第114話 控え室にて

 三学年の決勝全てが終わった後、本来なら各学年の優勝者同士で三つ巴の試合をする予定だった。


 しかし、優勝したのは三学年とも我がアールスハイド高等魔法学院。


 同じ学院の生徒同士で試合をすることに意味があるのか? という話になり、最終的に最後の三つ巴戦は無くなってしまった。


 ということで、三年生の部の試合が終わった後、しばらく協議のために待たされ、結局試合なしということになり、閉会式を行うことになった。


 各学年の表彰が行われ、最後に大会委員長であるパパの総評で終わることになった。


『えー、皆さん、今日はお疲れ様でした。今回の大会は、君たち生徒にとっても、私たち運営にとっても実に有意義な大会となりました』


 パパがそう言うと、私たち参加した生徒全員が無言で頷いた。


『敗れた学院の生徒たちは、勝ち進んで行った学院の戦い方を見て学ぶところが多かったことでしょう。来年、自分たちに足りなかった部分を補い、また私たちに勇姿を見せてくれることを期待します』


 その言葉に、私たち意外の国が一斉にこちらを見た。


 その目は、次こそ負けないと言う闘志に満ち溢れていた。


『そして、三学年とも優勝したアールスハイドの諸君らは、これで追われる立場となりました。皆が君たちを倒すことを目標に頑張ってくることでしょう。そんなプレッシャーに負けないこと。それが君たちが今後養っていかなければいけないことです。三年生はこれで最後ですが、一年生と二年生は、来年王者として恥ずかしくない姿を見せられるよう、これからも頑張ってください』


 私たち一年生と二年生は、追われる立場の人間として恥ずかしくないようにしなければと決意を新たに頷き、三年生たちはそんな私たちを羨ましそうに見ていた。


『私たち運営としても、今回は試験的な試みでもあったので、トーナメントの割り振りなど、改善すべき点が多々ある大会となりました。来年度は違う運営方式になっているかもしれませんので、決まり次第また連絡します』


 そういえば、近いうちに特定の学院ではなく、国内で予選をして選抜をするって言ってたな。


 もしかして、来年から早速それを取り入れてくるのかも。


 まあ、疑問に思ってもパパはそういうこと教えてくれないんだけどね。


『今回の大会は、各国の生徒たちが切磋琢磨することを目的として開催しました。お互いを憎むために開催した訳ではありません。なので、対戦した国同士でも対立せず、積極的に交流を持ってもらえると、開催した側としても嬉しく思います』


 その話で言えば、イースの人たちとも挨拶したし、スイードのアニーとは連絡先まで交換した。


 ほんの数人だけど、他国の人と交流できたことも良かったなあ。


 そのうち、アマーリエ先生のサインも貰っておいてあげよう。


『それでは、今日は皆お疲れ様。また来年、会えることを楽しみにしているよ』


 パパはそう言って壇上から降りていった。


 そういえば、パパの目から見て今回の試合内容はどうだったんだろう?


 パパはこの大会の主催側の人だったので、大会の途中で話を聞けなかった。


 ママも基本的には関係者席という名のVIP席にいて、一試合目が終わったときにデビーと一緒に怒られた際も、試合の感想などは言ってもらえなかった。


 帰ったら聞いてみよう。


 控え室に戻り、備え付けられていたシャワー室で汗を流した後、帰る準備をしていると、控え室の扉がノックされた。


「ん? 誰だ?」


 先に準備を終えた三年の先輩が扉に向かってくれた。


「はい」


 先輩が返事をすると、扉の向こうで「あっ」という女性の声が聞こえた。


「ん? 女の子?」


 先輩はそう言うと、扉を開けた。


 するとそこにいたのは、白を基調とした制服を着たイース高等神学校の面々だった。


「あ、お、お忙しいところ、お邪魔いたしまして申し訳ございません。私、イース高等神学校三年、ライラ=リリエンタールと申します」

「あ、これはご丁寧に。私はアールスハイド高等魔法学院三年の、エドガー=ジョンソンと言います」


 ……あの三年の先輩、エドガーさんって言うんだ……初めて知った。


「あ、あの。お帰りになられる前に、一言ご挨拶をと思いまして伺った次第なのですが……ご迷惑だったでしょうか?」


 ライラさんは、いかにも優しそうな神子さんといった感じの非常に清楚そうな女性。


 スタイルも大変よろしくて、そんな魅惑的な身体を神子服っぽい制服で包んでいる。


 ……エドガー先輩の顔が、だらしなくなっているのが分かるよ……。


「あの……」

「はっ!? あ、ああ! わざわざすみません! 全然迷惑なんてことはないですよ! こちらこそ、今日はありがとうございました!」

「いえいえ。それにしても、さすがは世界に名だたる魔法大国アールスハイド王国最高峰の学院の選抜メンバー。誰一人として弱い方がいらっしゃいませんでしたわ」


 ライラさんがはにかみながらそう言うと、エドガー先輩は「い、いやー、あっはっは!」と、大変ご満悦な顔になっていた。


 ……他の女子先輩方が、虫を見るような目で見ているけど、大丈夫です?


「それで、その……」


 ライラさんがモジモジしながらそう言うので、エドガー先輩はデレデレした顔になっていった。


「はい! なんでしょう!?」

「……特に、御使い様と聖女様の御息女様は、大変素晴らしかったですわ。できれば、御息女様ともご挨拶をさせていただきたいのですけれど……」


 ……あ、私か。


 なんでイースの人たちは私のことを御息女様って呼ぶのかな? 一瞬誰のことか分かんないんだよ。


「あ、はい」


 私に挨拶したいとのことだったので返事をしてライラさんの前に行く。


 エドガー先輩が、愕然とした顔をしたあと、私を睨み殺さんばかりの勢いで睨んできた。


 その後ろでは、女子先輩方が必死に笑いを堪えている。


「ああ! ようやくお会いできましたわ!」


 先輩方に意識を持っていかれていると、ライラさんが私の手を両手で握りしめてきた。


「今日の試合、全て拝見いたしました! 本当に、お二人の御息女としての名に相応しい戦い振りでしたわ!」


 その凄い勢いに、私は思わず引いてしまったが、手を拘束されているので逃げられない。


「あ、あはは……ありがとうございます。でも、パ……父や母に比べればまだまだなんですけどね」


 私がそう言うと、ライラさんはクスッと笑った。


「あのお二人と比べてしまっては、全ての人間がまだまだになってしまいますわ。御息女様は御息女様。どうか、強すぎる光に惑わされず、御自身の道を歩んでください」

「あ、ありがとうございます。それで、あの」

「はい! なんでしょうか御息女様!」

「その御息女様ってやめていただけませんか? 私はシャルロットなので、シャルとでも呼んでくれれば……」


 私がそう言うと、ライラさんは感極まった顔になった。


「な、名前呼びを……愛称呼びを許可していただけるということですか!?」

「許可もなにも、普通に呼んでもらったらいいですから!」


 イースの人って、こういうとこあるよな。


 名前は忘れちゃったけど、昔イースからアルティメット・マジシャンズに派遣されてきていた人で、ママの側付きみたいなことをしていた人がいたけど、その人もママのこと異常なくらい崇めてた。


 幼心に「変な人だ」って思った記憶がある。


「わ、分かりましたシャル様。今日は、私は学年が違いましたので試合をすることは叶いませんでしたけれど、こうしてお目にかかれたこと、非常に光栄に思いますわ」

「あ、そ、そうですか」

「それでは、あまり長居をしてもいけませんので、私どもはこれにてお暇いたします。本日は、お疲れ様でございました」


 ライラさんはそう言って控え室内の皆に頭を下げると、後ろに下がった。


 そして、次の生徒が現れた。


 その生徒とも握手をし、また次の生徒が出て……という謎の握手会が開催された。


 なんだこれ? と思いつつ握手会を終え、イースの生徒が全員控え室からいなくなり扉を閉めると、控え室内は謎の沈黙に包まれた。


「……イースの人って、シン様たちのこと敬いすぎじゃない?」


 イースの人たちの対応を見ていた女子先輩の一人が、ポツリとそう言った。


「っていうか、エドガーも他の男子も、イースの女子生徒に鼻の下伸ばし過ぎ。デレデレして気持ち悪い顔になってたよ?」

「それに、シャルちゃんに嫉妬するのもやめなよ。アンタたち、凄い顔してたわよ?」


 あ、あれ、私に嫉妬してたの?


 私、女子ですけど?


「う、うるさい! せっかくイースの美人とお近付きになれると思ってたのに、ウォルフォードが目当てだったなんて! 悔しいに決まってるだろ!」


 ……そんな理由で睨んでたのかよ……。


 そんな一悶着が最後にあったけれど、とにかく無事に対抗戦は終わった。


 明日から、普通の日々に戻ります。


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