第110話 各国の特色

 一回戦、第一試合は、商人の国エルスと、織物の国カーナンの試合。


 今回初めて行われた各国高等魔法学院対抗戦は、第一試合からとんでもない展開になった。


「なんで魔法使いがそんな筋肉ムキムキやねん!!」

「キモいんじゃボケえっ!!」


 エルス弁でカーナンの生徒を罵りまくるエルスの生徒。


 いや、それはこの会場にいる皆が思ってたよ。


 でも、言い方ってあるじゃん?


 それだと侮辱的な言い方になるって。


 一方で言われた方のカーナンの生徒はというと……。


「うるせえっ! 俺たちは魔法だけ教えてもらってるひ弱な奴らとは違うんだよ!! 羊飼いになるための訓練も受けてるんだ!!」

「だから!! なんで羊飼いがムキムキやねんて!!」


 ごもっとも。


 ごもっともだよエルスの生徒君。


 それは、会場中の誰もが……。


「魔法だけ習っているお前たちに、俺たちが負ける道理などない!!」

「はあっ!? 俺らやって魔法だけ習ってるんとちゃうわ!!」


 お? エルスの高等魔法学院って、魔法だけじゃなくて体術も教えてるの?


 初耳なんだけど。


「魔法だけやなくて、商売のことも教えてもろとるわっ!!」


 ……。


 いや、それって……。


「戦闘に関係ないではないか!!」

「その通りやーん!!」


 試合は結局、カーナンの生徒がその身体能力を使って試合会場中を駆け回り、それにエルスの生徒が翻弄されてしまい、あっけなくカーナンの勝利で決着した。


 私たちは試合中、ずっと笑いを堪えるのに必死だった。


 だって、当の本人たちは凄く真剣に試合をしているんだもの。


 馬鹿なセリフを吐きながら真面目に試合。


 笑うでしょ。


「はぁっ! はあっ! く、苦しかった……」

「私、何回自分の太腿を抓ったことか」

「わ……ふ、私も……」


 笑いを堪えるため奥歯を噛み締め続けて疲れ果ててしまった私と、笑わないようにするために太ももを抓って涙目のデビー。そして、レティは笑いを堪えられていなかった。


「はぁ……いきなりあんな試合するのやめてほしいわ。次、私たちの試合なんですけど」

「もう。これで普通の試合をしたら、観客がつまらないって思っちゃうじゃない!」

「いやデビー。ウケを狙いに行こうとしないでね?」

「しないわよ!」


 ちなみに、これは一年生の試合。


 次に二年生、三年生と続いていく。


 結局、エルスVSカーナンはカーナンが全学年勝利した。


 そして、次の試合が私たちアールスハイドとクルトの試合。


 クルトは、小麦の生産量世界一の食料大国。


 授業で習ったけど、食料自給率が何百%とかで、外国にたくさん輸出できるくらい食料がたくさんある。


 そのため、国内では食糧の値段が他の国と比べてだいぶん安い。らしい。


 だからなのかは分からないけど、代表選手の皆さんの体格が非常によろしかった。


 男の人はまあ、なんていうか、ふくよか? って感じなんだけど、女の人がね。


「……」

「シャル。人を殺しそうな視線してるよ」


 デビーに指摘されて、私はその女子生徒を睨んでいることに気付いた。


 無意識だったわ。


 男の人はふくよかな体型をしていたんだけど、女の人は超グラマラスだった。


 ……え?


 これから試合するから、一年よね?


 一年でそんなに差が出るもんなの?


 私は、クルトの女子生徒を見たあと、自分の体を見下ろした。


 溜め息しか出なかった。


 そんな様子を見ていたクルトの女子生徒は……。


「ふっ」


 と鼻で笑った。


『それでは、一回戦第二試合、アールスハイド高等魔法学院対クルト高等魔法学院の試合を始めます! 両校開始位置に!』


 アナウンスに従い、私たちは開始位置についた。


『それでは……第二試合、始め!」

「おおぉらあぁっっ!! 吹っ飛べやああっっ!!」


 私は、開始の合図と同時に初手で大魔法を使った。


「うわっ!」

「きゃあっ!」


私の放った魔法は、クルトの生徒までは届かず、手前に着弾。


 大量の土砂を巻き上がらせた。


「ちょっ!! いきなりなにしてんのよアンタは!!」


 デビーはそう言いつつも私が放った魔法に合わせて動き出す。


「ふぅ〜っ! ふぅ〜っ!」

「落ち着いてシャル。デビーの後を追わないと怒られるよ。色んなところから」

「行って来ます!」


 大きな魔法を放って息を整えていたところ、レティから恐ろしいことを言われたので慌てて土煙の舞う戦場に向けて走り出した。


「ちょっと! なにも見えないんですけど!?」

「と、とりあえず魔法を撃つか障壁をはるかしないと!」

「ど、どっちか……わあっ!?」


 突然のことに動揺しているクルトの生徒の一人に対して魔法を放つ。


 自分の障壁を張る前だったので、魔道具の障壁が発動。


 ダメージが入った。


「うわっ! めっちゃゲージが下がった! 治癒頼む!」

「わ、分かったわ!」


 ふむ。


 どうやらあの女子生徒が治癒師らしい。


 なら……。


「治癒する……え? きゃああっっ!!」

「うわっ! 『ビー』 え? ええ!? 一撃でゲージがゼロ!?」

「はあっ!? おい! 回復役どうすんだよ!?」

「知らねえよっ!! 大体、一撃でやられてんじゃねえよ!」

「なんですって!?」


 あらら、仲間割れが始まってしまいましたな。


 なら、この機を逃さないようにしましょう。


『デビー、レティ、一斉攻撃。ただし、回復役の子、魔道具切れてるから巻き込まないようにね』 

『『了解』』


 つい先日、リンせんせーから教えてもらった特定の相手にだけ声を届ける魔法で、デビーとレティに連絡をした。


 やっぱり、この魔法、戦場でメチャメチャ役に立つよ。


 こうして仲間割れをしているクルトと違い、私たちは三人で意思疎通を行い、索敵魔法を駆使してリタイアした治癒魔法師だけは狙わないようにして一斉攻撃をかけた。


「だいたい! ……え?」

「なんだよ!? ……は?」

「う、うそ……ちょっと待って! 私はリタイアよっ!! そんな魔法死んじゃうぎゃああっ!!」


 リタイアしたとはいえまだそこに留まっていた女子生徒は、魔法に気付き逃げ出そうとするも、着弾した魔法の余波を思い切り食らい、転がっていった。


 余波だし、直接当てないように気を付けたので、問題ないと思う。


 うん。


 そして、残りの男子二人なのだが、こちらはさっきの魔法集中攻撃で無事に障壁を削りきったらしい。


『『ビー』』という二つの音が聞こえて来た。


『クルト三名リタイア! 勝者、アールスハイド!!』


 その後すぐに、私たちの勝ちを知らせるアナウンスが響いた。


「やった! 一回戦突破!」


 そのアナウンスを聞いて、私は小さく両拳を握った。


 するとデビーが私のお尻をペチンと叩いた。


「ひゃん!」

「やったじゃないわよ。なによ最初の特攻。あんなの聞いてないんですけど?」


 デビーがジト目になりながら文句を言ってきた。


「あー、なんか、クルトの女子見てたら攻撃衝動が抑えきれなくて……」

「……」


 デビーはクルトの女子を見て、私を見て、もう一度クルトの女子を見て、少し上を向いたあと、私の肩にポンと手を置いた。


 そして私に悲しげな表情を向けてきた。


「シャル……諦めも肝心だよ」


 なんてことを言うんだこいつは!?


 私はママの娘だぞ!?


 ボインボインでグラマラスなママの娘だぞ!


 希望は……希望はあるんだからね!


「うるせえ!」

「痛ったあ!!」


 悔しくなった私は、デビーのお尻を叩き返して、その場から走り去った。


 ちなみに、そのデビーとのやり取りの様子は試合会場の人たちに見られていたようで、ママからめっちゃ怒られた。


 ちくしょうめ……。


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