第77話 早速目標ができたようです

 ヴィアちゃんの『将来は平民の奥さん』発言により驚愕に包まれていた教室だったけど、その後のやり取りで大分落ち着きを取り戻し、皆もそれぞれ別の話題で話をし始めた。


 そんな中、イリスが何故かマックスに話しかけた。


「マックス君、ちょっといい?」

「ん? いいよ。なに?」

「えっと、マックス君の家って、有名な魔道具工房なんだよね?」

「その言い方はちょっと語弊があるかな? 魔道具工房じゃなくて、魔道具も扱ってる工房だね。本業は金属加工の工房だよ」

「あ、そうなんだ」


 これは結構皆誤解するんだけど、マックスの家のビーン工房は、本来金属加工の工房だ。


 本来は、魔法付与がされていない剣とか鎧とかを作って販売するのが本業だ。


 その金属加工の腕がいいから、パパはビーン工房に魔道具の開発をお願いする。


 そうして開発された魔道具が有名だから、ビーン工房=魔道具工房と誤解している人が多いのだ。


 まあ、マックスのお父さんがパパと仲が良いっていうのも、魔道具の開発を依頼していることの大きな要因でもあると思うけど。


「まあ、そう誤解してる人は多いから別にいいけど、それが?」

「ああ、うん。あのさ、私、昨日魔動バスに乗ったんだ」

「うん」

「それで、ああいうのってヨーデンにはなくてさ」

「そうだったね」

「それで、私、ああいうの作りたいなって、思っちゃって……それで、工房の見学とかさせて貰えないかな? って……」

「ああ、なるほど。そういうことか」

「う、うん。はは、おかしいよね? 女の子が魔道具作りに興味を持つなんて……」


 イリスは恥ずかしそうにそう言ったけど、私たちには今一ピンとこなかった。


「え? 別におかしくないでしょ?」


 私がそう言うと、イリスも不思議そうな顔をした。


「え?」

「え?」


 うーん? これは、どういうこと?


 私たちが首を傾げていると、ラティナさんがなにかに気付き、話をしだした。


「あ、そっか。シャルさん、そういえば言ってなかったんですけど、ヨーデンでは変成魔法を使って就く職業が男女によって分かれていることが多いんです」

「そうなの?」

「はい。女性なら装飾品関係が多くて、魔道具製作は男の人の仕事という感じです」

「はぁ~、そうだったんだ」


 これもお国柄ってやつなのかな?


 アールスハイドとヨーデンでそんな違いがあるとは思いもしなかった。


 っていうか、さすがにヨーデンの工房までは見学しなかったから、知らなくても無理はないか。


「え? ラティナ、アールスハイドは違うの?」


 ラティナさんの説明が意外だったのか、イリスは目を見開いて驚いている。


「ええ、そうみたい。マックス君の工房で、女性の付与術士さんがいたときは驚いたわ」

「そ、そうなんだ」


 イリスは驚いているけど、ちょっと嬉しそうでもある。


 アールスハイドに来て早速興味を示したものが拒否されることなく受け入れられようとしてるんだから、それも無理はないかな。


 あ、一応、イリスのやる気が出ることも言っておこうかな。


「ちなみに、アールスハイド……っていうか北大陸で最高の魔道具師っていったら、パパの前はひいお婆ちゃんがそう呼ばれてたよ」

「え!? ひいお婆ちゃんって、昨日会った方よね? 女性なのにそんな風に呼ばれてるの!?」

「うん。イリス、宿舎で魔道具の水道使った?」

「ええ! あれ、便利ね! 水汲みしなくていいなんて最高よ!」

「あれ、発明したのひいお婆ちゃんだよ」


 私がそう言うと、イリスはまた目を見開いた。


 ……目、乾くよ?


「そうなんだ……」

「あれ以外にも、皆の生活に役立つ魔道具を一杯開発してね。民衆の生活をより良い方向に導いたってことで、世間からは『導師様』って呼ばれてるの」

「……そんな凄い方だったのね。もうシャル! 昨日折角お会いしたのに! もっと早く教えてよ!」

「いやいや! イリスが魔道具に興味持ってるとか、今初めて聞いたから! そんなの説明できるわけないじゃん!」

「あ、そっか」

「そっかじゃないわよ!」


 いきなり理不尽なことを言い出したイリスだったが、そのあと、なにやらニヤニヤしだした。


「女性でもできる……それはもう、照明されてる……」


 ブツブツそんなことを言っている。


 もしかしたら、最初は自分の力を認めさせないと、とか思っていたのかも。


 まあ、それならそんな努力はしなくていいから、気楽になったのかも。


「ああ、ちなみに、ラティナさんが言ってた付与術士の女性だけど、メリダお婆ちゃんのお弟子さんで、シンおじさんを除けば今世界最高の付与術士って言われてるよ」

「い、今の世界最高も女性なの!? しかも、マックス君の工房にいるの!?」


 イリスが鼻息を荒くしてマックスに詰め寄ってきた。


 イリスも十分美少女に入る部類の容姿をしているから、至近距離まで詰め寄られて鼻の下が伸びているんじゃないかとマックスを見ると、あまりに圧が強かったのか、若干引いている。


「う、うん……」

「是非! 是非工房の見学に行きたいわ! お願い! マックス君!!」


 イリスは引いているマックスなどお構いなしに、マックスの両手を握ってお願いをしていた。


 その姿は、自分の容姿を活かしてあざとくおねだりしている……感じは全くなくて、正に懇願という言葉がピッタリ似合う感じだった。


 そんな熱意を持って迫られたマックスは、さらにドン引きしながら、イリスに残酷なことを告げた。


「け、見学はいいけど……その人、ユーリさんって言うんだけど、普段別の仕事してるから、たまにしか工房に来ないよ?」

「そ、そんな……」


 マックスの言葉を聞いたイリスは、ガックリと膝をついた。


「……ちなみに、なんのお仕事をされているの?」

「シンおじさんのところのアルティメット・マジシャンズ所属」


 それを聞いたイリスは、バッと私を見た。


「うわっ! こっち見た!」


 その目が異様に血走っていて、私も思わず仰け反った。


「シャル!! シン様にお願いして、ユーリ様が工房にいられるようにして!!」

「そんなお願い、できるか!! っていうか、マックスにユーリおばさんの予定を聞いて合わせなさいよ!」


 私がそう叫ぶと、イリスはしばらく「グムムム」と唸ったあと「はあっ」と大きく息を吐いてマックスに向き合った。


「ゴメン、興奮してちょっと暴走しちゃった。その、ユーリ様? の予定の会う日を教えて貰っていいかな?」

「いいよ。じゃあ、予定が分かったら教えるね」


 マックスがそう約束してくれると、イリスは嬉しそうに笑った。


 その顔は、本当に嬉しそうで、とても魅力的な笑顔だった。


「ありがとう! よろしくね!」


 イリスはその笑顔のままマックスにお礼を言うと、自分の席に戻って行った。


 その笑顔を見せられたマックスは、ちょっと頬を赤らめていた。


「……ちょっと、チョロ過ぎるんじゃないの?」


 その姿が何故かイラッとした私は、思わずそう呟いてしまったのだが、しっかりマックスには聞こえていたようだ。


「はあっ!? おまっ、なに言ってんだ!」

「べっつにー」

「ったく、なんだよ……」


 マックスがラティナさんに告白して失敗したのを知っているのは私だけなので、これ以上の追及はしないけど……。


 ラティナさんといいイリスといい、褐色肌の女の子に弱すぎじゃない?


 私は、こういうところはママ譲りの自分の白い肌を見ながら、そんなことを思っていた。


 ……肌はいいから、もうちょっとこう……胸をなんとかしてくれませんかね?


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