第108話 直前に言うのはやめてよ
ヴィアちゃんの婚約お披露目が行われた翌日以降も、私たちの訓練は行われた。
全員が戦闘中に索敵魔法を使えるようになっていたのにも関わらず、やっぱりリンせんせーには敵わず、ボコボコにされたりしながら訓練を続ける。
そして、いよいよ明後日が本番となり、訓練は今日が最終日となった今日……。
「あ」
「あ」
私の目の前で、リンせんせーの装着している魔道具による障壁が、私の魔法を遮った。
ということは……。
「やられた。一撃入れられてしまった」
リンせんせーに一撃加えられたということだ!
「や、やったああっ!!」
この場にいる選抜代表メンバー全員が雄叫びをあげた。
だって、リンせんせーはアルティメット・マジシャンズでも上位にいる魔法使い。
つまり、世界の頂点の一人なのだ。
その人に、訓練とはいえ一撃入れられたのだ。
私や皆が興奮してしまってもしょうがないだろう。
「やったぞ! これで、明後日の対抗戦、絶対優勝できる!」
「ね! 絶対いけるよコレ!!」
先輩たちも大興奮だ。
そんな中、突然リンせんせーが話しかけてきた。
「皆、おめでとう。よくやった、凄い」
『はい! ありがとうございます!!』
「ただ、皆に謝らないといけないことがある」
? 謝らないといけないこと?
「なに? リンせんせー」
「明後日からの対抗戦は、学年ごとのチームによる戦い。全体での戦闘はない」
……あ。
「その訓練をしていない。マジ、ごめん」
『ああああああああっ!!』
皆も気付いて、思わず絶叫をあげてしまった。
そうだよ!
リンせんせーに皆で一撃入れることに固執しすぎて、その試合形態のことすっかり忘れてたよ!
「ちょっ! デビー! レティ! 至急作戦会議!!」
「わ、分かった!」
「うん!」
私たちが一年の代表で集まると、二年と三年の先輩たちも各々集まって会議を始めた。
「ヤバイ、マジでどうしよう?」
「どうしようって……だってもう時間ないよ? 明後日のために疲労を残すようなことしちゃいけないから明日訓練とか無理だし……」
私とデビーがマジで焦っていると、レティが一人だけ落ち着いた声で私たちに話しかけてきた。
「別に焦らなくてもいいんじゃない? 相手が一人から三人に増えるけど、リン先生ほどの人なんていないでしょ」
「「あ」」
「一緒に戦う人が少なくなるだけで、さっきまでの戦い方でいいと思うよ? 魔法を撃つ、索敵魔法で相手を確認、また撃つ、の繰り返し。私は、二人の位置を確認しながら、遠方から魔法攻撃。二人の魔道具のゲージが減っていたら回復しに行く。それでいいよね?」
レティの、意外と言っては失礼だけど、冷静な言葉によって頭が冷えた私たちは、この局面で冷静でいられたレティを尊敬の目で見た。
「レティ……凄いよ……」
「本当だね……あ、レティ!」
私の言葉に賛同してくれたデビーが、ハッとした顔をしてレティの名を呼んだ。
「なに?」
「当日さ、レティは後方支援だよね?」
「うん」
「だったらさ、後ろから私たちに動きの指令出してくれない?」
「あ、いいねそれ! レティ、後方司令官やってよ!」
「え? え? わ、私が?」
「そう! 後ろからの方が全体見やすいじゃない? レティが適任なんだ。頼むよ」
デビーは両手を合わせて頭を下げながらそうお願いした。
「私からも、お願いします!」
なので私もデビーと同じ格好をしてお願いしてみた。
「わ、分かったよう。でも、いきなりは心配だから、ちょっとだけでも練習していい?」
「「もちろん!!」」
私とデビーはそう言うと、二人揃ってリンせんせーの元へと走った。
「リンせんせー! リンせんせー!」
「はい、なんですかシャル」
「私たち三人と一戦お願いします!」
「おっけー。じゃあ、やろうか」
リンせんせーはそう言うと、練習場の真ん中にスタンバイした。
「よーし。じゃあ、さっきデビーが提案したように、私とデビーが前線。レティは後方から指示出しね」
「分かった」
「はい」
「よーし。それじゃあ……いくよ! リンせんせー!!」
「おう」
私たちとリンせんせーの温度差が非道いけど、まあいいや。
よーし、それじゃあ……。
「おりゃあ!!」
「いけえ!!」
私とレティが魔法をぶっ放す。
すると、レティから「右側に移動した!」と声が聞こえた。
「右!」
そちらに視線を移すと、その右側から魔法が飛んできた。
「うわっ! はやっ!!」
なんとかギリギリ避けられたけど、レティの指示がなかったらダメージ食らってた!
「レティナイス!」
「おりゃあ!」
私とデビーは、レティに礼を言いつつリンせんせーに魔法を放った。
「ほう」
その魔法はリンせんせー自身の張った障壁によって遮られたけど、感嘆の声を出させることはできた。
「中々考えられている。けど、こうしたらどうする?」
リンせんせーはそう言うと、私たちの周り目掛けて魔法を撃ってきた。
私たちから射線がズレているので、特に避けずにいたんだけど、それが仇になった。
「!! 着弾音がっ!」
「……! ……!!」
「え!? なんて!?」
魔法の着弾音が大きく、レティの声が聞こえなくなってしまった。
デビーが慌ててレティに聞き返しているけど、レティの声は中々聞こえてこない。
すると……。
「とてもいい作戦。だけど、一つのことに固執するのは悪手」
「「え?」」
私たちが気付いた時には、リンせんせーが目の前にいた。
もう、魔法はいつでも放てる状態で。
「おつかれ」
「「いやあっっ!!」」
リンせんせーの魔法が放たれ、私たちの魔道具のゲージが一瞬でなくなった。
「はい。ここまで。フラウもこちらに集合」
リンせんせーに終了を宣言されたので、レティは残っていたけど戦闘終了になってしまった。
「あー、ダメだったかあ」
「いや。作戦自体はとても素晴らしい。ただ、それが通用しなかったときにすぐ別の作戦に切り替えなかったのが失敗。指令役の声が聞こえなかったら自分で索敵魔法を使うように」
「あ、そっか。焦りすぎて自分で魔法使うの忘れてた……」
「あー、もう! なんでそんなこと忘れちゃったのよ私!」
リンせんせーに指摘されて、落ち込む私と自分に怒るデビー。
「それと、フラウは二人の周りで大きな音が鳴っても声を届ける魔法を覚えるのもいいかもしれない」
「え……もう明後日試合なんですけど……」
「そんなに難しくない。コツさえ覚えればすぐにできる。どうする? 覚える?」
「覚えたいです!」
「分かった。じゃあ、フラウはこっちに来て。シャルとウィルキンスは、二年と三年に今やった作戦のこと言ってきて」
「はーい」
「はい!!」
リンせんせーの指示通り、私は二年の選抜隊に、デビーは三年の選抜隊に今の一連の流れを説明した。
すると、さすが二年と三年、もうその作戦は立てていて、レティがリンせんせーに周りがうるさくても声を届けられる魔法を教えてもらえることになったと説明した途端、回復役の人がリンせんせーのもとに走って行った。
「さて、これで攻撃隊だけが残ったんだけど、どうする?」
男子の先輩が女子の先輩にそう言うと、女子の先輩は肩を竦めた。
「どうもこうも、指令と回復役のあの子がいないんじゃ訓練にならないでしょ。戦い方自体は、ウォルフォードさんたちが見せてくれたし、私たちはもう終わりでいいんじゃない?」
「そうだな。ウォルフォードさんたちはどうする?」
「どうしようかなあ。とりあえずリンせんせーに聞きに行きます?」
「ええ」
「そうだな」
ということでリンせんせーのもとに向かうと、三年の人も同じ行動を取っていた。
「リンせんせー。私たち、どうしたらいい?」
「ん? この子たちが魔法覚えるまでやることない。終わってもいい」
もう終わりか……なら。
「ねえ、私もその魔法教えてもらっていい?」
「いいよ。こっちおいで」
「やった」
周りがうるさくても聞こえる魔法って、気になってたんだよね。
パパはそんな魔法、教えてくれなかったし。
そして、どうやらその魔法に興味を持っていたのは私だけではなかったようで、他の人たちも全員教えてもらえることになった。
魔法自体はそんなに難しいものではなく、聞かせたい相手に向かって空気の道を作ってそれに音を乗せる感じ。
これって、レティだけじゃなくて、私たちが覚えてた方がいいやつじゃん。
なんでリンせんせーは言ってくれなかったんだ?
「リンせんせー。これ、私たちも覚えてた方がいいやつじゃん。なんで教えてくれなかったの?」
「……」
私が言うと、リンせんせーは空中を見つめた。
「忘れてた」
『……』
忘れすぎだろ。
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