、人相とお履き物は、

しっかり見させて頂きます。


いやいや

勿論ジロジロ見なくても

長年、の勘と言いましょうか

直ぐに、分かります。

人相と

日頃履いていらっしゃる

履物は、誤魔化しようが

ございません。


お部屋は、

10棟しかございませんので

当然ながらお客様は、

全て把握しております。


お食事は何を残されたのか

箸を付けずになのか

一口召し上がってからなのか


ご到着前の密な、

打ち合わせでも、中々

伝わっていない事や

言われなかった事等

多々問題が生じます。


お口に合わなかったのか

もう、

召し上がりきれなかったのか


一度だけの宿泊を

また行きたいね…と

言って頂ける、

そんなお宿にする為には


朝食の時とご出発の時の

お声掛け、で決まります。


勿論、

それだけではありませんが

ご朝食の配膳を手伝いながら

ゆっくりして頂けたか、

ご満足頂けているか、

問題はなかったか…


お声をおかけしたり

表情を見たりと…


女将だとは、

誰も知りません。

時々、

感の鋭くていらっしゃる方は


女将さんですか?

と、

聞かれますが、

ご朝食のお席で、

「女将でござ〜い」

…もないので、

笑っているだけです。


お見送りの時に

着物に着替えますので

「あっ女将さんだったの?」


…って位が、楽しいですよね


作務衣で、

庭掃除していたり

花の手入れをしていたり


あ、

そう言えば…


お話しはそれますが…


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