第109話 対抗戦が始まる

 各国高等魔法学院対抗戦当日。


 対抗戦の場所は、旧帝国の首都があった場所に作られた特別会場。


 学院内の魔法練習場の何倍も広い場所に、自然の地形を再現した会場が用意されていた。


 そして、その会場をグルリと囲むように観客席が設けられている。


 その観客席の前には魔法障壁が張られるようになっていて、万が一にも客席に被害が及ばない設計になっているそう。


 この会場の全ては魔法で作ったらしい。


 すご。


 この現地までは、アルティメット・マジシャンズの人たちがゲートで輸送してくれた。


 ウチはリンせんせーが臨時講師なのでリンせんせーが送ってくれた。


 ちなみに、アルティメット・マジシャンズのオリジナルメンバーと呼ばれる十二人の誰かに送ってもらったのはウチだけらしく、他の国の生徒は別のメンバーが送ったらしい。


 なんか、それも含めて恵まれてんなウチ。


 ちなみに一般の観客は、この対抗戦のチケットを持っていれば格安で飛行艇に乗せてもらえることになっていて、遠いし飛行艇代も高いからと諦めていた人たちはこぞってチケットを買い求めたらしい。


 おかげで、馬鹿でかい観客席は満席になるらしい。


 マジかよ。


「旧帝国の帝都なんて初めて来たわ」


 ゲートを出たところでデビーがそう言い、レティもそれに同意して「うん」と頷いていた。


「まあ、ここはアールスハイド国内だけど王都から遠いもん。気軽に来れるところじゃないよね」

「シャルは来たことあるの?」

「あるよ。っていうか、毎年来てるし今年も来た」


 私の言葉に、デビーとレティは驚いた顔をした。


「え? なんで? ここってそんな名所とかあったっけ?」

「ああ、違う違う。この旧帝国帝都にね、お兄ちゃんの実のお母さんのお墓があるの。その人を看取ったのがパパとママだから、毎年命日にお墓参りに来てるんだよ」


 私がそう言うと、デビーとレティはお兄ちゃんの出自を思い出したのか、気まずそうな顔をした。


 聞いちゃいけないことを聞いたとか思ったんだろうな。


「別に気にしなくていいよ。お兄ちゃん曰く、全く記憶がないから実の母親だって言われても実感がないんだって。むしろ、パパとママの方が来たがってる感じかな。なんせ、その人のこと看取ってるから」

「そっか……書籍ではその辺の描写ってすごくアッサリと書かれてるけど、実際は色んなドラマがあるんだろうね……」


 そう言うデビーの顔は、気まずそうと言うより、悲しげに見えた。


 記憶に無いとは言っても、実際にお兄ちゃんの実のお母さんは亡くなってるからね。


 そういや、昔、お兄ちゃんにはママが二人いてずるいとか言ってた気がする。


 懐かしいな。


 そんな話をしながら、会場に入り、控え室に案内された。


 控え室で三学年そろって待っているときに、ふと思いついたことがあって先輩に聞いてみた。


「そういえば、開会式の前に他の国の代表に挨拶とかしといた方がいいんですかね?」


 私がそう言うと、先輩たちは首を横に振った。


「いや、別にいいだろ。マジカルバレーやマジコンカーレースみたいな競技じゃなくて、戦いの大会なんだ。向こうもピリピリしているだろうし、戦い前に余計なトラブルを生むんじゃないか?」


 あー、それもそうか。


 戦闘前で昂ってるのに、挨拶とか行ったら煽ってるとか思われそう。


 先輩の言葉は尤もだと思い、私たちは対戦国の控え室には行かず、自分たちの控え室で開会式までを過ごした。


 係の人が開会式の時間だと知らせに来てくれて、その係の人の案内で開会式へと向かう。


 開会式は、今回試合が行われる会場で行われる。


 指定された場所で、学年ごとに三人で三列に並ぶ。


 アールスハイドは一番端。


 そこから順番に、スイード、ダーム、カーナン、クルト、エルス、イースの順番で並ぶ。


 チラッと横目で各國の代表を確認してみると……。


 ……隣の、スイードの人しか見えなかった。


 そのスイードの人なんだけど、その人たちは全員こちらをガン見してきていた。


 え、私はチラ見だったのに、そんなガン見してくんの?


 こわ。


 慌てて視線を前に移すと、この対抗戦の主催者の挨拶が始まるところだった。


 というか、パパだった。


 拡声魔法によってパパが紹介されたとき、満員に埋まった観客席から地鳴りのような歓声があがった。


 うわお、パパってマジで人気者なんだ。


『えー、改めまして、この対抗戦の運営を任されました、アルティメット・マジシャンズ代表のシン=ウォルフォードです』


 そこでまだ大歓声。


『あー、ありがとうございます。それで、今回この対抗戦をすることになった経緯なんですけど、皆さん、毎日魔法の訓練をする中で自分がどれくらいの立ち位置にいるか知りたくなったことはありませんか?』


 パパの問いかけに、隣のスイードの人たちは神妙な顔で頷いている。


 よく見ると、アールスハイドの先輩たちもそうだった。


 ステージ上から皆の反応を見たパパは、うんうんと頷いていた。


『うんうん。そうだろうね。自分が今どれくらい強いのか知りたいよね。でも、今まではその実力を人間相手に試すことは危なくて出来なかった。けど、私としては学生さんたちには学生のうちに是非戦闘経験を積んで欲しかった。そこで、今回それを実現させるための魔道具を作りました』


 パパがそう言うと、会場中から『おお』という声が響く。


『今回は各国に一校しかない高等魔法学院に参加を絞ったけど、将来的には各国内にある魔法学院で国内予選を行い、総合優勝した一校が世界大会に出場できるようにしたいと思う。だから君たち』


 パパはそこまで言うと、ニヤッと笑った。


『うかうかしていると、いつの間にか足下掬われるぞ?』


 その言葉のあと、会場中がピリッとしか空気に包まれた。


『そういうわけなので、この後の試合は全力を出し切ってくれることを期待します。じゃあ、私の挨拶はこれで。皆、がんばれ』


 パパはそう言うと、飄々とステージを降りて行った。


 はぁ、本当に場慣れしてるんだな。


 こんなに一杯のギャラリーに囲まれてるのに、ステージ上のパパはいつも通りのパパだった。


 パパの挨拶が終わったあと、各校の代表による組み分け抽選が行われた。


 アールスハイドを合わせて七校あるから、一校がシードで、残りの六校で一回戦を、その後勝ち進んだ三校とシードを合わせた四校で準決勝、決勝と行われる。


 各校三年生が代表となり、ステージ上でくじを引いていく。


 シードになったのはスイード。


 一回戦第一試合はエルス対カーナン。


 第二試合は私たちアールスハイド対クルト。


 第三試合はイース対ダームになった。


 ここで注目なのは、イースとダームが当たったこと。


 ダームはイースの属国になっていた時期があるから、萎縮して力が出せないのではないか? いや、イースは治癒魔法士は優秀だが攻撃魔法士が力不足なので危ういのではないか? などなど、色んな予測が飛び交った。


 組み分け抽選も決まり、いよいよ各国高等魔法学院対抗戦が始まった。


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