第71話 帰国と新しい行事

 一週間に及んだヨーデンへの短期留学がようやく終わった。


 ヨーデン兵には攻撃魔法の基礎は教えたので、あとは自主訓練での技術向上を目指していくことになる。


 さすがに現役の兵士さんたちだけあって、攻撃魔法の習得は驚くほど速いペースで進んでいった。


 兵士さんの中には、最終的に竜を単独で討伐できる人まで現れたからね。


 残念ながら学校の生徒たちは、まだまだ攻撃魔法そのものが上達しなくて、討伐にすら出れなかった。


 けど、こちらも基礎は十分に教えた。


 あとは、繰り返しの訓練あるのみだ。


 例の魔力制御用魔道具は、アールスハイドからの交易品ということでヨーデン政府が買い取ることになった。


 そこから、魔力制御量増加訓練を行う魔法使いには無料で支給される。


 これは、アールスハイドを始めとした北大陸の各国で採用されている方式なので、ヨーデン政府はこれを無条件で承諾した。


 治癒魔法についても、ママが各病院を沢山回ったことで、その有用性を国民や病院関係者に知らしめることができたそう。


 ただ、流石にこの短期間で治癒魔法を教えるのは無理があるので、今後魔力制御量が増え、その中から治癒魔法師を志す人が現れたら、アールスハイドに留学してきてもらうことになったそうだ。


 ママが帰国するということで、各病院からは惜しまれる声が沢山あがったとか。


 中には、ママを口説き落とそうとした人もいたらしいけど、パパがずっとママの側にいて、常にイチャイチャしていたので割り込む隙が無く断念したそう……という噂をイリスに教えてもらった。


イリスとはほんの一週間の付き合いだったけど、よくサポートしてくれたし、授業の合間に連れて行ってくれたヨーデンの街では大変お世話になった。


 もちろん、チョコレート食いまくったわ。


 そんなイリスとも、今日でお別れ。


 私は、折角仲良くなった友達と別れることが悲しくて、つい俯いてしまった。


「ほら、なに落ち込んでんのよシャル」

「だってぇ……」

「なにも、これで今生の別れってわけじゃないでしょ? アールスハイドとヨーデンには、いずれ国交が樹立されるだろうし、そのときはシャルに会いに行くわ」

「絶対だよ! 絶対遊びに来てね!」


 イリスとそんなやり取りをしたあと、私は飛行艇に乗り込み、ついにヨーデンから帰国することになった。


「はぁ……たった一週間だったのに、物凄く濃い日々を過ごした気がするわ」


 飛行艇がヨーデンから飛び立ち、周囲になにもない海の上空に差し掛かったところで、外を見ながらそう呟いた。


「そうですわね。本当に充実した一週間でしたわ。変成魔法の訓練のお陰で、他の魔法が洗練されましたもの」


 隣の席に座っているヴィアちゃんが、私の言葉に同調してくれた。


「竜も倒したしね」

「あれは怖かったわ。最後の方は、もう慣れちゃったけどね」


 前の席のデビーが、こちらに振り返って椅子の上から顔を出して会話に加わった。


「でも、これからはヨーデンの人たちが自分で解決しないといけないんですよね? 大丈夫でしょうか?」


 レティも会話に加わり女子四人で、アールスハイドに到着するまでの間、他愛もない話で長時間お喋りを続けたのだった。


 そして、アールスハイドに帰国したということは、アレがある。


 そう、レポートだ。


「うあぁ、どうしよう?」


 私は、今回の留学についてのレポートを書いている。


 けど、正直書きたいこと、書かなきゃいけないことが多すぎて、一向にレポートがまとまる気配を見せなかった。


 そして、マックスとラティナさんの関係だけど、元々女子と男子でグループが分かれているから、以前とあまり変わらない関係でいるように見える。


 二人とも、大人だねえ。


 大変だったヨーデンへの留学レポートをどうにか完成させたころ、ちょうど夏季休暇が終わった。


 久しぶりに学院で皆と顔を合わせる。


 旅行とか留学とかでずっと顔を見ていたけど、やはり教室での再会はまた別だ。


 こうして夏季休暇明け初日が始まったのだけど、まず先生から一つ大きな今後の行事ついての話があった。


「実は、お前たちが留学から帰ったあとに決まったのだが、アールスハイドも含めた各国高等魔法学院同士の対抗戦をすることになった」

「各国対抗戦!?」


 なに!? その心をくすぐるワードは!


「先生! それは代表戦ですか!? それとも学院単位の団体戦ですか!?」

「各学院代表を数名決め、その選抜者で競い合うらしい。まあ、まだ何も決まっていないんだけどな」

「はい! はい! 私、代表になりたい!」

「その選抜も含めてまた後日な。今すぐ決められるわけないだろ」

「むぅ~」


 折角素敵ワードが出てきたのに、それについて語り合えないとか!


 どういうことよ!?


「あー、これは言う順番を間違えたかな? 今日はまだお知らせがあるんだ」

「お知らせ?」

「ああ、もういいぞ、教室に入ってくれ」


 ミーニョ先生がそう言うと、教室のドアが開き、一人の女生徒がは教室に入ってきた。


 私はその入ってきた女生徒を見て、とても驚いた。


 それは、なぜか?


 その女生徒が知り合いだったから。


「やっほー、今日からアールスハイドに留学してきましたイリス=ワヒナです! よろしくね!」

「ええ!? イリス!?」


 そう、教室に入ってきたのは、ヨーデンで知り合い、留学中ずっと私のパートナーを務めてくれていたイリスだったのだから。


 各国対抗戦に、新しい留学生か。


 これは、波乱の予感しかしないね。


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