助太刀参上


「走るぞノワ君!」


 僕達は再び、細い路地を逃げ回る。体は既に限界を迎えていたが、死なないために足を動かす。


「エレさん! あれ何とか出来ないですか!」


「カッコつけて出てきた所申し訳ないが、戦闘に関しては門外漢でね! あんなのが出てくるなんて聞いてないよ」


 シェダーが作り上げた灰の巨人は、一歩踏み込むごとにボロリと一部が崩れ、またそこに継ぎ足される様に人の顔が出来上がる。

 動きは決して早くはないが、そのデカさゆえに徐々に僕達は追い詰められていく。


「あはははっ! 無様ですなねぇ、見っともなく這いずり回ってまるでネズミの様ですね!」


 ドシンという、重たい足音が少しずつ近づいてくる。勘弁してほしい、この短期間で死を感じるのは何回目だろうか。


「ハァハァ……このままじゃジリ貧ですよ! エレさん何か打開の策は無いんですか!」


「残念だけど、私にはあれを倒す手段を持ち得ない」


 逃げ込んだ先は行き止まりだった。エレさんが倒せないとなると、いよいよ手詰まり、どうしようもなくなる。


「……だから、倒せる人に任せるとしよう」


 エレさんがそう言ったその時、周囲が炎に包まれる。その炎はまるで生きているかの様に、僕達を避けて灰の巨人に纏わりつく。


「ほっほっほ、全く年寄りの扱いが荒いのぉ」


 壁の上に立っていたのは、一人の老人。エレさんの師匠であるゴルドックさんであった。彼の横にはでっぷりとしたトカゲの様な魔精が佇んでいる。トカゲというよりかは、オオサンショウウオが近いだろうか。


「全く! 遅いぞ師匠、危うくぺちゃんこにされる所だった」


「若いくせに情けないのぉ、年寄りなりに頑張って走ったと言うのに。それにしても、長生きはするもんじゃなぁ、まさか再びシェダー、お前の顔を見る日が来るとは」


「お久しぶりですなねぇ師匠! 貴方まで居るのは正直計算外ですよ」


 シェダーは話しながらも、黒い蛾をゴドリックさんに向けて放つもそれはそこにたどり着く前に、燃え尽きて地に落ちて行く。


「チッ!少し分が悪いですか。流石、豪炎の魔法使いの名は伊達では無いですね」


「昔の名じゃよ、今はパンを焼くぐらいが性に合っているんじゃがなあ」


「面白い冗談ですねぇ! 随分と丸くなったご様子で」


 二人は話しながらも、空中で激しく競り合っている。シェダーは灰を操り、複数の剣の形を作り上げてゴドリックさんに放つ。しかし、ゴドリックさんは、それを杖を一振りするだけで燃やし尽くす。


「同じこそ、珍妙な魔法を使う様になった様じゃな! お前にその様なユニーク魔法があるなんてのは初耳じゃぞ」


 お互いに攻め手にかける様で、決着は中々着きそうに無い。ジェダーの魔法は燃やされ、ゴドリックさんの魔法は黒い蛾に灰にされる。


「地獄で覚えてきたと言えば信じてもらえますかねぇ? にしても今日は私の天敵ばかりで嫌になりますよ!」


「私を忘れてもらっては困るよ!」


 二人の戦闘にエレさんが割って入っていく。色を纏った蝶が、黒い蛾を打ち消す。その隙を突くが早いか、ゴルドックさんが放った火の波が、シェダーに襲い掛かる。


「——っ! これもしかしてピンチってやつですかぁ?」


 シェダーは身を翻して避けようとするも、炎は彼を逃すまいと追いかけた続ける。迎撃しようとすれば、それをエレさんが阻止する形で、少しずつ彼を追い込んでいく。そして、遂にシェダーの体に炎が燃え移ろうとした次の瞬間——



「おいおい、遅いと思って様子を見に来てみれば、随分やられてるじゃねぇかシェダー。34分15秒の遅刻だぜ」


 いつの間にか声の主はシェダーと炎の間に入り、まるで羽虫を払うかの様に炎を打ち消す。


 見えなかった、一体いつの間に来たんだ。まるで、その場に最初から居たかの様に、彼は颯爽と現れた。男の顔は深くフードを被っており、見ることはできない。しかし、服の上からでも分かるほどに鍛えられた、肉体が彼が只者でないことを主張している。


「相変わらず、図体の割に細かい男ですねぇ。しかし、助かりました」


「くたばるまで見とくべきだったか……まあいい、さっさと終わらせるぞ」


 男はそう言うと、ゴドリックさんの前に立ち塞がる。


「さぁ、第二ラウンドと行こうか!」


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