第51話 みんなで南国旅行
「うふふ、シルバー様、ヨーデンへの旅行、楽しみですわね」
「おいおいヴィアちゃん。ヨーデンへは仕事で行くんだよ? 遊びじゃないんだから」
「でもでも、それ以外は自由にしていいのですよね? いっぱい観光しましょうね!」
「はは、自由時間はね」
領主館での話し合いが終わり、各々のコテージへと戻ってきた私たち。
戻ってくるなり、付き合いたてホヤホヤのお兄ちゃんとヴィアちゃんはイチャイチャしている。
話を聞くに、ヴィアちゃんだけじゃなくてお兄ちゃんも長年想いを押し込めていたらしいから、想いが成就した今イチャイチャしたくてたまらないんだろう。
小さいときからヴィアちゃんからの恋愛相談を受けていた私は、そんな二人を感慨深く眺めていたのだが、弟のショーンは違ったらしい。
「いいなあお姉ちゃんたち。僕もヨーデン行ってみたい」
目の前で、自分とノヴァ君以外の人間のヨーデン行きが決まったのだ、そりゃ羨ましかろう。
「しょうがないじゃない。私たちはレポートありの留学。ラティナさんはその案内。パパとお兄ちゃんは仕事。ママは指導と治療院での奉仕活動。遊びに行く人なんて誰もいないんだから」
ウォルフォード家の中で唯一のお留守番であるショーンを宥めようと、遊びに行くんじゃないということを強調するが、それでもショーンは納得しない。
「嘘だ! パパたちはともかく、お姉ちゃんたちは絶対遊ぶでしょ!!」
「え? あ~……ア、アソバナイヨ?」
「メッチャ目が泳いでんじゃん!!」
……正直、ラティナさんに色々と遊べるところを案内してもらう予定だったから、ショーンの指摘に思わず目が泳いでしまった。
余計に拗ねてしまったショーンを宥めてくれたのは、ショーンの幼馴染みで親友であるノヴァ君だった。
「落ち着きなよショーン。今回のこれで夏季休暇中の短期留学っていう前例ができるんだからさ、僕たちが高等学院生になった頃にはちゃんとした制度になって留学に行けるようになるさ」
「むー、それはそうかもしれないけど、でも! 今、行きたいじゃん!!」
「それは僕もそうだけど、今のヨーデンにはどんな危険が潜んでいるか分からないじゃないか。だから、姉様たちにヨーデンの安全性を確認しに行ってもらおうよ」
「……分かった。お姉ちゃん、頑張ってね」
「ちょっと待て!! アンタら、実の姉を使って安全確認しようとしてない!?」
なにこの子ら!? 怖いよ!!
「ははは」
ノヴァ君は否定も肯定もせずに笑ってるし!
「はぁ……まったく、ノヴァは顔だけじゃなく、中身までお父様に似てきましたわね」
「あ、本当ですか!?」
「褒めてませんわよ!」
いや、現国王様に似てきたというのが嫌味って、それもどうかと思うよヴィアちゃん。
「あ、そういえばさ、今回の留学、行くのって私とヴィアちゃんだけ? Sクラスみんな?」
「さあ……お父様からその辺りの詳細を聞くのを忘れていましたわね」
「オーグおじさん、まだ自分のコテージにいるよね? 後で聞きに行こうか」
「一応聞いておいたぞ」
「あ、パパ、お帰りなさい」
私とヴィアちゃんが今回の留学について話していると、ラティナさんのお兄さんをゲートで王都に送ってきたパパが会話に加わった。
「おじさま、お父様ともう協議されていたのですね。それで、参加者はどうなりますの?」
「まあ、夏季休暇の予定もあるだろうけど、一年Sクラスの希望者は全員参加できるぞ」
わ、そうなんだ。
ん? でも、ちょっと待って。
「一年Sクラスの希望者のみ? 学院全体じゃなくて?」
「そりゃそうだろ。今回は急な話だ、学院全体のイベントにするにしても時間が足りない」
「なるほど」
「だから一年Sクラスだけ。期間は来週から一週間。幸いここに全員いるから、あとで意思確認するよ」
そういえば、他のクラスメイトの夏季休暇中の予定とか全然知らないや。
マックスとレイン、アリーシャちゃんは毎年一緒だから大体の予定は把握してるけど、レティとかデビーとか知らないもんな。
そんなわけで、ビーチに集合していたデビーたちに、ヨーデンへの短期留学の話を持ち掛けた。
マックス、レイン、アリーシャちゃんは即答で参加。
レティは、ママも行くって聞いてすぐに参加表明。夏季休暇中は特に予定なかったらしい。
デビーは、夏季休暇中は魔物討伐をして小遣い稼ぎをしたかったらしいんだけど、ミーニョ先生が責任者として参加するということを聞かされると、魔物狩りの予定をキャンセルして参加を表明した。
ミーニョ先生の参加については、オーグおじさんが直接学院に通信して決めさせたらしい。
国王様からの参加命令……断れるわけないよね。
で、あとの男子二人も参加決定。
結局、一年Sクラスは全員参加となった。
「ふふ、皆さん、アールスハイドで私に色々と良くしていただいたので、皆揃ってヨーデンを案内することがえきて嬉しいです」
さっきまでオーグおじさんの前で、真っ青になって跪いていたラティナさんも復活し、私たちを案内することを楽しみにしている様子だった。
「うん、よろしくね! 特に、チョコレートの美味しいお店は絶対だからね!」
「はい。もちろん!」
「はあぁ……素敵……」
チョコレート菓子が安価で出回っているという話をラティナさんから聞いていた私は、ヨーデンに沢山あるというチョコレートのお店に思いを馳せていた。
すると、その想いを打ち破るような叫び声が聞こえた。
「あー! お姉ちゃん、やっぱり遊びに行くんじゃないか!!」
……。
ソ、ソンナコトナイヨ。
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