第97話 おやおやおや?

「うぁ〜」


 皆がお見舞いに来てくれた翌日、ママからの許可が出た私は学院に登校することができた。


 できたのだが、私は朝から机に突っ伏してグッタリしていた。


「あら、シャル、どうしましたの? もしかして、まだ体調が悪いのでは?」


 ヴィアちゃんが机に突っ伏している私を見て心配そうに声をかけてきたけど、私がこうなった原因はアンタなんだよ!


「あー、大丈夫。ママのお墨付きはもらってるから」

「そうですか。おばさまがそう仰っているのなら問題ないですわね。それならどうしてこんなに疲れているのです? 夜更かしでもしましたか?」


 夜更かしはしてないけど、延々と惚気話を聞かされたダメージがデカくて、疲れが取れてないんだよおっ!


「は、はは。気にしないで。本当に大丈夫だから」


 本当は私の疲れの原因であるヴィアちゃんに文句の一つも言いたいところだけど……ヴィアちゃんがお兄ちゃんと恋人同士になれるまで、それはそれは長い道のりを要した。


 私は、その長い期間ずっとヴィアちゃんに寄り添っていた。


 ヴィアちゃん……本当に悩んでいたからなあ。


 二人で同じベッドで寝て、何回ヴィアちゃんの涙を拭ったことか……。


 そんなヴィアちゃんの念願がようやく……本当にようやく叶ったのだ。


 幸せそうなヴィアちゃんを止められるはずがないじゃない……。


 ただ、できれば加減してもらえるとありがたいんだけどなあ。


 不思議そうな顔をしているヴィアちゃんを見ながら、できれば今後加減を覚えますようにと念じていると、教室にレティとデビット君が入ってきた。


「おはようシャル。昨日も送ってくれてありがとね」

「あ、レティ、おはよ。いつも言ってるけど、気にしないでいいよ」


 レティは、私の家で訓練をしたあといつも車で送っているのだけど、その度に翌日お礼を言ってくれる。


 律儀だけど、毎度のことだから気にしなくていいのに。


「あ、シャルロットさん。僕からも、昨日は送ってくれてありがとう」

「デビット君まで。本当に気にしなくていいのに」


 私がそう言うと、デビット君とレティは顔を見合わせ、なぜか頷き合った。


「昨日さ、マーガレットさんと同じ車で送ってもらっただろ? そのときに気付かされたんだ。これはウォルフォード家が善意でしてくれていることなんだから、これを当たり前だと思っちゃいけないって」

「そう?」


 友達のことなんだから、別に気にしなくてもいいと思うんだけどな。


 それより、私には気になることがあった。


「なんかさ、レティとデビット君、仲良くなってない?」


 私がそう言うと、レティとデビット君はまた顔を見合わせて、今度は微笑みあった。


 ほらあ、やっぱり昨日より仲良くなってるって。


「昨日ね、デビット君と一緒に地元のお菓子屋さんに行ったんだ」

「僕たち、実家が意外と近くてさ、思い出話をしてたら子供の頃に通ってたお菓子屋が同じだったんだ。それで久しぶりにそのお菓子屋に行きたくなっちゃって、それで昨日帰りに一緒に行ったんだよ」

「へえ。じゃあ、二人は子供のころ、そのお菓子屋さんで会ってたかもしれないってこと?」

「それは分かんないな。学区が違って学院は別だったから、マーガレットさんのこと全然知らなかった」

「私も、デビット君のこと知らなかったな」

「あ、そうだ。マーガレットさん、今度は別の店に行ってみない?」

「いいね!」


 ……おやおや? この雰囲気は……。


 それよりもさっき……。


「ねえ、さっき二人一緒に教室入ってきたよね? もしかして一緒に来たとか?」


 私がそう訊ねると、レティとデビット君は二人揃って曖昧に笑った。


「実は使ってるバス停も同じだって昨日初めて知ったの」

「え? 今更気付くこととかあんの?」


 もう入学して五ヶ月経ちますけど?


「あはは。僕はいつもギリギリのバスで登校してたからね。時間が合わなくて会ったことなかったんだ。で、昨日同じバス停使ってるって聞いて、それならバスの時間を合わせた方がお互い退屈しないで済むかなって話になってさ」

「今日は同じ時間のバスに乗ってきたの」


 あら? あらあらあら?


 昨日は程々にあったレティとデビット君の距離が、一日でスンゲエ縮まってない?


 もしかして、またしてもカップル誕生?


 そう思ったのは私だけではないようで、ヴィアちゃんもデビーもニヤニヤしている。


 そんな私たちを見ているアリーシャちゃんは呆れ顔、イリスとラティナはワクワクした顔で二人を見ていた。


「……ちょっと。変な顔しないでくれる? シャル」

「そうだよ。一人でバスに乗ってる時間って、結構退屈なんだぞ。話し相手がいるのって結構貴重なんだ」

「そうだよ」

「へえ」


 デビット君がなんか言い訳してるけど、私たちのニヤニヤは止まらない。


「もう、すぐそういう話に繋げるんだから」


 レティが珍しくプリプリとした表情をしている。


「それより、今日の放課後からチーム戦の連携訓練なんだからね! そんな話ばっかりしてたら、本大会だって負けちゃうよ?」

「え? そうなの?」


 初耳なんですけど?


「あ、ごめんなさいシャル。昨日言いそびれていましたわ。今日から、シャルとデボラさん、マーガレットさんの代表組で訓練をするそうなんですの」

「そうなんだ。じゃあ、今日からしばらく放課後遊べない感じ?」

「そうなりますわね」

「うわあ、そっかぁ」


 代表になれたのは嬉しいけど、遊ぶ時間が少なくなっちゃうのはなあ。


 それに、団体戦の訓練となると……。


「あのさヴィアちゃん」

「はい?」

「指導教官って……もしかして?」


 私がそう訊ねると、ヴィアちゃんはニッコリと微笑んで言った。


「もちろん。リン先生ですわ」

「やっぱりかあ!」


 地獄の特訓決定じゃんかあ!!


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