第2話

 世界は揺らがずにしっかりと固定されている。

 逃げ場はない、ってわけだ。

 おつらあえ向きに飛び越えもできない袋小路。

 相手の押し殺した息遣いがふしゅー、ふしゅーと肌に当たり、ボディの心拍数は跳ね上がった。

 殺意だけを、前面に押し出している。

 フードをを目深にかぶったその奥の眼光だけが、ぎらぎらと輝いている。

 ヤバいな。

 動かそうにも、身体がゆうことを聞かない。

 声を出そうにも、出せない。

 もっとも、出したって事態が好転しそうにないが。

 それよりも、失禁しそうになるのを堪えているのがやっとだ。

 やもえない。

 諦めるか、進むしかないからだ。

 俺はボディ愛護主義者だ。

 授かった身体は、最後まできちんと面倒を見る。

 何より大事にする。

 だから選択肢はひとつしかない。

 魂とボディをダイレクトにリンクさせるのと、名もなき殺人者が首を掻っ切るのはほぼ同時だった。

 血しぶきが舞った。

 空間に、断裂が奔る。

 地味な女性の身体は、きりもみしながら、逆さに、宙に浮かんでいた。

 殺人者の首はありえないほうへとねじ曲がっている。

 魂のほうのスキルを使ったのだ。

 負担は大きく、着地に失敗し、打ち付け、よろよろと立ち上がるしかなかった。

 相手もさるもの、いかなるも焼き切る白炎を渾身に乗せてきていた。

 運も味方したのだ。

 この身体は、男性の力強さと、女性のしなやかさを併せ持っていたのだから。

 興奮のせいか、持っている片側が反応して、エレクトしていた。

 反対のほうは先の通り、恐怖で縮こまっていたが。

 女性優位のからだゆえ、野獣の本能は抑えられ気味だったのだが、意識のはざまで乗り出てきてくれていた。

 ほんのちょっとの差であったのだ。

 紙切れ一枚ほどの、薄皮ギリギリの、わずかな間隙。

 制したのは、周りをも味方につけたからと、そう思いたい。



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