第72話 新しい仲間
「イリス!」
転校生だと紹介されたイリスに駆け寄った私は、その勢いのまま抱きついた。
「うわっと! ちょっと、いきなり飛び掛からないでよシャル!」
「あはは、ゴメン。でも、イリスにまた会えたから嬉しくて!」
「ふふ、私もよシャル。殿下も皆さんも、お久しぶりです」
イリスは、私に抱きつかれながらヴィアちゃんや皆にも声をかけた。
「ええ、お久しぶりですわ。それにしても、今回の留学生追加の話は聞いておりませんでしたので驚きましたわ」
「え? そうなんですか? 私たちは殿下たちが帰国した翌日には追加留学の話を聞きましたけど」
「翌日!? そんなに前でしたの!?」
ヴィアちゃんが驚くのも無理はない。
私も驚いた。
なんせヨーデンから帰国したのは数週間前。
その間、イリスたちが追加で留学してくるなんて、私だけでなくヴィアちゃんすら聞いてなかったのだ。
「ん? ちょっと待って。私『たち』?」
イリスの言葉が引っ掛かってそう訊ねると、答えてくれたのはミーニョ先生だった。
「今回は複数人留学してきていてな、このクラス以外にもA、B、C、それぞれのクラスに振り分けられている」
「へえ、そうなんですね。でも、なんで急に追加で人数増やしたんですか?」
「それはもちろん、攻撃魔法と治癒魔法が使える人間を少しでも増やすためだ。先に留学していたカサールが治癒魔法を使えるようになっていたことが評価されてな。もっと複数人数、長期間指導してほしいと向こうから要望があったんだ」
「へえ」
ミーニョ先生が知ってるってことは、向こうに居たころから話があったってことだよね?
むぅ、パパからなんにも聞いてないよ!
これは、帰ったら尋問しなきゃ。
「あー、ところでウォルフォード」
「はい?」
ミーニョ先生に呼ばれて振り向くと、先生は腕を組んで厳しい顔をしていた。
え? なに?
「今、授業中なんだが?」
「……あ」
そ、そうだった!
イリスに会えたことが嬉しすぎて、すっかり忘れちゃってた!
「……えへ?」
私は、上目遣いになりながら首を傾げ、必死に許してアピールをした。
だが……。
「……課題追加な」
「うぅ……はぁい」
課題の追加は痛いけど、家に連絡を入れられるよりはマシだ。
まあ、今回のは家に連絡を入れるほどじゃないって判断してくれたんだろうな。
課題の追加だけで免除してくれた先生に感謝しつつ、自分の席に戻ろうとすると、デビーと目が合った。
メッチャ睨んでる。
「シャル……先生に色目使って……どういうつもり?」
違うから! そんな意図は微塵もないから!
必死に首と手を横に振って違うアピールをし、これ以上騒ぐと本当に家に連絡をいれられてしまうので、口パクで(あ・と・で!)と伝えるので精いっぱいだった。
イリスも席に着き、ようやく今学期の授業が始まった。
とはいえ、今日は休み明け初日。
やることと言えば、夏季休暇中の課題の提出と今学期の大まかな予定の伝達くらい。
それだけでも、イリスはヨーデンの学校と違うカリキュラムに驚いていた。
と、そこで、課題を回収し終えた先生が非常な一言を放った。
「提出されたレポートは、採点するけど評価には加えないからそのつもりで」
「ええ!? 一生懸命書いたのに!」
「しょうがないだろう。他のクラスの生徒は短期留学に参加すらしていないんだ。これでレポートの点数まで評価に上乗せされたら、彼らはどう思う?」
「……ズルイって思う」
「そういうことだ。まあ、このレポートは、タダでヨーデン旅行をしたお前たちの旅行賃ということだな」
ミーニョ先生は、私たちが提出したレポートを手に持って掲げながらそう言った。
「それじゃあ、今日はここまで。ウォルフォード、カサールと一緒にワヒナの面倒も見るようにな」
「はーい」
先生に言われずとも、元からそのつもりだったので素直に返事をしたあと、イリスに視線を向けた。
「じゃあイリス、今から王都観光、行こっか?」
「いいわね。私たち、こっちに来てからまだ観光には行けてないのよ」
「あ、そっか。それじゃあ、他のクラスの留学生たちも一緒に行く?」
私がそう訊ねると、イリスは少し考えたあと首を横に振った。
「そっちはそっちで新しいクラスメイトに案内してもらえるでしょ。その方がお互いの交流にもなるし、任せちゃっていいんじゃない?」
「それもそっか。それじゃあ、行こ!」
「うん!」
こうして、今度はアールスハイドにイリスを迎えての新しい学園生活がスタートしたのだった。
さて、まずはどこに行こう?
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