第115話 対抗戦前の約束
初めて行われた各国高等魔法学院対抗戦は、我らアールスハイド高等魔法学院の三学年完全制覇で幕を閉じた。
対抗戦が行われたのが週末だったため、休み明けで学院に行くと、まず代表選手が全校生徒の前で表彰された。
こうやって人前で表彰されるのとか生まれて初めての経験だったので、嬉しいけど恥ずかしいしで、めちゃくちゃ緊張した。
「はぁ、めっちゃ緊張したあ……」
教室に戻ってきて机に突っ伏していると、デビーが近付いてきた。
「へえ、意外。シャルって中等学院時代とか色々と表彰とかされてるのかと思った」
デビーは意外そうにそう言うけど、別に意外でもなんでもない。
「そもそもさ、全校生徒の前で表彰されるのってどんなときよ?」
「そりゃあ、なんかの大会で上位に入ったとか?」
「私、今までそういう大会とか出たことないんですけど?」
「あ、そうか。魔法の対抗戦とか今回が初だもんね。でも、中等学院でマジカルバレー部とか入らなかったの?」
それなー、めっちゃ心惹かれたんだけどなー。
「入りたかったんだけど、あれって魔法のレベルが近い人と組むじゃん? 私と近いレベルってヴィアちゃんとかマックスとかレインなわけ」
「うん」
「そしたら、殿下と練習とはいえ対戦なんてできませんって言われてさ。ならヴィアちゃんが抜けたらって思ったけど……」
「殿下を除け者にするなんて、なに考えてんの!?」
「それ、中等学院でも言われさ。結局、クラブには入れなかったんだよ」
「あぁ……なるほど」
「クラブに入ってないとさ、表彰されるような大会なんて出るとこがないんだよ」
「そういうことね」
「その点、マックスは何回か表彰されてるよね」
私が急に話を振ると、近くにいたマックスは「ん?」という顔をしてこちらを向いた。
「なんの話?」
「今まで、全校生徒の前で表彰されたことがあるかって話」
「ああ。確かに、何回か表彰されたね」
マックスがそう言うと、デビーやレティ、ラティナさんたちが「へえ」と驚いた顔になった。
「え、なにで表彰されたの?」
「ええっと、色々表彰されたけど、一番回数が多いのは創作魔道具のコンテストで入賞したことかな?」
マックスは、ヨーデン留学のときの実習でも分かるように、手先が非常に器用だ。
彼の手から作り出されるものは、非常に綺麗で芸術性が高い。
加えて、幼い頃から工房の魔道具に触れているので魔道具に対する造詣も深い。
はっきり言ってマックスが中等学院生の魔道具コンテストの出品するのはズルだと思うけど、そんな規定はないのでマックスは何度かそう言うコンテストに出品し、当然の結果のように入賞や最優秀賞などを取ってきていた。
そういうのも表彰の対象なので、マックスは意外と表彰慣れしているのだ。
「いやあ、でも、これで対抗戦終わったねえ」
現地で観戦していた人も多かったみたいだけど、全校生徒の前で結果報告と表彰を受けたことで、ようやく対抗戦が終わったという実感が湧いてきた。
「さて、対抗戦が終わったということは、貴女にはやらなければいけないことがありますね?」
私はそう言ってデビーを見た。
レティもニヤニヤしながらデビーを見ている。
デビーは……顔色が白い。
「なんですの? やらなければいけないこととは?」
私たち三人の様子を見て、ヴィアちゃんが首を傾げながら訊ねてきた。
ヴィアちゃんの左手薬指には、婚約の証である指輪が光っている。
婚約発表後に付け始めたものだけど、今回のデビーに課せられたミッションは、いわばこれをゲットしに行くためのものだ。
「えっとね……」
「ちょ、ちょっと待ってシャル! こんな皆の前で言わないで!」
「えー?」
デビーが必死になって止めるので、私は周りを見た。
そこにはSクラス全員が集まっており、私たちの会話に聞き耳を立てていた。
「あー、全員は恥ずかしいか。じゃあ、女子集合」
「……女子には言うのね」
私がヴィアちゃんとラティナさんとイリスに召集をかけると、ヴィアちゃん相手に強くは出られないのか、溜め息を吐きながら諦めてくれた。
そして、三人を集めてコショコショと内緒話。
対抗戦が終わったらデビーがミーニョ先生に告白する、という話を対抗戦の前に言っていた、という話を聞かせた。
「「「えーっ!!??」」」
話を聞いた三人は、期待通りのリアクションをしてくれた。
「それは素晴らしいですわ! デボラさん! 私、全力で応援します!!」
特に前のめりなのが、長年の片思いが成就し、この度婚約まで致したヴィアちゃんだ。
ヴィアちゃんは、恋心が報われない辛さを十分に知っているので、こういう恋をしている人のことを応援したくて仕方ないのだろう。
「えっと……応援していただけるのは嬉しいのですけど……その、先生に圧力をかけたりとかは……」
「そんなことしませんわよ! こういうのは、純粋に思い合ってこそ価値のあるものです。いくら友人の恋を成就させたいと言っても、そんな不正紛いなことをしてまで成就させたくはありませんわ!!」
デビーの杞憂に対し、心外だと憤慨するヴィアちゃん。
ヴィアちゃんは、ただひたすら真っ直ぐにお兄ちゃんにアタックし続けていたもんな。
まあ、ウチには王家の圧力が効かないっていうのもあったんだろうけど……。
「あ、も、申し訳ございません!」
「別に構いませんわ。私、そういったことができる立場ですもの。ただ、私は純愛支持者。お互いが思い合っていないと祝福などできません。ですので、もしデビーさんが振られても、仕方なしと考えますのであしからず」
ヴィアちゃんは真面目な顔をしてそう言った。
「わ、わかりました……」
「それで? いつ告白しますの!?」
デビーが神妙な顔で返事をしたあと、さっきまでの威厳はどこへやら、目を輝かせながらデビーに質問し始めた。
「え、えっと……」
デビーが答えようとしていたそのとき。
「おはよう、皆」
ミーニョ先生が、挨拶をしながら扉を開けて入ってきた。
『きゃあああっっ!!!!』
話題の当事者が突然教室に入ってきたことに驚き、私たち女子組は思わず大きな悲鳴を上げてしまった。
「な、なんだ!? どうした!?」
突然女子に悲鳴をあげられた先生はメチャメチャ驚いた顔をしていた。
「あ、な、なんでもないです」
「申し訳ございません。内緒話をしている最中に先生が入ってこられたものですから、思わず驚いてしまっただけですわ」
私は誤魔化すようになんでもないって言ったけど、ヴィアちゃんはちゃんと説明した。
詳しく言っていないだけで本当のことなので、私たちは真剣に頷いた。
「そ、そうですか。なら早く席に着け。授業を始めるぞ」
『はーい』
男子たちは既に席についていたので、私たち女子も慌てて席についた。
ミーニョ先生の授業が終わり、先生が教室を出て行ったあと、マックスが私の方に近付いてきた。
「何やってんだよシャル」
「いや、まさかもう始業時間だとは思わなかったんだよ」
「それもそうだけど……」
「ん?」
マックスが言い辛そうにしているので、なんだ? と思って首を傾げると、マックスはデビーを見たあと、私の隣に座っているヴィアちゃんを見た。
「さっきの話、全然内緒話になってなかったから。俺たちにも聞こえてたからな」
マックスがそう言うと、ヴィアちゃんは「あら」という顔になり、デビーは顔を真っ赤にし……。
「いやああっ!!」
と絶叫するのであった。
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