エレノアの手記1

 エレノア・ツヴィエートにとって今日はなんとも不思議な1日であった。

 始まりは私の館名前で何やらウロウロしている不審な人物がいると気づいた所からだ。


 また奴らが何か仕掛けてきたのかとも思ったが、実際は覗いてみれば年端もいかぬ少年が1人いただけだった。


 勿論見た目だけで判断する気も無かったが、敵意を感じないどころか、むしろ怯えてすらいるように見えた。


 それでもここまで来るには、私の掛けた認識阻害を突破して、尚且つ正しい手順で道を通らなければ結界を抜けれないようになっている。


 ただの少年が偶然迷い込むという事は考えにくい。不信感は増すばかりであったが、心の中で押さえられない好奇心があったのも否定できない。


 私は警戒を解かずに話しかける事にしたが、そこで面白い発言を聞くことになる。どうにも、彼曰く私の人工魔精を見かけて、それを追いかけてここまで来たと言うのだ。


 魔精の存在を感じることは、一流の魔法使いならば出来る者もいるが、この少年がそのようには到底見えなかったし、そもそも見たと言う発言は余りにもおかしい。


 私はそれが本当かは分からなかったが、その発言を境に彼は不審者から私の興味の対象へと変化したのは間違いない。


 それに面白いのは、色彩の魔女の名前を聞いても何も反応しなかったことだ。私の名前を知らないのは余程の世間知らずか、変わり者だけだと自負している。


 私は彼を招き入れることにした。敵にしろそうじゃないにしろ、もう彼が何者なのかを知りたいという感情を止められなかった。


 そこからも面白いことの連続だった。自信をノワール・ブランと名乗った彼は、ここに来るまでの経緯を語った。


 そこから導き出される真実は、彼が訪問者であると言う事だ。ノワ君は嘘をついていない、それは私が保証する。


 彼が話し出す前に、一度魔法を行使した。人工魔精を用いて、相手の感情の揺れを感じ取る簡単な魔法だ。


 しかし、彼が話している時には特に感情の揺れは無かった。もしそれで嘘を付いていたならとんでもない曲者だ。


 ノワ君の話をすんなりと信じた裏側にはこういった事情があった訳だ。まあ黙って魔法を使ったのは申し訳ないとは想うけどね。


 訪問者というならば、色々と合点がいく。彼は私の名前を知らないどころか、この世界そのものを知らないのだから。


 それに、魔精を見れるという体質にも信憑性が増してくる。それほど熱心に読んだわけではないからうろ覚えだが、過去の文献からも訪問者には特異な体質や、才能が備わっていることが多かったという。


 彼の眼がどうなっているのか非常に興味がある。もし魔精が本当に見えるのであれば、私の人工魔精の研究にも役に立つはずだ。


 その為にはまずは、ノワ君にこの世界の魔法、常識を教える必要がある。魔法のメカニズム、魔精が何なのかを知って貰わなければ、駄目だと思った。


 それに、研究に協力してもらう為にも私を信用してもらわなければならない。貴重な存在だ、手荒な真似はしたくない。


 だから私は、自身が何者であるかの一端を見せようと思った。人はお互いを曝け出さないと信用できないと知っているから。


 私の色彩の魔女と呼ばれる所以の一端を見せると、彼は大層喜んだ、それはもう号泣するほどに。私の魔法を見て号泣するものは初めて見たが、彼にも彼の事情があった。


 ノワ君は色が見えないらしい、でも私の魔法を通して初めて色のついた絵を見たのだと言った。どうやら魔精や魔力にも色が見えるようだ。


 なるほど、皆が見える日常に溢れる色は見えないのに、魔精や魔力と言った普通は見えないものに色が見えるのか。


 まだまだ分からないことだらけだが、研究の手掛かりになりそうだ。もしかすれば……いや今はまだ書かないでおこう。確信の持てぬ事は羅列しない方がいい。


 それから昼食を経て、彼とは契約を結ぶに至った。


 私はノワ君に研究の協力を、彼は私に衣食住の提供を求めた。契約と呼ぶには甚だ緩いものであっだけど、今後の関係を考えるならこれぐらいがいいだろう。


 今後ノワ君は私にどんな景色を見せてくれるのだろうか、非常に楽しみだ

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