第91話 学内選抜戦 Bブロック 〜準決勝
続いて行われるBブロックの試合。
一回戦は、同じクラス同士が当たらないように調整してくれたんだけど、これはトーナメント。
勝ち上がっていけば、どこかで必ず同じクラス同士の戦いが起こる。
ということで……。
「わあぁっ!! ちょっ! ワイマールさんタンマッ!!」
「甘いことを言わない!!」
『ビー』
デビット君は、一回戦は勝ち上がったものの、二回戦目でアリーシャちゃんと対戦した。
結果はアリーシャちゃんの勝ち。
元々入試での順位に差があったんだけど、アリーシャちゃんはウチでの魔法練習会にも参加しているし、さらに差がついてしまった。
デビット君にも参加しないかと誘ったことはあるのだが、女子の家に行くのは抵抗があるようで、毎回断られている。
その結果が出た気がする。
「次はレインですわね。覚悟なさいませ」
ここまで二回勝ってきたアリーシャちゃんは、レインを見て不適に笑う。
そう、次が準決勝で、相手はレインなのだ。
「ん? アリーシャにはまだ早い」
「むっ!」
レインは勤めて冷静に返したけど、それって煽ってるみたいに見えるって。
現にアリーシャちゃんはムッとした顔をしてしまった。
「あらぁ、それはどうかしら? 私はシャルロットさんの家で訓練に励んでますのよ! そ、その間、レインがなにをしているのかは知りませんけど! ……なんで一緒に訓練してくれないのよ……」
なんか、ただの愚痴が聞こえたような……。
さっきも言ったように、アリーシャちゃんは時々ウチで魔法訓練をしている。
だが、レインはそれに着いてこない。
レインがウチに来ることを遠慮するはずがないし、どこでなにやってんだ?
そう思っていると、レインが珍しくニヤッと笑った。
「うん。その成果見せるよ」
「え?」
……え?
もしかして、レインは私らに内緒で魔法訓練をしてたってこと?
なんでわざわざ別行動で……。
そう思っていると、次の対戦として私がアナウンスされた。
あー! 続きが気になるのに!
とにかく早く終わらせてレインの話を聞かなくてはと焦った私は、開始の合図と共に最大限に魔力を集める。
それを見たBクラスの女子が小さい威力の魔法を連打してくるけど、そこは足を使って回避した。
そして、上限まで集めた魔力を魔法に変換、思い切りブッ飛ばした。
『ビー』と鳴り響くブザー。
どうやら一撃で仕留めてしまったらしい。
「う、うそ……一撃……」
Bクラスの女子は呆然としているけど、私はそれどころじゃない。
「ありがとうございました」
対戦終了の挨拶をした私は、急いで観客席に戻った。
この挨拶を蔑ろにすると、ちゃんと相手に敬意を見せろってリンせんせーが怖いんだよ。
とにかく、モタモタしていたら放課後レインがなにをやっているのか聞き逃してしまう。
急いで走ってきた私だったが、無情にもそこにレインの姿はなかった。
「ま、間に合わなかった……」
「え? なにが?」
自分を出番を終え、すっかりリラックスしているデビーがジュースを飲みながら聞いてきた。
「レインが放課後こっそりなんかしてるみたいなの。それを話そうって時に対戦に呼ばれたから急いで終わらせてきたんだけど……」
「……呆れた。そんな理由で瞬殺されたのね、あの子」
「ちゃんと全力出したよ!」
「一撃終了だもん分かってるわよ。それより、シャルがどんだけ急いだって無理だって」
「なんでよ?」
私の疑問に、デビーは指を伸ばして練習場を指した。
『レイン=マルケス、アリーシャ=フォン=ワイマール戦。始め!』
「だって、アンタの試合が終わったら、すぐに二人の試合でしょ。試合が決まってすぐ移動してたわよ?」
「な、なんだと……」
インターバルとかあると思ってたのに……。
「はぁ……レインのことは後で聞くかあ」
この選抜会が終わった後にレインを質問責めにしようと決心し、二人を試合を見守ることに。
そういえば、これって競技会の再戦だ。
あの時はレインが勝ったけど、あれから数ヶ月。
アリーシャちゃんがどれだけ成長したのか見ものだ。
試合は、初っ端からアリーシャちゃんがレインに向かって魔法を連発するところから始まった。
「あれ? これって、前回と同じパターン?」
「だねえ。それだとレインは……」
「あ、やっぱ避けちゃうよね」
アリーシャちゃんが放った魔法を、レインは軽々と避ける。
そして、アリーシャちゃんの背後を取ろうとした。
これ、前回のアリーシャちゃんが負けたパターンだ……。
と、そう思っていると。
「!! くっ!」
レインが背後に回り込むことを予測していたのか、ノータイムで魔法が発動された。
自分が取ろうと思っていた位置についた途端の攻撃に、レインは虚を突かれたのか小さいながらも一撃被弾。
慌てて距離を取った。
「……成長してる」
レインが言った一言に、アリーシャちゃんの顔が嬉しそうに綻んでいく。
だが、試合中ということで我慢しようとしているのか、だんだん変顔になっていった。
「……褒められて嬉しいなら笑えばいいのに」
「あはは、まだ試合中だからね。真面目なアリーは笑っちゃいけないとか思ってるんでしょ」
観客席にいる私たちにも分かるくらい変顔になっていた。
……後で知ったら悶絶するんだろうな。
この後のことを想像して、心の中で同情していると、レインが動いた。
「……え?」
レインは、無防備にアリーシャちゃんに突っ込んでいったと思った。
アリーシャちゃんも単純な突っ込みに対処すべく魔法で応戦しようとした。
……が。
「え? レインが……増えた?」
そう、まっすぐ突っ込んでいくレインが、なぜか三人に増えたのだ。
「え? ええええっ!?」
「な、なにあれっ!!」
私とデビーは、思わず大声をあげてしまったが、周りも同じように驚愕した声をあげていた。
「え? え?」
離れた観客席から見ている私たちですら混乱しているのに、今目の前で対戦しているアリーシャちゃんは尚更混乱しているだろう。
どのレインに攻撃していいか分からずワタワタしている。
「〜〜っ! やあっ!!」
どれを攻撃していいのか分からなくなったアリーシャちゃんは、とりあえず全部に向かって魔法を放った。
これでレインの足が止まると思ったのだけど……。
「……残念」
「え……キャアッ!!」
なぜかアリーシャちゃんは、
『え?』
アリーシャちゃんが混乱して足と手が止まっている間に、レインの魔法が連続で決まる。
そして……。
『ビー』
試合終了を告げるブザーがなった。
一気に畳み掛けられ、呆然としているアリーシャちゃんに、レインが歩み寄る。
「アリーシャ、いい試合だった」
そう言って手を差し出すレイン。
アリーシャちゃんはその手を見てハッと我に返り、レインの手を取り握手した。
「はぁ、また負けましたわ」
「いや、あれ、シャルとの対戦用の奥の手だった。それを使わせられた。アリーシャ凄い」
おっと、今のがレインの秘密兵器だったとは。
それを引き出してくれたアリーシャちゃんには感謝しかないね。
レインに褒められたアリーシャちゃんはというと、驚いた顔をした後、みるみる嬉しそうな顔になり、レインの横に並ん楽しそうに話しながら観客席に帰ってきた。
あんな真剣勝負しておいて、終わったらカップルに戻るとか。
レベル高すぎでしょこの二人。
選抜会というほぼ全校生徒が見ている中でそんなことをした二人が、周りからどう見られているのか気になって周りを見回すと、男子も女子も険しい顔で二人を見ていた。
「くそっ! あの子可愛いから、後で声かけようと思ってたのに!」
「きいぃっ! マルケス師団長の息子、狙ってたのにいっ!」
……ここ、国内最高峰の魔法学院なんですよね?
周りの生徒たちに呆れつつも、次は私の試合。
相手は、Aクラスの男子。
私は、開始の合図と共に前方へとダッシュ。
相手は、先ほどのレインの魔法を見ているため、私もなにかしてくるんじゃないかと警戒して魔法は放ってこなかった。
そして、私はレインと同じように魔法を使う素振りをした。
すると、相手はそこでようやく魔法を放った。
でも、私は素振りだけでなにもせずに前進を続けた。
さっきのは普通のダッシュ。
今は、身体強化を使ってのダッシュに切り替えて。
「えっ!?」
突然の緩急に、相手が私の動きを予想して放った魔法は外れ、その隙に相手に肉薄した。
「ゴメンね?」
そう言って、ゼロ距離で魔法を発動。
「……あ」
ゼロ距離からの攻撃魔法。
そんなの、そこまで威力がなくても大ダメージを与えることができる。
その結果。
『ビー』
またしても一撃決着。
いやあ、さっきのレイン、インパクト絶大だったからなあ。
真似したら絶対警戒してくると思ったよ。
「ありがとうございました」
開始位置まで戻って礼をした私は、そそくさと観客席に戻った。
「お帰りなさいシャル。また一撃ですか。面白みがありませんわね」
「ヴィアちゃんは真剣勝負の選抜会になにを求めてんの!?」
興業じゃねえんだわこれ!
「それに引き換え、レインとアリーシャさんの試合は面白かったですわ。未知の新技あり、対戦相手とのラブありで」
「……ヴィアちゃん、相当暇なんだね」
「ええ、お陰様で」
ニッコリ笑うヴィアちゃんが怖い。
そんなヴィアちゃんから圧を受けつつ、私は今試合が終わったばかりなので少しの時間休憩する。
そして、いよいよ決勝戦の時間になった。
「さっきの面白かったよ。でも私が勝つからね」
「困ったな。奥の手を見せてしまった。どうやってシャルに勝つか考えないと」
幼い頃からの幼馴染み同士。
そして、幼馴染みたちは仲の良い友人だけど、それと共にライバルでもある。
私たちは、試合を前に、ニヤリと笑いあった。
『それでは……レイン=マルケス、シャルロット=ウォルフォード戦……始め!!』
一年Bブロックの決勝戦が始まった。
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