第90話 学内選抜戦 Aブロック

 こうして始まった選抜戦。


 まずはAグループの試合。


 ここには、Sクラスからデビーとマックス、ハリー君が出ており、他にもA・B・Cクラスから数名ずつ出ている。


 試合が進むにつれ、下位クラスの人が上位クラスの人に勝つなど、ミーニョ先生が言っていた通り皆が成長しているのを感じられる試合がいくつかあった。


 そんな試合が続く中、決勝戦まで勝ち進んだのはマックスとデビー。


 元々地力が違う上に、特にデビーは入学してから頑張っているのでやはりSクラス同士の戦いとなった。


 ちなみに、ハリー君は準決勝でマックスに敗れた。


 さて、マックスとデビーの決勝戦なんだけど、入学した当初はマックスの方が強かったんだけど……。


「はあっ!!」

「くっ!」


 今優勢なのは、デビーの方だ。


 入学当初から比べたら、格段に早くなったデビーの魔法起動にマックスが追いつけなくなっていた。


「こ、このっ!」

「フッ!」


 苦し紛れに放つマックスの魔法を、デビーは魔法障壁で確実に防御しながらマックスの死角に回り込む。


「えい!」

「わっ!」


 デビーの放った魔法が地面に当たり、マックスの周りに土煙による煙幕が発生する。


 それによってデビーの姿を見失ったマックスは、焦りからか索敵魔法を使うことを忘れ、キョロキョロと目でデビーを探している。


 最近のマックスは、魔法の練習や対人戦よりも魔道具の作成の方に重きを置いてたからなあ。


 ずっと鍛錬を続けていたデビーの動きに付いていけていないし、咄嗟の判断が鈍くなってる。


「はああっつ!!!!」

「うわっ!!」


 マックスがデビーの姿を見失っている間に、十分な量の魔力を集め終わっていたデビーが、渾身の力を込めた魔法を放った。


 それに反応できなかったマックスは、モロにその魔法を喰らってしまい……。


『ビー』


 対人戦用の魔道具から、蓄積ダメージが上限に達したことを知らせるブザーが鳴った。


「……やった?」

「あー、負けちゃったかあ」


 ブザーの音を聞いたデビーは、一瞬信じられないと言った顔をし、マックスは「やられた」といった感じに悔しそうな顔をした。


『それまで! 勝者、デボラ=ウィルキンス!』


 審判をしている先生の声が練習場に響き、それを聞いた観戦席にいた私たちはデビーに向かって大きな歓声をあげた。


 練習場の真ん中で、観客席からの称賛を受けるデビーは、少しの間呆然としていたけど、やがて実感が出てきたのか、感情を爆発させた。


「やったあぁっ!! 勝ったあっ!!」


 デビーは練習場の真ん中で両手を高々と突き出し、雄叫びをあげた。


「やった! やった!!」


 練習場の真ん中で喜んでいるデビーのもとに、対戦相手であるマックスが近付いていった。


「あー、とうとう追い越されちゃったよ」


 マックスはそう言いながら手を伸ばし、デビーに握手を求めた。


 それに気付いたデビーは、その手を握りながら言葉を返した。


「マックス君、最近対人戦じゃなくて魔道具の方に力入れてたからね。そっちじゃ絶対敵わないんだから、対人戦は追い越したいと思ってたんだ」

「そっか。あー、でも、悔しいなあ」


 握手を解いた二人は、会話しながら観客席に戻ってくる。


「おかえり二人とも。デビーはおめでと!」


 私がデビーを祝うと、デビーは満面の笑みになった。


「ありがと! あー、うれしー!」

「負かした本人の前で喜ばれると、複雑だけどね」


 デビーとは対照的に、マックスは苦笑している。


「いやいや。さっきデビーも言ってたけど、マックスは最近魔道具ばっかりいじってるじゃん。反対にデビーは毎日魔法とか対人戦の訓練してるんだから、この結果は順当でしょ」

「そうなんだよなー。あー、一日が短えよ」

「マックスには、一日の時間が倍くらい必要そうだね」

「……それはそれで、魔法と対人戦の訓練して、魔道具の修行もするとか、しんどいからやだ」


 マックスの言葉に、私たちの周りで笑いが起こる。


『Bブロックの生徒は練習場に集合しろ』

「お、じゃあ、行ってきまーす」


 私はヴィアちゃんにそう言うと、練習場に降りていく。


「良いですかレイン。私と当たっても、手加減はなしですからね」

「そんな失礼なことしないよ」


 私とデビット君が並んで歩いている前を、アリーシャちゃんとレインの二人が歩いている。


 Bブロックに、婚約者同士の二人が入ってしまったのだ。


「ああいうときってどういう感情なんだろうな」


 二人が婚約者同士であると知っているデビット君がそう聞いてきた。


 そういえば、デビット君とはあんま喋んないんだよな。


 ハリー君と一緒にマックス、レインと一緒にいることが多いから、なんか自然に男女で別れちゃってるんだよね。


「あの二人だったら、間違いなくレインが勝つよ。でも、もしレインが手加減したら、アリーシャちゃんブチギレると思う」

「え? ……フチギレ?」


 デビット君は、アリーシャちゃんと私を何度も見返しながらそう言った。


「伯爵令嬢が?」

「うん。手加減とか一番嫌いだもんアリーシャちゃん。もしレインがアリーシャちゃんに勝ちを譲ったりしたらしばらく口聞かなくなるんじゃないかな?」


 割と潔癖なところがあるアリーシャちゃんは、手加減するのもされるのもメッチャ嫌いなのだ。


 それは普段の遊びでもそうで、カードゲームをした際、アリーシャちゃんにボコボコにやられてガチ泣きしたのはいい思い出だ……。


「だから、デビット君がもしアリーシャちゃんと当たっても手加減しないことをお勧めするよ」

「いやいや、彼女の方が強いじゃん。手加減して欲しいのはこっちだよ」

「あはは、じゃあ諦めるしかないね」

「そんなあ……」


 デビット君は、そう言ってガックリと肩を落とした。


「……どうなってんの……この学院の女子、怖すぎでしょ……」


 おい、デビット。


 聞こえてるからな。


 私は、デビット君と対戦したら手加減なくボコしてやろうと心に決めた。



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