第4話

 いわゆる、まだ広く認知されてない現象か?

 物語的なら、どんな不思議も不条理も起こりうる。

 そこが物語多奏世界の痛いところだ。

 どんなに因果律や整合性を合わせようが、するっと抜けるように異なりは入り込んでくる。

 それよりも、違和はほかにあった。

 これは、通り魔的犯行ではない。

 特定の人物を狙った、暗殺者の手口に相違ない。

 いっておくが、俺はなるべく目立たないよう、どちらかというと慎重に行動する。

 名は知られることには知られているが、世界一でもないし、唯一の能力の持ち主でもない。

 主ボディたる、まあ高スペックな幼女仙にしても、目立つことはさせていない。

 数えるぐらいにしか出したことがないのだ、しかも人気のない場合にだけ。

 そもそもパラゴン、メトセラ、デミゴッドの域まで達してもいないのだ。

 といってもそういう連中は、たいていがポケットユニバースをこさえこんで、そこで思うが儘の権能を振りかざしている、いわゆる隠居勢なわけなのだが。

 わりかしこのボディは鼻がいいから、この、今起こったことが作為的、とまでは感づけたが、そこまでが限界だ。

 燻った炭の匂いがした。

 余韻に浸りながら、

 位相をずらして、ボディをかえる。

 スライム情報体たる、ZXiとなる。

 そしてその不定形の身体のまま、死体となった相手へと、目から、鼻から、耳からへとずゅるりすゅるりと入り込んだ。

 中を這い上って、相手の脳まで到達する。

 犯すように、脳へ突き刺さり、浸透する。

 ドス黒い衝動、欲望は全くないといっていい。

 純粋な、といったらおかしいかもしれないが、形代として、仮受ける、そんな感じだ。

 知的好奇心が優っていた。

 取り込んだというより、一体化の感得。

 意識野、記憶領域に他人のがなだれ込んでくる。

 ビクッと、気持ちよさが駆け抜ける。

 これがために、乗っ取り専門のボディ漁りもいるらしい。

 気にせずに、読みを始める。

 そこには、もつれが生じていた。

 複雑で、重層的で、リゾームのように、表層の裏に展開している延ばされた、幾多の糸のように、ある。

 分析、解析はしなかった。

 あるがままを受け入れつつ、響いている弦に、耳を澄ませた。

 そのうちの一本に、引き寄せられた。

 深夜のビルの屋上だ。

 控えめな星空の下、男女2人が、女が外柵のすぐ向こうへ立っている。

 風もなく、音も抑えられていた。

 天体観測にはもってこい。

 女は、思い詰めた顔で男をじっと見据える。

 男は、息を切らしていた。

 肩で息をしている。

 やっとの思いで登ってきたのだ。

「アレイア!」

 たくさんが込められた、ぎゅっとした一言だった。

 風もないのに、髪がたなびいた、気がした。

 女は、拒絶の意を示していた。

「ワタシは、……間違えてしまった。だから、お終い。全てにけりをつけるわ」

 迷いなどなかった。

 止めになどは入れなかった。

 星だけが、無慈悲な観客となって。

 女は、暗黒へ、身を投じていた。

 声にならない叫びをあげていた。

 届くはずがない。

 彼女は、彼我へと、跳躍したのだから。

 男の意識は、揺さぶられて、ぐちゃぐちゃになり、行き場のない奔流となって空へ飛散した。

 ただ、苦しみと絶望と怒りと憤りが、そこにはあった。


 読み違えだろうか?

 どうやら生成りそのままで、翻訳、変換されていない剥き出しの層らしい。

 物語の量子場は、勘と経験がものをいうが、一種のセンスも関わりを左右する。

 物語が自ら語り始めたならそれは自然災害のようなもので、波乗りして乗りこなさなくてはならない。


 緑の猿、がチラついた。

 土砂降りの雨に巻き込まれる。


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