第89話 学内選抜戦、開始前
さて、そんな訳で、校内選抜戦が行われることになったのだけど……。
「むうぅっ!! やはり納得できませんわっ!!」
高等学院内にある魔法練習場の観客席で、ヴィアちゃんが腕を組んで頬を膨らませ、プリプリと怒っていた。
実は、誰よりも早く選抜戦にエントリーしたヴィアちゃんだったのだが、王宮からヴィアちゃんの参加にストップがかかった。
なんでも、他国の高等魔法学院には今年、どこの国にも王族が在籍しておらず、大国アールスハイドの王女であるヴィアちゃんが選抜されると、他国の生徒が気を遣って実力を発揮できないのではないか? という意見が出たそうなのだ。
実際、ヴィアちゃんの実力は私に次いで学年次席。
つまり、二枠ある代表の椅子は私とヴィアちゃんで決まる可能性が非常に高い。
それはあまりよろしくないのでは? と大人たちが妙な気を遣った結果、ヴィアちゃんは王宮から強制的に選抜戦辞退とされてしまったのだ。
なので、選抜戦は見学になるヴィアちゃんは非常にご機嫌斜めになっているのである。
「し、仕方ないですよ殿下。殿下だって、他国の生徒に勝利を譲られても嬉しくないでしょう?」
一緒に観戦しているレティにそう言われるが、ヴィアちゃんの機嫌は直らない。
「ふんっ。今回は、各国に一校しかない国立の高等魔法学院同士の交流戦でしょうに! その生徒が忖度などしてどうするのです!! お父様たちも考えすぎですわっ!!」
どうやら、それを真っ先に言い出したのはオーグおじさんらしく、それがヴィアちゃんの機嫌が一向に直らない原因の一つでもあるらしい。
「まあ、オーグおじさんの考え方からすると、ヴィアちゃんは学院を卒業したらすぐに結婚するんだし、だったら在校時の実績の一つを別の人に譲ってやれよってことなんじゃないの?」
私がそう言うと、ヴィアちゃんはそれでも納得いかなそうな顔を向けてきた。
「私だって実績が欲しいですわ」
「なんで?」
「だって、私、卒業したらアルティメット・マジシャンズに就職希望ですもの」
その一言に、周囲がザワついた。
私も驚いた。
「え? ヴィアちゃん、卒業したら主婦になるんじゃないの? 家でずっとお兄ちゃんを待ってるんじゃなかった?」
確か、前に家でお兄ちゃんの帰りを待つとか言ってたような気がする。
しかしヴィアちゃんは、なぜか不機嫌な顔からドヤ顔になった。
なぜ?
「それだとつまらないことに気付いたのですわ。やはり、私は公使共に夫であるシルバー様をお助けしたい。ならば、私がアルティメット・マジシャンズに入るのが一番いいと気付きましたの」
……いや、それってドヤ顔で言うこと?
確かに、そうすれば四六時中お兄ちゃんと一緒にいられるだろうけど……。
ちょっと愛が重くない?
どこまでもお兄ちゃんに付いて行こうとしているヴィアちゃんにちょっと引きしていると、なぜか私の方を見てニッコリした。
「シンおじさまとシシリーおばさまを見ていてそう思ったのです。時折、お揃いの制服を着て出かけられますでしょう? ああ、いいなあと思いまして」
うちの両親が原因だった!?
そんなとこにまで影響を及ぼすなよ!
でも、そうか。ヴィアちゃんは将来アルティメット・マジシャンズに入りたいから在学時の実績が欲しかったのか。
「でもさあ、ヴィアちゃんって、なにもしなくても目立つじゃん? 王女様なんだし。だったら、実績とか必要なくない? 実力だけで十分でしょ」
私がそう言うと、ヴィアちゃんは少し考え込んだ。
「……ふむ。それもそうですわね……でもシャル」
「なに?」
「あなただって、代表の娘なのですから、実績は不要でしょう?」
「そうだそうだ」
ヴィアちゃんが至極尤もなことを言うと、デビーが同調してきた。
「シャルも辞退してよぉ」
確かに、私はアルティメット・マジシャンズ代表の娘だから、目立つための実績は必要ない。
しかし……。
「私の場合は、その代表の娘だからこそ実績が必要なんだよ」
「? どういうこと?」
いまいち良く分かっていないデビーが首を傾げる。
分かんないかあ。
「実績がないとさ、試験でいくら正当な結果を出して入団できたとしても『代表の娘』だしな、って絶対言われる。コネで入団してきたんじゃないかって。でも、誰の目から見ても分かる実績があれば皆も納得できるでしょ? だからだよ」
確かに、私はパパがアルティメット・マジシャンズの代表だし、お兄ちゃんも団員として所属してる。
コネが凄い。
なので、私が入団試験に受かってアルティメット・マジシャンズに入れたとしても、私の実力を知らない人たちは『ああ、コネ入団ね』と言うに決まっている。
そういう声を出させないためにも、今回の代表枠は必ず欲しいんだ。
「言われてみれば、そうですわねえ」
「だから、私も本気で代表を狙っていくからね」
私がそう言うと、デビーは一度肩を落としたあと、すぐに顔を上げた。
「まあ、そうだよね。勝ちを譲られたって、その勝利に価値なんかないよね」
「そうそう、その意気だよ」
デビーはネガティブモードから立ち直ってくれたようだ。
ちなみに、今回の選抜試験はトーナメント制で、AブロックとBブロックに分かれ、それぞれの優勝者が代表になる。
本当に実力者二名を選ぶなら日頃から魔法の授業を受け持っている先生が二人選ぶと一番早いんだけど、今回は各国対抗戦。
授業では強くても本番に弱い人もおり、そういったメンタルの強さも選考基準になるためわざわざ選抜戦を行うのだ。
しばらく観客席で雑談していると、ようやく選抜戦が始まる時間になった。
『選抜戦に出場する一年生は練習場に集まれ』
先生の呼びかけに応じて、今回エントリーしている一年生が観客席から練習場に下りていく。
そして、まず初めに行われるのは、くじ引きだ。
「この中にAとBと書かれている紙が入っている。それがお前たちのグループだ」
ミーニョ先生はそう言うと、手に持っていた紙が入っているボックスを掲げた。
「じゃあ、まず……ウォルフォード。お前からだ」
「はーい」
先生のご指名を受けて皆の輪の中から出て先生のもとへ行く。
そして、箱の中の紙を取り出すと、そこには『B』と書かれていた。
「Bブロックです」
「よし。じゃあ次、ビーン」
「はい」
マックスが引いたのは『A』
あら、マックスとは分かれたか。
その後も次々とくじを引いていき、デビーはマックスと同じ『A』だった。
「よっっし!!」
デビーはAと書かれた紙を見た瞬間、拳を突き上げて叫んだ。
ちなみに、Bを引いた生徒は、軒並みガックリと肩を落としていた。
ふふふ、皆が私を恐れている。いい気分だ。
「こら」
「あいた!」
皆が私を恐れている様を見て悦に入っていると、後ろにいた人からゲンコツされた。
「また傲慢の虫が出てる。もう一回鍛え直す?」
「げっ! リンねー「先生」……せんせー」
小突かれた頭をさすりながら後ろを振り向くと、そこにはリンせんせーがいた。
「で、出てない出てない! 油断なんてこれっぽっちもしてないよっ!」
「……本当に?」
「ホント! ホント!!」
「じゃあ、いい。無様な試合を見せないように」
「はぁーい」
むぅ、相変わらずリンせんせーは手厳しい。
なんか、私だけ特別厳しく接せられてるようにも感じるよ。
去っていくリンせんせーの後ろ姿を見ていると、ヴィアちゃんが苦笑した。
「リン先生もご苦労なさいますわね」
「なに? 私が問題児だって言いたいの?」
「それもありますけど……」
あるんかい。
「シャルは、リン先生の知り合いの子供ですからね。贔屓していると見られないように、特別厳しくしているのでしょうね」
「……そうかなあ」
「そうですわ。だって、普段のリン先生はあんなに厳しくないでしょう?」
確かに、臨時講師になる前のリンせんせーの印象は、私たちに悪戯を教えてくれる面白いお姉ちゃんだった。
学院での講義が厳しくてすっかり忘れていたな。
「……ってことは、私だけじゃなくてヴィアちゃんやマックスとレインも厳しくされてるってこと?」
「………」
私の言葉に、ヴィアちゃんはスッと目を逸らした。
「……やはり、シャルが問題児だから厳しくしているのかも」
「前言撤回が早すぎる!」
「そ、それよりほら。Aグループの試合が始まりますわよ」
……露骨に話題を逸らしたな。
まあ、知り合いの子供だからだろうと問題児だからだろうと、厳しく指導してくれることはありがたいから、理由まで聞かなくていいか。
そして、対人戦闘の臨時講師であるリンせんせーに厳しく指導された結果を出すには、この選抜戦は絶好の舞台だ。
このAグループの試合のあとにBグループの試合がある。
そこで、訓練の成果を見せつけてやる!
見てろよ、ミーニョ先生、リンせんせー。
絶対優勝してやるんだからね!
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