第100話 言葉は大事

 あの後、ママに話を聞きに行くと言った二人は、本当にママに恋愛相談をしていた。


 二人を追ってリビングに行った私も一緒に聞いていたけど、ママも恋愛経験はパパ一人しかいないので、デビーの求めるような答えはもらえなかった。


 そもそもママとパパは同級生で、デビーが抱えてるような問題はなかったから参考にはならないよなあ。


 結局、生徒と教師の恋愛については自分も、周りの誰も経験したことがないということで、それに関しての建設的な意見は聞けなかった。


「生徒と教師がどこまで親密になっていのかは分かりませんので、それについてはアドバイスできませんねえ……」

「そう、ですか……」

「ただ……」


 ママはそう前置いた後、自分なりの恋愛に関する考えを教えてくれた。


「少なくとも、想いは言葉にしなければ相手には伝わらないものなのですよ?」

「そう、ですか……?」


 デビーはママを見ながら首を傾げた。


 まあ、普段から特に言葉を交わすことなくイチャイチャしているパパとママを見ていればそんな反応になるよね。


 私もなった。


「もちろんです。実例を挙げますと……」


 ママは真面目な顔をして話し出した。


「私とシン君は、お付き合いをする前、周りから見たら両想いで間違いないと思われていたそうです」

「「わぁ」」

「うへぇ」

「ん?」

「ひっ!」


 デビーとレティはママの話が聞けて嬉しそうだけど、私からしたら実母の恋愛話なんて聞いていられねえ。


 そんな私に笑顔で圧をかけつつ、ママは続きを話した。


「そんな私たちでしたが……実はシン君が私に告白をしてくれるまで、私たちはお互いがお互いのことを好きなのだと……思っていなかったんです」

「「「えええっ!?」」」


 はあっ!?


 あのラブラブ夫婦が!? なんの冗談!?


「本当ですよ。シン君は『山奥から出てきたばかりで右も左も分からない自分のために、私が優しくしてくれているのだと思っていた』と言っていたましたし、私も、当時少し困ったことになっていて『シン君は友人が困っているのを見過ごせない優しい人だから、私に優しくしてくれている』のだと思っていました」

「「「へえ〜」」」


 これは、娘の私も初めて聞いた。


「ですから、シン君から好きだと言われたときの幸せな気持ちは、二十年近く経った今でも鮮明に覚えています」


 そう言って幸せそうに微笑むママは、私から見ても綺麗に見えた。


「想いは言葉にしないと伝わらない。思わせぶりな態度を取って、相手に察してください、というのだけは止めた方がいいですよ?」

「は、はい……」

「まあ、先生に想いを告げるのが正解かどうかは分かりませんが……」


 確かに、それは分かんないよねえ。


「シャルも、マーガレットさんも、言いたいことがあるなら口に出して言わないと何も伝わりませんから、覚えておいてね」

「はい!」

「はーい」


 レティは元気に返事をしていたが、私は誰かを好きになったことがまだないので生返事を返した。


 私が好きになる人が現れる時って、来るのかな?



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