第111話 観客席の反応

◆◆◆


 アールスハイドとクルトの一年生の試合が終わったあと、二年生の試合が始まったのだが、観客はそれを見つつも先ほどの一年生の試合について振り返って話をしているものが多かった。


 そしてその中には、まだ試合を行っていない参加国の面々の姿もあった。


 その中で、他の高等魔法学院とは違い、白を基調とした制服を身に纏ったイース高等神学校の姿があった。


「……なんですか、あの魔法は……あんなの、防げるわけないじゃありませんか」


 イースは創神教の本部がある国であり、国の運営そのものを創神教が行っている。


 教皇=国家元首の国である。


 宗教国ということもあり、攻撃的な魔法はあまり得意としておらず治癒魔法や防御魔法を得意としているのだが、ほぼ一撃で魔道具の障壁ダメージを削り切ったシャルたちの魔法に戦慄していた。


「ゲージが残っていれば、そこから全快させることはできるようになりましたけど……一撃で削りきられたらどうしようもありませんわ……」


 今回大会に治癒魔法士として参加している一年の女子生徒が、顔を青くさせながらそう呟いた。


「……正直、貴女たち一年はご愁傷様と思っていたのだけど……二年もヤバイわね。治癒魔法士を徹底して狙ってる……あ、やられたわね」

「なんでこんなに視界が悪い中で正確に魔法が撃てるんだ? 索敵魔法の併用でもしてるのかよ?」


 二年の代表と思われる女子生徒が眼下で繰り広げられている二年の試合を見ながら冷や汗を流す。


 そして、同じく二年の代表と思われる男子生徒が、正確に相手に魔法を当て続けることを疑問に思い始めた。


「いえ。魔法の併用は御使い様とアールスハイドのアウグスト陛下しか使えないと聞いております。彼らは、索敵魔法と攻撃魔法を瞬時に切り替えながら戦っているようですね」


 雰囲気から、三年の代表と思われる女子生徒がそう言うと、他の生徒たちもアールスハイド二年生の動きを注視した。


「……本当だ。あまりにスムーズだったから気が付かなかったけど、途中で索敵魔法に切り替えてる」


 三年と思われる男子生徒がそう言うと、周りで見ていた皆も気付いたようで頷いた。


「魔法大国アールスハイドですから、厳しい戦いは予期していましたけど……御使い様の御息女様があんなにお強いなんて知りませんでしたわ」


 そう言ったのは、イースの代表としてくじを引いた三年の女子生徒だった。


「御使い様の御息女ということは、聖女様の御息女でもあるということ。先ほどは攻撃魔法しか使っておりませんでしたが、治癒魔法も使えると思っておいて良いでしょう」


 代表の女子生徒がそう言うと、周囲は静かになってしまった。


「とにかく、アールスハイドの特徴をよく見ておきませんと。次、当たるのですから」


 そう言って真剣に試合を見る代表女子生徒。


 そのとき、誰も指摘しなかった。


 次当たるのは、アールスハイドではなくダームであることを。


 大方の予想通り、二学年、三学年とアールスハイドが勝利し『一回戦第三試合、イース高等神学校対ダーム高等魔法学院』とアナウンスがされたとき、イースの生徒全員が「あっ!」という顔をした。


 そしてそれは、対戦国のダームも同様であった。


 こうして行われた第三試合は……まさに泥試合だった。


 治癒力と防御力は高いが攻撃力は低いイースと攻撃力はそこそこあるが防御力と治癒力が低いダームは、お互い少しずつダメージゲージを減らしていく。


 その結果、どちらが先にダメージゲージを削り切るかの我慢比べのようになってしまい、見ている観客の中には居眠りをしてしまうものも現れた。


 対戦前は結構な注目を集めていた試合だったが、結局はダメージを受けても治癒できるイースに三学年とも軍配が上がり、準決勝はシードのスイード対カーナン、アールスハイド対イースという組み合わせになった。


 

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