第80話 魔物狩り
ハンター協会でのお約束を経験したあと、私たちはウチの家の車で王都の外に出た。
運転しているのはウォルフォード家専属の運転手で、護衛も努められる凄腕の人。
アルティメット・マジシャンズに入れるほどではないけど、訓練自体はアルティメット。マジシャンズと一緒に行っているので、ハンターランク上位の実力はあるらしい。
この車の後ろからは、王家の護衛が乗った車とうちの護衛が乗った車が追走してくる。
まあ、王女様と大商会の娘が魔物狩りに行くとなったら、これくらい大袈裟になるよね。
正直、過保護すぎじゃない? とは思うけど、ヴィアちゃんは学生の頃のオーグおじさんにもまだまだ遠く及ばないらしいし、トールおじさんやユリウスおじさんたちのような側近兼護衛がいない。
私も同様。
っていうか、私の場合比較対象がパパなのは本当にやめてほしい。
私は、魔王の称号を継ぎたいのであって超えたいわけじゃないからね?
あんなのと比べられたら、劣ってて当たり前じゃん。
まあ、幼い頃から誘拐とか襲撃とかの危険に晒されてきたので、ここで我儘は言いませんけどね。
今日はイリスの力試しが目的だし、怪我させちゃいけないので、そういう意味では過保護な護衛さんたちも今日は頼もしい。
というわけで、現地についた私たちは早速魔物討伐に向かった。
「イリス、まずは索敵魔法ね」
「オッケー」
イリスは軽く返事をすると、索敵魔法を使った。
夏季休暇に索敵魔法を覚えたばかりのイリスだったが、淀みなく魔法を展開した。
「へえ、この短期間に随分上達したじゃん」
私がそう言うと、イリスは苦笑した。
「まあ、竜討伐なんて地獄に参加させられたからね。人間、死に物狂いになれば意外となんでも出来るんだなって実感したのよ」
竜討伐……うおぉ……かつてないほどの地獄の訓練が頭をよぎる……。
倒しても、倒しても減らないの……。
いっぱい、いっぱい出てくるの……。
「シャル。ここには竜はいませんわ」
「はっ! そうだった」
竜討伐という、かつてないほどのトラウマワードに、思わず意識が遠くなってしまったよ。
パパとママという、最強の保護者がいたのにも関わらず、あれだけ死を身近に感じたことはなかった。
そして、討伐しても討伐してもワラワラと湧いてくる竜たち。
死の恐怖と減らない竜に、これは永遠に続くのではないかと悟りを開きそうになった。
そういえば、あの時のイリスたちは、討伐には参加していなかったけど、索敵魔法は使っていたな。
とにかく竜が怖いから、少しでも早く発見しようと必死になっていたんだろうな。
そりゃ上達するか。
そうして索敵魔法を使っていたイリスがなにかを見つけたようだ。
「あ、これ、魔物?」
「うん。小型だね。多分大ネズミ」
「ネ、ネズミ……」
まあ、そうなるよね。
私も初めて見たとき、ウエッてなったもん。
「大ネズミは、図体の割りにすばしっこいから、焦らずスピードの速い魔法で倒してね」
「わ、分かった」
近付いてくる大ネズミの魔物を緊張した面持ちで待ち構えるイリス。
「うひゃっ!」
肩に力が入りすぎていたので、私はイリスの脇腹を突ついて緊張をほぐしてやった。
「ちょっと! なにすんのよ!」
「いや、緊張をほぐしてあげようかと」
「そりゃありがたいけど、アンタたちの護衛の人たちだって見てるんだからね!」
「あ、彼らはいないものとして扱ってあげてください」
「出来るか!!」
ふむ、どうやらいい感じに緊張が解れたようです。
「あ、イリス。出てくるよ」
「え!? うそっ!? あ、ホントだ!!」
索敵魔法で存在を感知した大ネズミに、慌てて魔法の準備をするイリス。
その準備が終わると同時に、大ネズミが木の間から飛び出してきた。
魔物は、魔力を持つ者を本能的に襲う。
人間なんていい獲物なので、魔物がいそうな場所の近くにいると、勝手に寄ってくる。
だから、積極的に討伐しないといけないんだ。
さて、そんな大ネズミに襲い掛かられたイリスは、若干パニックになりながらも、風の魔法を大ネズミに向かって放った。
数も威力も、とりあえず全力で撃ちましたって感じの風の刃。
いくら素早い大ネズミとはいえ、乱れ打ちされた風の刃を避けることはできず、あっという間に細切れになった。
「あ、た、倒した? 倒した!」
そんな大ネズミを見て、イリスは魔物を討伐したことに歓喜した。
「シャル見た!? 私の攻撃魔法で! 魔物倒した!」
今まで攻撃魔法が使えなかったイリス。
合同訓練から留学してくるまでに魔物が討伐できるレベルになったとはいえ、そんなに経験は積んでいないんだろう。
大ネズミ一匹討伐しただけで大はしゃぎだ。
「うふ、うふふ。まぐれじゃない。まぐれじゃないよ。私もちゃんと攻撃魔法が使えるようになってるよ」
未だにニヤニヤしているイリスだったけど、そろそろ現実に引き戻そう。
「イリスー」
「なに?」
「魔物討伐おめでとー」
「ありがとー、シャル」
「それでね、次はちょっとレベル上げてみようか」
「レベル?」
「うん。あれ、見て」
私は、ある一点を指差した。
「アレ? ……うえっ」
私が指差した先には、細切れになった大ネズミ。
討伐したのはいいけど、これじゃあ素材はなにも取れないし、何よりオーバーキルだ。
大ネズミ一匹に、こんな大きな魔法を使っていたらすぐに息切れしてしまう。
「ちょっとグロいよね? つまり、こんなに全力でやらなくていいんだよ」
「……手を抜けってこと?」
「手抜きしろなんて言ってないよ。相手に合わせて魔力を調整しろって言ってんの。アンタたちヨーデンの人間は魔力操作が上手だから、なんていうか魔力の密度が濃いの。多少魔力が少なくたって、魔物は討伐できるよ」
「力の調整……」
「今日はイリスが実戦でそういうのができるようするために来たんだから、闇雲に魔法使っててもしょうがないでしょ? だから次は、魔物を前にしても冷静に魔力が制御できるように練習ね」
「うわ。シャルの説明がまともだ」
「まともじゃおかしいんかい!? っていうか、さっきイリスも知ったでしょ? 私の周り、魔法に関しての天才ばっかなの。小さい頃から、そういう人たちに教わってんの。それでこういうの知らない方がおかしいでしょ」
「そういやそうだった。あまりにもイメージが一致しないから忘れてた」
「どういう意味だコラ」
そんなジャレ合いを交えつつも、イリスの攻撃魔法訓練は続いた。
魔物の魔力にも段々慣れてきたようで、魔物が現れても冷静に魔力を制御できるようになっていった。
時折、イレギュラー的に中型の魔物である猪や鹿が出てきたが、それに関しては私やヴィアちゃん、デビーが仕留めていった。
小遣い稼ぎだからね、私たちも狩りをしないと。
……ヴィアちゃんも狩ってましたけど、王女様にお小遣いは必要ないんじゃ……。
あ、お兄ちゃんとのデート資金ね。
なので譲る気はないと。
そっすか。
……。
いや、お兄ちゃん社会人なんだから奢ってもらえよ!!
そんなこんなで、今日の狩りは終わった。
イリスは、一日で攻撃魔法が驚くほど上達した。
やっぱり、ヨーデン式の魔力制御は相当なアドバンテージだと、今日の狩りを見て感じた。
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