第88話 新たなイベント

 ひいお爺ちゃんにパパの魔法の解説をしてもらった翌日、授業前のホームルームに、ミーニョ先生がなにやら資料を持って現れた。


「今から大事な書類を配る。受け取ったらそれの説明をするから」


 そう言って手元にある資料を配り始めた。


 配られた資料を読んでみると……。


 そこには『各国高等魔法学院選抜対抗試合』と書かれていた。


「あ! これって、夏季休暇明けに言ってたやつだ!」

「そうだ。あの時はまだ詳細まで詰め切れていなかったが、色々と調整が済んでな、正式に決定したので告知することになったんだ」


 先生のその言葉に、私は心が踊った。


「先生! 先生! 選抜ってことは、代表決めるんだよね!? だったら私が代表でしょ!? だって私、春の選抜競技会の優勝者だよ!」


 私は、入学してすぐに行われた学院内での競技会で優勝した。


 それも、学年優勝ではなく総合優勝だ。


 私以上に代表者にふさわしい人間はいないだろう!


 ……と思っていたんだけど、ミーニョ先生は首を横に振った。


「いいや。ウォルフォードも含めて選抜試験をすることになっている」

「ええ!? なんでよー!?」


 私がそう言うと、ミーニョ先生は厳しい目をして私を見つめた。


「んん? ウォルフォード、どうやら、また傲慢の虫が騒ぎ始めたらしいな?」

「え……いや、そうじゃなくて、実際、私が総合優勝したから……」


 実際に学院内の競技会で優勝した実績があるのでそれを主張したんだけど、ミーニョ先生は溜め息を吐きながら首を横に振った。


「あれから何ヶ月経ったと思っている? お前たち学生は、まだまだひよっ子だが、若く未熟な分成長する時は一気に成長する。それは私たち大人にも計り知れないものだ」

「う……」

「そのために、改めて選抜試験は行う。ウォルフォード」

「は、はい」


 ミーニョ先生は、私を見ると、ニヤッと笑った。


「いつまでも自分が最強だなんて自惚れていると、いつか足下を掬われるぞ?」

「なっ……!」


 ニヤニヤしながらそう言うミーニョ先生の顔がムカついたので、私は思わず立ち上がった。


「じょ、上等じゃないですか! だったら、もう一回私が優勝して、私が学院最強だって証明してあげますよ!!」


 私がそう啖呵を切ると、先生は益々ニヤニヤしだした。


「そうか。期待しているぞ。ちなみに」

「……なんですか?」

「教師に歯向かうのは、あまり関心せんなぁ。これは、一度ご家族と……」

「すみませんでした!! 座ります!! ちゃんと話聞きます!!」


 あ、危ねえ……!


 思わず先生に歯向かちゃったけど、あのままだったら家に先生への態度のことで連絡を入れられるところだった……!


 ……ふぅ。ギリギリでママの説教は回避したぜ……。


 私が席に座ってちゃんと聞く姿勢になったのを確認したミーニョ先生は、ニヤニヤ顔から一転、真面目な顔で話し始めた。


「今回選抜されるのは各学年から三名ずつだ。これはウチで行われる春の競技会と一緒だな。学年ごとに実力差があるから、同学年同士での戦いになる」

「ってことは、最後は各学年の優勝チーム同士で総合優勝を決める感じですか?」

「そうだ。最初はそれは行わない予定だったのだがな、ウチが春の競技会でそれを行なっていると話したところ、是非導入しようという結果になってな」

「へえ」

「まあ、ウチは魔法先進国、アールスハイドの高等魔法学院だからな。各国の学院からは一目置かれてるんだよ」


 ミーニョ先生がなんだか鼻高々にそんなことを言っている。


「……先生。先生こそ傲慢の虫が出てきてませんか? リンせんせーの教育的指導受けた方がいいんじゃないですか?」


 さっき、私のことを傲慢になってきていると言っていたミーニョ先生が傲慢になっているんじゃないかとそう思っての発言だったのだが、ミーニョ先生はあからさまにガッカリと肩を落とした。


「……もうご指導いただいたよ……なんだよあれ……本当に同じ人間かよ……」


 ……もう、リンねーちゃんの教育的指導を受けていらっしゃった……。


 先生だから、教育的ではないのか。


「別にこれは自惚れでも傲慢でもなくてな。アールスハイドにはシン様もいるし、アルティメット・マジシャンズもいる。国全体として魔法の発展の仕方が他国とは段違いに早いんだ。これは、純然たる事実だ」

「あぁ、パパの有無か」


 私がそう呟くと、隣のヴィアちゃんが吹き出した。


「お、おじさまの有無って……」

「だってそうじゃん? パパが自重せずに魔法をバンバン進化させるから他国が追いつけてないってことでしょ?」

「他国も十分発展しているぞ? シン様の魔法研究の結果は魔法学術院を通して公表され、各国でも共有されているからな。ただ、やはり情報発信地の方が先に発展するのはしょうがないことだ」

「ふーん」

「まあ、そういうわけで、選抜試験は各学年ごとに行う。それと、魔道具に一部改良が加えられた」

「改良?」


 あの凄い魔道具に、さらに改良?


 どこをどういじったのだろう? と疑問に思っていると、ミーニョ先生は、ちょっと興奮しながら話だした。


「ああ、この改良は凄いぞ? 今までは、魔道具に攻撃が当たるとダメージが蓄積していくだけだったのが、治癒魔法を使うことによってそのダメージが回復するんだ!」

『!?』


 は、はあっ!?


 治癒魔法で魔道具のダメージが回復する!?


 どこをどういじればそんな機能が付けられんのよ!?


「ちなみに、これはシン様のアイデアで、その場で魔道具を改良してみせた。あれは衝撃だった……」


 うわ、パパ信者のミーニョ先生ですら遠い目をしている。


「……まあ、そういうことでな。今回の選抜試験は、攻撃魔法だけじゃなく治癒魔法も選考の対象になる」


 先生はそう言ったあと、レティを見た。


「一年生は俺が監督になる予定だから、一人は治癒魔法士を入れたい。今のところ、学年で一番治癒魔法が得意なのはフラウとカサールだから、二人の争いになるな」

「え……?」

「わ、私もですか!? 私、留学生ですけど!?」


 ミーニョ先生の言葉に、レティは驚きで目を見開き、留学生の自分には関係ないと思っていたラティナさんは驚愕して大きな声をあげた。


「それはそうだが、実際今は我が校で勉強しているだろう? そんな生徒にチャンスを与えないなんて、不公平だとは思わないか?」

「えっと……いいんでしょうか?」

「もちろん構わないさ。ただし、フラウはカサールよりも魔法そのものに関わっている時間は長い。壁は高いが、やってみるか?」

「……はい! やらせてください!」


 ラティナさんはそう言うと、レティと向かい合った。


「レティさん。正直、今の私ではレティさんの足元にも及ばないと思いますけど……それでも、挑戦させていただきます!」


 ラティナさんからの宣戦布告を受けたレティは「え? え?」と困惑していたが、真剣な表情のラティナさんを見て、レティも真剣な顔になった。


「私だって負けないよ。ラティナさん、勝負だ!」

「はい!」


 おお、なんか、早速火花を散らし合っている!


 大人し目な女子二人による争い……。


「というわけで、実質代表の枠は二枠だな。今回は全員参加ではなくてエントリー式だから、希望者は後で俺に言いに来てくれ」


 レティとラティナさん、希望する前に決定事項みたいに参戦させられてますけど……。


 監督として、治癒魔法士は絶対に欲しかったんだろうな。


 大人って、やり口が汚い……。


「先生、私、参加いたしますわ」

「私も!!」


 ヴィアちゃんが早速先生にエントリーの希望を伝えたので、私も遅れまいとすぐに参戦の意志を伝えた。


「殿下とウォルフォードは参加な。他は?」


 先生が教室を見渡すと、イリスを除く全員が手を上げていた。


「ワヒナはまだ攻撃魔法を覚えて日が浅いからしょうがない。じゃあ、ワヒナを除く全員エントリーな」

『はい!』


 こうして、久々のビッグイベント『各国高等魔法学院選抜対抗試合・選抜選手決定試合」が始まろうとしていた。


 ……いや、タイトル長えわ。

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