第46話 夜のビーチにて~延長戦~
こうして、バーベキュー大会兼、シルベスタとオクタヴィアの『交際おめでとうパーティー』が終わったあと、オクタヴィアは父であるアウグストに呼び出された。
「なんでしょうか? お父様」
さっきからなんども恥ずかしい場面を覗き見されたオクタヴィアは、父であるアウグストに対して、実に素っ気ない態度を取る。
そんな娘の姿に苦笑しながら、アウグストはあるモノを取り出した。
「ヴィア。これから、このペンダントを必ず付けていなさい」
そう言って手に持ったペンダントをオクタヴィアに手渡した。
「? なんですの? これ」
手渡されたペンダントをしげしげと見ながら聞いてみると、予想外な効果を告げられた。
「それは、身体に入った異物を排除するというシンが昔作ったペンダントだ」
「へえ、異物を」
「ああ、それは魔石による常時起動の魔道具でな。例えば、病原菌とか毒物とか、そう言った異物を身体に吸収させずに排除するというものだ」
「まあ、それは凄い効果ですのね。で? なぜこのタイミングでこの魔道具を渡されたのですか?」
こんな魔道具があるなら、もっと前から渡してくれていればいいものを、なぜこのタイミングで渡してきたのだろうか?
そう疑問に思ったのだが、この質問に対しては、いつも明朗な答えが返ってくるアウグストが実に回答を濁した。
「ああ、うん、それは、だな」
「はい」
珍しく言い淀む父を不思議そうに見つめるオクタヴィア。
増々言い辛くなるのだが、言わなければこれを手渡した意味がない。
なので、アウグストは意を決してその効果を告げた。
「異物というのは、病原菌や毒物だけじゃない。特に恋人のいる女性は、男のアレが体内に入ることがあるだろう?」
「男のアレ……」
そこまで聞かされたオクタヴィアは、とうとうその真意を理解し、顔を真っ赤に染め上げた。
「あ、あう、あう」
「シルバーはもう独り立ちできているので責任を取れるが、お前はまだ学生だ。なので、ヴィアが学生でいるうちは、必ずそのペンダントを身に付けているように。分かったな」
「ふあっ!? ひゃ、ひゃい!」
「うむ。じゃあ、もう行っていいぞ」
「し、しつれいしまふ」
オクタヴィアは、真っ赤になって呂律も回らないままコテージにあるアウグストの寝室を出た。
アウグストの寝室ということは、妻であるエリザベートもいる。
「うーん、あの子にはまだ早かったんじゃないですか?」
エリザベートがそう言うが、アウグストは決してそうは思わない。
「今まであいつはシルバーに対して、ずっと思いを募らせてきていたんだ。叶わないかもしれないと思いながらな。しかし、その想いが成就した。その想いが溢れている今、ヴィアに歯止めが利くと思うか?」
「……怪しいですわね」
「だろう? なら、交際を始めた今のうちに渡しておいて損はないさ」
そう言うアウグストに、なるほどと思いながら、エリザベートはようやく思いを成就させたオクタヴィアのことを思い浮かべた。
「あの小さかった子が、とうとう恋人をつくるようになりましたか」
「そうだなあ」
「もしオーグがあのペンダントを渡していなければ、来年には私たち、お爺様とお婆様になっていたかもしれませんわね」
エリザベートは自分でそう言いながら、ダメージを受けていた。
「お、おばあちゃん……」
「だから、それを回避するためにアレを送ったんだろう。変なダメージを受けるな」
「で、でも、ヴィアはあと二年半ほどで学院を卒業しますのよ? そうしたら、もう時間の問題ではありませんか」
自分たちが父と母でいられるのはあと二年半。
それ以降は、自分たちは祖父母になっているかもしれない。
その現実を見せつけられて、アウグストは珍しく遠い目をした。
「時の経つのは早いなあ……」
「本当ですわねえ……」
親になったのもつい最近だと思っていたのに、もう祖父母になるのかと、あまりにも早い時の流れを、国王夫妻はしみじみと感じていた。
一方、両親の寝室を出たオクタヴィアは、あまりの衝撃に顔が火照ってしまい、夜風に当たろうとコテージの外に出て来ていた。
もう夜も遅くなり、外を出歩いている人もいないため、辺りは静かである。
夜空を見ながら、先ほど父からもらったペンダントを眺める。
「異物排除の魔道具……」
確かに、病原菌や毒物などから身を護るものではあるが、実質父が示したのは避妊の魔道具としての効果である。
(ひ、避妊って……)
昨日まで考えたこともなかったその事実に、オクタヴィアは顔が火照ってしょうがない。
でも、シルベスタと恋人になったからには、そういう行為をすることもあるだろう。
それを考えるだけで、オクタヴィアは恥ずかしくて身悶えしてしまう。
そうやって外でクネクネしていると、足音が聞こえてきた。
「あれ? ヴィアちゃん?」
「! シルバー様!」
近付いてきたのは、ついさっき恋人になったばかりのシルベスタだった。
シルベスタが近付いてきたことで、オクタヴィアはほぼ反射的にその胸に飛び込んだ。
その際、手に持ったペンダントのことは、すっかり忘れていた。
「あれ? なにこのペンダント。こんなの持ってたっけ?」
「え? あ!」
オクタヴィアは、ペンダントの効果を思い出して、途端に真っ赤になった。
「えと、あの、これは、さっきお父様に頂いたのですが……」
「オーグおじさんに? なんだろう。王族に必要なもの?」
「そ、そうですね、王族にというか、恋人に必須というか……」
「?」
「あの、ですね」
オクタヴィアは、これ以上面と向かって話すのが恥ずかしかったので、シルベスタに耳打ちをした。
(避妊の魔道具ですの)
そう言われたシルベスタは、彼にしては珍しく顔を真っ赤にした。
「そ、そうか。確かに、恋人には必須だね……」
「はいぃ……これをさっきお父様から頂きまして……恥ずかしくてしょうがないので、外に涼みにきたのです」
「そうだったのかあ」
シルベスタはそう言うと抱き着いているオクタヴィアを引き離し、並んでベンチに座った。
そして、二人の今後について話し始めた。
「ヴィアちゃん」
「はい」
「僕はね、正直ヴィアちゃんとそういう関係になりたいと、そう思っている」
「ふえぇっ!?」
「はは、そりゃ、そういう反応になるよね。だから、僕は無理強いはしない」
「え?」
「もし、ヴィアちゃんの心の準備ができて、そういう関係になってもいいと思ったら、関係を先に進めるということでいいかな?」
シルベスタがそう言うと、オクタヴィアはしばらく考えたあと、頷いた。
「うん、ありがとう」
「い、いえ! こちらこそありがとうございます! 正直、シルバー様と思いが通じ合っただけで嬉しすぎて、正直その先のことをなにも考えていなかったのです。シルバー様が先のことまで、しかも私を優先してくれて、とても嬉しいのです!」
必死にそう告げるオクタヴィアのことが愛おしくて、シルベスタはその唇に軽くキスをした。
すると、さっきまで必死だったオクタヴィアの顔が見る見る赤くなっていった。
「もう、シルバー様はいじわるです」
「はは、ゴメンゴメン」
「それで、その、私の覚悟が決まったときなんですけど……」
「うん」
「どうやって合図しましょう?」
「合図か……」
なにか二人だけのサインでも決めようかと思っていたが、ふとオクタヴィアが持っているペンダントが目に入った。
「それは、これからずっと付けているの?」
「あ、はい、お父様がそうしろって」
「ふーん。あ、じゃあ、普段はそのペンダントは服の中に隠しておいて、覚悟が決まったら服の外に出しておくことでどう?」
「あ、それいいですね! そうしましょう!」
こうして、恋人になった初日、二人は夜が更けるまでイチャイチャしていたのであった。
そして、その様子も、実は皆に見られていることなど、二人は知る由も無かった。
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