第104話 家族団欒の場所がおかしい
「っはあっ!! はあっ!!」
魔法訓練場である荒野で私は荒い息を履いて四つん這いになった。
対人戦の最中に索敵魔法を使えるようになれ。
リンせんせーから出されたこの課題をクリアするための相手をお兄ちゃんにお願いしたのに、ヴィアちゃんが体調不良になったとのことでお見舞いに行ってしまった。
代わりに相手をしてくれたのはパパとママ。
ちなみに、ママは最初にお手本を見せてくれただけで後は見学している。
私が怪我をしたり、万が一のために備えているのだそう。
対人戦用の魔道具があるのに、なんで怪我をするのかというと、ここは学院外なので対人専用魔道具が使えないからだ。
パパが作ったんだからパパだったら使ってもいいんじゃない? と思ったんだけど、それは特別扱いになるからダメと言われた。
結果どうなったか?
「ちょっと休憩しようか。シシリー、シャルを回復してあげて」
対人戦用魔道具の使用なしで、パパと対人戦をさせられたのである。
リンせんせーとの魔道具なしでの対人戦に恐怖を覚えていたけど、それどころの話じゃなかった。
世界最強の魔法使いであるパパとの対人戦。
何をやっても通用しない。
何をやっても防げない。
絶望である。
とは言っても、これはあくまで訓練。
ご丁寧に、索敵魔法を使わないと私が魔法を当てることも、パパからの魔法を防ぐこともできない状況を絶妙に作り出してくれた上で、私に直撃しても大怪我しない程度の威力に抑えられた魔法を使ってくれる。
極限まで手加減された上でボロボロにされた私は、ママの治癒魔法を受けていた。
「大丈夫? シャル」
「はぁ……ママの治癒魔法、気持ちいー」
「怪我は手足だけですね。身体とか頭には怪我はありませんね」
「まじで?」
極限まで手加減してくれていたと思っていたけど、私に魔法を当てる場所まで加減していたなんて……。
「パパ、マジでどうなってんの?」
ママの治癒魔法を受けながら、水を飲んでいるパパに向かってジト目を向けてしまう。
「はは。こう見えても実戦経験は豊富なんでな。それくらいはできるさ」
「むぅ」
パパは間違いなくこの世界の魔法使いの頂点だ。
あまりにも遠い頂きを見せつけられて、私は思わず口を尖らせてしまった。
「拗ねるな拗ねるな。パパたちはシャルが生まれるずっと前から魔法を使ってきてるんだ。シャルより上手くて当然だろ?」
「そうだけどお、なんか高等魔法学院に入ってから実力差を見せつけられることが多いんだもん。自信無くしちゃうよ」
そうやって拗ねる私のことをママも苦笑して見ている。
「ほら、終わりましたよ。シャルも水分を摂って少し休みなさい」
「はーい」
ママから水筒を手渡され、広げたシートの上で休憩する。
パパとママもシートの上で休憩だ。
さっきまで魔法をドッカンドッカン撃ち合っていたとは思えないほどのんびりした時間。
「はぁー、こうやってのんびりするのも久しぶりだなあ。どうせなら、他の子供たちも誘ってやれば良かったな」
「元々、今日はシャルの訓練でしたからね。他の二人はまた今度誘いましょう」
「ママ、ママ」
「なんですか?」
「ちょっと横になりたい」
私がママにそう言うと、ママは一瞬呆れ顔をしたが、すぐに自分の太腿をポンポンと叩いた。
私は、間髪入れずにそのママの太腿に頭を乗せた。
「まったく、高等学院生になっても甘えん坊なんですから」
そんなことを言いつつも、私の頭を撫でてくれるママ。
「えへへ」
「はは。本当に大きな子供だな」
「ふふん。パパ、羨ましい?」
「娘相手に嫉妬するわけないだろ。それに、お前たちの知らないところでイチャイチャしてるから全然平気」
「……ちっ」
娘とはいえ、ママの膝枕を奪われたパパが悔しがると思ってそう煽ってみるが、凄い反撃を食らった。
「もう、そういうことを子供の前で言わないでください」
「はは、ごめんごめん」
「もう」
本当に、この両親はいつまで経っても仲がいい。
ママに頭を撫でられ、ぼんやりしだした頭で考える。
パパとママみたいに、何年経っても仲良し夫婦でいられる人に出会える確率ってどれくらいのものなんだろう?
私にも、いつかそういう人が現れるのだろうか?
どうなんだろうな……。
……。
すやぁ。
◆◆◆
「ん? あれ? おーい、シャル」
「……スゥ」
「あら。眠ってしまいましたね」
「ったく……まあ、今の子には厳しい訓練をしちゃったから疲れたのかな? それにしても、随分大きくなったと思ったけど寝顔は昔のままだな」
「ふふ、本当ですね。こうしていると可愛らしいのですけど、なんで起きているときはあんなにお転婆なのかしら?」
「まあ、それがこの子の個性なんだろ。シルバーは真面目で勤勉。シャルはお転婆。ショーンは優しくてのんびり屋だ」
「ふふ、そうですね。皆、元気に大きくなってくれて本当に良かったです」
シシリーはそう言うと、眠っているシャルロットの頭を撫でた。
くすぐったかったのだろうか、シャルロットは身を捩ってシシリーの太腿に顔を擦り付けた。
そんなシャルロットを見て、シシリーはクスクスと笑った。
「まるで大きな猫みたいね。気まぐれで、お転婆で、怒られるとシュンとして、眠っている姿は可愛い」
「はは、本当にこの子は見ていて飽きないよ」
シンはそう言うと、眠っているシャルロットの頬をツンツンと突ついた。
すると今度は煩わしかったのか、顔を顰めて「むぅん……」と唸った。
「もう、悪戯しちゃダメですよシン君」
「ごめんごめん。それにしても、やっぱり他の子も連れてきてあげれば良かったな。たまにはこういう時間も悪くない」
「そうですね。でも……」
シシリーはそう言うと辺りを見渡した。
「ん? どうかした?」
「そのときは、もうちょっと景観の良い場所にしましょうね」
辺り一面の荒野を見て、シシリーは苦笑しながらそう言った。
「そりゃごもっともだ」
そう言って二人は笑い合うのだった。
ちなみに、その後一向に起きないシャルロットをシシリーが頬を抓って起こし、荒野にシャルロットの悲鳴が響き渡るのだった。
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