第64話 攻撃魔法は難しい?
「お、来たな」
私たちがヨーデン軍の訓練施設に到着すると、パパが出迎えてくれた。
別に体力を使う訓練をしていたわけではないので、軍の人たちは疲れていたりしないはずなのだけど、なぜかグッタリしている。
どうした?
「ねえ、パパ。なんで兵士さんたちあんな疲れてるの?」
ちょっと気になったのでパパに聞いてみると、パパは苦笑しながら教えてくれた。
「いや、午前中ずっと魔力制御量増加訓練をしてたんだけど、終わったあとにパパがどれくらい制御できるのか見たいって言われてね」
「あぁ……」
パパの魔力制御見たのか。
ここは学校とは少し離れているから気付かなかったけど、近くにいたらイリスさんたちも同じようになってたかも。
私たちの魔力制御を見ただけであんなに唖然としてたんだもの、パパの魔力制御なんか見たら魔力に
兵士さんたちもパパの魔力に中てられたんだろうな。
「それより、皆集まったな。それじゃあここから攻撃魔法の訓練を始めようか」
パパがそう言うと、兵士、学生を含めたヨーデン組の顔色が変わった。
真剣になった……のではなく、青くなったのだ。
学生だけじゃなくて兵士さんたちも怖いのか。
そんなヨーデン組を見て、パパはフッと笑みを浮かべた。
「やっぱり、怖いかい?」
パパがそう訊ねると、しばらく俯いていたヨーデン組だったが、意を決して顔を上げ、パパを見つめた。
「いえ! 大丈夫です! これは国を国民を守るために必要なこと! 是非、御教授をお願いします!!」
兵士さんの一人がそう言って頭を下げると、周りにいた兵士さんも学生も一斉に頭を下げた。
「うん。分かった。じゃあ、今から攻撃魔法を教えるよ。というわけで、アールスハイドの学生諸君、これから全員で的に向かって魔法を撃ってくれるかい?」
パパはそう言うと、少し離れた場所に魔法で地面を盛り上がらせ、的を作った。
うわ、今、魔力制御から発動まで一瞬でやったぞ。
ミーニョ先生がパパは規格外だって言った意味が、今になってよく分かる。
子供のころは、単純に「パパ凄い」としか思ってなかったから。
ヨーデン組には今のパパの魔法の凄さが分からないのか、あまり反応はなかった。
まあ、それよりも、だよ。
「ねえパパ、なんで私たちが魔法を撃つの? パパがやった方が絶対凄いじゃん」
攻撃魔法のお手本でしょ? それならお手本はパパ一択でしょ。
そう思ったのだがパパは首を横に振った。
「いやいや、シャルたちがやることに意味があるんだよ。シャルたちはまだ子供で、魔法を習い始めてから日が浅い。それでも、これだけ魔法が使えるんだと見せることが大事なんだ」
日が浅いって……これでも十歳のときからだから五年は練習してるのに。
……まあ、パパと比べたらそう見えるか。
「分かった。アレに魔法を撃てばいいのね?」
「そう。魔法は何でもいいからね。あ、爆発系はやめろよ?」
ぎくっ。
実は爆発魔法を撃って皆の度肝を抜いてやろうとか画策していました。
「あ、あはは。そんなの分かってるよ」
「……釘を刺しておいてよかった。それじゃあ皆、これからこの子たちが攻撃魔法を撃つから、よく見ておくように」
『はい!』
いつの間にか、イリスさんたち学生までパパの指導下に入っている。
さすがにここでは教師であるミーニョ先生も出番なしだ。
「よーし、準備はいいか? それじゃあ……放て!」
パパの号令と共に、私たちは一斉に的に向かって魔法を放った。
炎の魔法、水の魔法、風の魔法、土の魔法、雷の魔法、ありとあらゆる魔法が的に向かって飛んでいき、大爆発を起こす。
やばっ!
皆で一斉に魔法を放ったことなんてなかったけど、こんなことになんの!?
魔法着弾の余波がこちらに向かってくるが、想定外だったので防御がなにもできてない。
「!!」
気たるべき衝撃に備えて身体を固くするが、一向に衝撃がこない。
「?」
どうしたんだろうと思い、恐る恐る目を開けてみると、私たちの前からヨーデン組の前まで、まるで城壁のようにパパが障壁を展開していた。
「さて、どうかな? 彼らは高等学院の一年生。まだ十五歳とか十六歳の子たちだ。それでもあれだけの魔法を行使できて、ちゃんと制御もできてる。子供にできることが大人である君たちにできないわけないよね? それと学生たち。君たちと歳の変わらない子たちでもあれだけできる。君たちが出来ない理由はないよね?」
パパはヨーデン組に向かってそんなことを言っているけど、ちょっとこの状況をよく見て!
ヨーデンの人たち、パパの障壁に釘付けで全然話聞いてないよ! 気付いて!
「す、凄い……これが攻撃魔法……」
「これが……これがあれば、竜にも対抗できる……!」
「そっち!?」
またパパの魔法の凄さに気付いてないじゃん!
こんなに凄い魔法なのに!
……もしかして、魔力制御量が少ないなら、魔力障壁とか見たことないんじゃ……。
それならパパの障壁に目が行かず、私たちの攻撃魔法に目が行ってしまうのも理解できる。
「さて、今学生たちは無詠唱で魔法を撃ったけど、もしイメージが難しいようなら詠唱してもいいですよ。その辺はご自由に。さて、それじゃあ早速攻撃魔法を撃ってみようか。大人の人から的の前に移動してね」
あ、そういえば、私たち全員で魔法を撃ったから、的は壊れてるんじゃ。
そう思って的を見ると……。
「え? 傷一つ付いてない……」
私が思わずそう呟くと、ヴィアちゃんたちも的を見た。
「私、結構全力で撃ちましたのに……」
「私もです……」
ヴィアちゃんとアリーシャちゃんは自信があったのか、傷の付いていない的を見て、ちょっと落ち込んでいる。
「さすがシンおじさんだな。あんな簡単に作った的まで規格外かよ」
マックスの言葉には誰も反論はないようでウンウンと頷いている。
でも、ヨーデンとアールスハイドで魔法に対する驚く箇所が違うのは面白いな。
ヨーデンの人たちは攻撃魔法に驚いて、パパの魔法の凄さには全然気付いてない。
反対に私たちは、パパがこの短時間にどれだけ凄い魔法を行使したのか気付いている。
当の本人は、本当に何の気なしにやっているのがまた凄い。
ヨーデンの人たちが必死に攻撃魔法を撃とうとしているのを見守っているパパのことを見ながら、頂上は遠いなあと、皆で改めて認識した。
「アールスハイドの生徒たち! 暇ならこっちに来て攻撃魔法のアドバイスをしてやってくれないか?」
皆でパパのことを見ていると、そうお声がけされた。
「うん! 分かった!」
さっき尊敬し直したパパからのご指名なので、皆張り切って攻撃魔法の指導に向かった。
やはり、今まで攻撃魔法に一切触れてこなかったのでイメージするのが難しいらしく、改めて攻撃魔法を撃ってイメージしやすいようにしたり、攻撃魔法を使う際に気を付けていることとかを兵士さんたちに話した。
結局、兵士さんたちの中で攻撃魔法に成功した人は誰も出ず、生徒たちと交代することになった。
ここでのパートナーは学校での練習と同じにした。
その方がより親密になるしね。
ここでも、やっぱり攻撃魔法は成功しなかった。
うーん、アールスハイドじゃ魔法が使えるようになって攻撃魔法が使えないなんて聞いたことがないから、あとは本当にイメージだけの問題なんだろうな。
「うーん。まあ、今日始めたばかりだし、いきなり都合よくできたりしないか。ただ、今日練習を始める前より間違いなく進歩はしているよ。明日もあるから、一緒に頑張ろう」
『はい!!』
こうして、私たちの変成魔法の練習と、ヨーデン組の攻撃魔法の練習が終わったので、これから街へ……。
「よし、じゃあ生徒たちはこれからシシリーの病院巡りに付いて行くぞ」
そうだった。
この後は、ママの病院巡りに行くんだった。
私は本当に付いて行くだけだから、すっかり忘れていた。
レティとラティナさんは楽しみにしていたようで、二人で楽しそうに会話している。
そういえば、ママは午前中パパのアシスタントをする予定と聞いていたけど、今の時間はいなかったな。
どこにいるんだろう? と思っていると、数人の女性と一緒に現れた。
「ああ、お疲れ様ですシン君。どうですか? 皆さんちゃんとできました?」
「うーん、今日すぐは流石に無理かな。明日以降ならできそうな人もいたけど」
「そうなんですか。私の方は準備できていますので、早速行きましょう」
よくよく見ると、ママの服はいつものアルティメット・マジシャンズの制服じゃなくて、白いローブみたいな服を着ている。
「ママ、その服どうしたの?」
今まで見たことない服だったのでどうしたのかと聞くと「ああ、これ?」と言ってスカートの端を摘まんだ。
「エカテリーナ様に今回のことをお伝えしたら、服を用意するからそれを着用してと言われたの……変?」
カーチェお婆ちゃんが?
ということは、それ……。
「まあ、おばさま! そのお姿、まるで物語に出てくる聖女様のようですわ!」
……そういうことだよね。
創神教内で聖女というのは、まあ役職みたいなもので、特別な力はない。
ママの聖女呼びは、民間で自然発生したものだそうで、後追いで創神教が認めたのだそう。
創神教としては、ママの聖女っぷりを喧伝して教会の権威を引き上げたいんだろうなあ。
カーチェお婆ちゃん、教皇様だけど、そういうところ政治家っぽいから。
ともかく、私たちは、聖女様なママと一緒に病院巡りをすることになったのでした。
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