選択と決断

 異世界転生1日目、僕は沢山のことを体験した。初めてトラックに轢かれ、死ぬほど痛い思いを体験、いやまあ正確には死んだのかもしれないけども。


 その後知らない土地に飛ばされて、そこで出会ったのは色を纏った蝶々であった。あの時は本当に驚いた、まさか僕が色を認識できるなんて。


 そこからも驚きの連続だった。走り続けてるうちに街から森の中へ、そして気づけば魔女の館。そして、そこでエレさんと出会った。

 初めは恐ろしく感じたが、そ僕の嘘みたいな話を信じてくれたり、体質の話をしても態度を変えず接してくれた事からもエレさんは信用に値する。それに、絵画の素晴らしさを初めて体感させて貰えた事は記憶に新しい。


 なんとも充実した1日だ。始まりこそは不安であれども、それを帳消しにするような幸福な時間だった。僕は今日という日を忘れないだろう。


 でも、いざ我に帰ると今後僕はどうするべきなのかが分からない。見知らぬ土地に、お金も持っていない僕には生きていく術がない。


 それに、元の世界には両親がいて、友人も少なくはあったがいた。元の世界に一才未練がないとはとても言いきれない。


 そもそも、僕はトラックに轢かれてここに来た訳だが、向こうではどういう状態なのだろう?死んでいるのか、それとも行方不明となっているのか。どちらにしろ親不孝者には変わりないか。


 もし帰れる方法があるとしたら、帰りたいと思えるのかな。僕は脳裏に焼きついた魔精の色を、エラさんの色彩を想う。


 ああ、多分もう無理だ。僕はもうどうしようもなく、この世界に夢中になってしまった。色があることを知ったのだから。


「僕はこの世界で生きていきたい。もっと色んな色を見てみたい!」


 気づけば自然と口に出ていた。


「君の目に興味がある私としても、君の選択は好都合だ。歓迎するよ」


 エレさんは嬉しそうに微笑む。エレさんは相変わらず僕の目に興味津々なようだ。あまり凄さは分からないけど、僕自身も気になるところではある。それに、エレさんが僕の目に興味があるならそれを利用しない手はない。


「でも、僕は今お金もなければ知識もない。だから、僕のことを好きにしても良いのでここに置いてくれませんか?」


「ふーん、何でもね。何でも……」


「いや、何でもと言いましたけど、できれば命が危険に晒されない程度、いやできれば痛いのも無しで……」


「ふふ、心配しなくてもそんな扱いはしないよ。よし、なら魔法使いとして契約をしようか」 


「契約?」


「そうさ、魔法使いは皆取引をする際に契約を結ぶんだ。程度はあれど破ればペナルティが発生するようなね」


 正直無理な事を言っている自覚はあったから、それなりに吹っ掛けられても仕方ないと思っていたから、それを聞いて少しホッとする。

 しかし、魔法使いと契約というとまた男心を嵩張る状況だなとぼんやり考える。


「そうだね、私からは君対して君の目に対しての研究の協力を求める。勿論危ない事はしないし、嫌だと思った事は拒んでくれても構わない」


「ずいぶんと優しくないですか?僕が全部嫌だって言うかもしれないし」


「うーん、契約としては緩いかもね。でも、その時はその時さ。元々無理のない範囲で研究に協力してほしいとお願いするつもりだったからね。。それよりも君の要求も聞こうか」


 そう言って彼女は微笑んだ。正直どんな事を要求されるのだろうかと思っていたけど、良心的を通り越して、こちらが心配になるような要求であった。


「じゃあ僕はエレさんに、衣食住の供給を望みます。でも、邪魔になったら言ってください、その時は素直に出ていきます」


「君こそ良いのかい?もしかしたら気が変わって明日には出ていけと言うかもしれないよ」


「それは困りますね……、でもその時はその時です」


 僕はそう言ってはにかんだ。すると、それに釣られて彼女も笑い、それが何だか可笑しくて、面白くて。僕達はお互いに吹き出してしまった。


「よし、契約は成立だね。今後ともよろしく頼むよ」


「はい!」


 先のことは全然分からないけども、新しい世界でも何だか楽しく過ごせそうだ、そう感じた瞬間だった。


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