第45話 夜のビーチにて
少し酔ったシルベスタに寄り添いながら、オクタヴィアはビーチに向かって歩いていた。
もう大分離れたのか、バーベキュー会場の喧噪はもう大分小さくなっている。
「ふぅ、ごめんねヴィアちゃん。まさか、こんなに酔うとは思わなかった」
「い、いえ! 全然迷惑なんかじゃありませんわ! むしろ、介抱させていただいてありがとうございます!」
真っ赤な顔をしてちょっと頓珍漢なことを言うオクタヴィアに、シルベスタは思わず吹き出してしまった。
「はは、介抱する方が御礼を言ってどうするのさ?」
「え? でも、噓偽りない気持ちですわ」
本気で分からないという顔をして首を傾げるオクタヴィア。
そんなオクタヴィアを見て、シルベスタは思わず頭を撫でた。
「ありがとうな、ヴィアちゃん」
「はぅあっ!」
シルベスタに頭を撫でられたオクタヴィアは、さらに真っ赤な顔をしてしまった。
これでは、どっちがお酒に酔っているのか分からない状態だ。
「はは、あ、そこにいい感じのベンチがあるから、そこ座ろうか?」
「へぁ? あ、はい!」
少し意識の飛んでいたオクタヴィアだったが、すぐに本分を思い出し、シルベスタをベンチに座らせた。
自分も横に座ったオクタヴィアは、それからどうしていいのか分からずに、黙り込んでしまう。
シルベスタも、ベンチに座ったあとは、少し酔いを覚まそうと俯いてジッとしていたので、二人の間には沈黙の時間が流れていた。
それから少し時間が経って、自分が落ち着いたことが分かったシルベスタは顔をあげた。
「ヴィアちゃん」
「ひゃっ! ひゃい!」
緊張でガチガチになっているオクタヴィアを見て、シルベスタはクスッと笑ってしまった。
今更、オクタヴィアの気持ちに気付いていないなんて言えないし、言わない。
幼いころから、ずっと真っすぐに自分に好意を向け続けてくれた女の子。
オクタヴィアが、ずっと自分のことを、幼馴染みのお兄ちゃんではなく、異性として好きなのは分かっていた。
シルベスタも、最初は年下の可愛らしい女の子という認識だったが、オクタヴィアが成長し、どんどん可愛く、綺麗になっていくのを間近で見ていて、心が惹かれなかったわけがない。
これが、普通の幼馴染みであれば、シルベスタが在学中にでも恋人同士に発展していたに違いない。
だが、オクタヴィアは違う。
違うのだ。
「僕はね、ずっと気付いてた。気付いていて、その気持ちを抑え込んでいた」
「……」
いつの日だったか、シャルたちと相談したときに、シルベスタはオクタヴィアのことをなんとも思っていないのではなく、気持ちを抑え込んでいるのではないか? と推測したことがあった。
まさか、本当に当たっているとは思いもよらず、オクタヴィアは思わず固まってしまった。
「はは。これで僕の勘違いだったらとても恥ずかしい話なんだけど……」
「い、いえ! 勘違いではありませんわ!!」
少し困った顔をしたシルベスタに、オクタヴィアは思わず大きな声で否定した。
「私は! 私はシルバー様が好きです! 大好きです!! これは幼馴染みのお兄様に抱いている感情ではありません!! もっと親しくなりたい! 恋人にだってなりたい! ゆくゆくは……」
「ヴィアちゃん」
「! は、はい」
「ありがとう。そう言ってくれるのは嬉しいよ。とても……とても嬉しい」
オクタヴィアの言葉を途中で遮って語られたのは、否定とも肯定ともとれる発言。
どう捉えていいのか分からず、オクタヴィアは不安な気持ちのままシルベスタの次の言葉を待った。
「これが、普通の幼馴染みだったら、僕はもう、ヴィアちゃんの気持ちにも応えていたと思う」
「……」
風向きが怪しい。
これはもしかしたら、哀しい結末を迎えてしまうのではないか?
そんな予感がした。
「ヴィアちゃんは、普通の女の子じゃない。アールスハイド王国第一王女、次期女王候補なんだ」
「!!」
シルベスタの前では、あえて気にしないようにしていた自分の立場。
それを、シルベスタ自身によって突き付けられた。
これは……駄目かもしれない。
そんな思いに捉われたオクタヴィアは、思わず顔を俯かせた。
本当は耳を塞いでしまいたいオクタヴィアだったが、シルベスタはオクタヴィアに構わず話を続けていた。
「僕は、ウォルフォードだ。英雄シン=ウォルフォードの息子。ヴィアちゃんのお父さんの親友の息子。なら、僕がヴィアちゃんと付き合っても問題ないのかもしれない」
ここに来て急に出てきた希望の言葉に、オクタヴィアは思わず顔をあげた。
そして、顔をあげたオクタヴィアが見たのは、苦しそうな顔をしているシルベスタの姿だった。
「……え」
「ヴィアちゃん、僕はね、ウォルフォードだけど……父さんの息子だけど……血の繋がりはないんだ」
「あ……」
シルベスタがシンの養子であることは有名な話だ。
なにせほとんどの国民が知っている。
シンとシシリーが実の子となんの遜色もなくシルベスタを育ててきたことも、国民は皆知っている。
しかし、当の本人は、そのことに負い目を感じているようだった。
「僕はね、父さんと母さんの息子であることを誇りに思ってる。けど、やっぱり二人の子じゃないから、迷惑をかけたくないってずっと思ってた」
「そ、そんなっ」
そんなこと、気にしなくていいのに、と言いかけたが、ウォルフォード家の人間でないオクタヴィアには言えず、言葉を詰まらせてしまった。
「気にし過ぎなのは分かってる。けど、どうしても考えてしまう。このまま、ウォルフォード家の、父さんと母さんの権威を笠にきてヴィアちゃんと付き合ってしまったら、僕はきっと後悔する。いつか、ヴィアちゃんに負い目を感じてしまう」
「……」
シルベスタの独白を、オクタヴィアはもうジッと聞き入っている。
口を挟むべきではない。
最後まで聞かなくては。
その結果、例えどんな結末になろうと、オクタヴィアは覚悟を決めた。
「だからね、僕は、一人前になりたかった。父さんや母さんの庇護や権威がなくても独り立ちできるようになりたかった」
オクタヴィアは、なぜ今、シルベスタがそんな話をするのか、なんとなく予想がついた。
ああ、だから、今日なんだと。
「さっき、父さんが言っていたよね? 今日、僕は初めてアルティメット・マジシャンズの依頼を一人でこなした」
「はい」
「依頼を任されるようになった。ようやく、一人前になれたんだ」
「……はい」
オクタヴィアの瞳からは、もうすでに涙が零れていた。
「ヴィアちゃん」
「はい」
もう慌てたりしない。
オクタヴィアは、落ち着いてシルベスタと向き合った。
「好きだ。僕と、恋人になってほしい」
「!!」
落ち着いていた、覚悟していた。
けれど、実際に愛しい男性から愛の言葉を紡がれるインパクトは、オクタヴィアが想像していた何倍も破壊力があった。
心の中が、シルベスタで一杯になる。
今までも一杯だったが、今は愛しさが溢れかえっている。
その愛しさが、涙となって、絶え間なく瞳から零れていく。
「……はい。はい。私も、私もシルバー様が好きです。大好きです。愛しております。こちらこそ、よろしくお願いします」
涙を流しながらも、懸命に笑顔を浮かべて返事をするオクタヴィア。
そのいじらしさに我慢できなくなったシルベスタは、オクタヴィアを抱き寄せた。
愛しい人間の腕の中に捉われたオクタヴィアは、今まで感じたことがない多幸感に包まれていた。
「ヴィアちゃん……」
「シルバー様……」
二人の視線が絡まり合い、顔が近付いていった……
そのときだった。
「「!!」」
急に周囲から殺気が立ち上がった。
お互い魔法使いであるシルベスタとオクタヴィアは、咄嗟に顔を離し、周囲を見渡した。
「な、なんだ!?」
「だ、誰です!?」
そう周りを誰何する二人だったが、殺気を迸らせた者たちは、それにこたえることなく、二人に襲い掛かった。
「なっ!?」
茂みから飛び出してきたのは、黒装束に黒い覆面をした、いかにも怪しい集団だった。
その集団は、身体強化に優れているのか、信じられないスピードで二人に迫ってきた。
そのスピードに驚きながらも、迎え撃とうとしたシルベスタに、襲撃者たちはあるものを投げつけてきた。
「ちっ!」
暗いビーチでの出来事だったので、何を投げられたのかは分からないが、自分たちを害するものだと判断したシルベスタは、咄嗟に物理障壁を展開した。
投げられたものはそのすぐあとに、障壁にぶつかって阻まれたのだが、足元におちたそれを見て、シルベスタは眉を顰めた。
「砂の……ナイフ?」
「はっ! こ、これは、まさか!?」
そのナイフを見て、オクタヴィアはあることに気が付いた。
「これは、変成魔法!!」
「変成魔法?」
「ええ、これは、ヨーデンの独自魔法です!」
オクタヴィアがそう叫ぶと、襲撃者たちが明らかに動揺した。
間違いない、彼らは……。
「この人たちは、ヨーデンの人間ですわ!!」
オクタヴィアの叫びに、襲撃者たちは一瞬たじろぐが、すぐに覚悟を決めた。
「バレたのなら仕方がない。元々その予定だったが、女、お前には死んでもらう」
敵対者から直接告げられた殺害宣言。
そのあまりにも非現実的な言葉に、オクタヴィアの身体が硬直する。
だが、ここには、彼女にとって頼もしい人物がいた。
「……誰を殺すって?」
オクタヴィアを殺害すると宣言されたシルベスタは、今までにないほど怒りに心を支配されていた。
それは、昔からずっと一緒にいるオクタヴィアでさえ見たことがない表情だった。
「ヴィアを……僕の恋人を殺すって? はは、笑えない冗談だね? それに、もし本気だったとしたら……」
その瞬間、シルベスタの身体から、信じられない量の魔力が噴出した。
そして、シルベスタは、怒りが限界値を突破したのだろうか、恐ろしいほど冷徹な表情で襲撃者たちに告げた。
「……塵も残さないで消し飛ばしてやるよ」
「!! あ、あなたに危害を加えるつもりはない! 私たちの標的はそちらの……」
「黙れ」
襲撃者たちの訳の分からない言い訳に少しだけ怒りが漏れてしまったシルベスタは、今の発言をした襲撃者を、なんらかの魔法……恐らく風の魔法で吹き飛ばした。
幸い、まだ理性は残っているようで、襲撃者が消し炭になることは避けられた。
「聞いていなかったのか? ヴィアを狙うということが、万死に値すると言っているんだ!!」
今度こそ、襲撃者を消し炭にするつもりで魔法を放とうとするシルベスタ。
そして、とうとう魔法が放たれようとした、そのとき。
「ストーップ! ストップ! ストップ!!」
襲撃者とシルベスタの間に、シンが割り込んできた。
必死になってシルベスタを止めようとしたシンだったが、一歩。
本当にあと一歩遅かった。
「あ」
魔法を放とうとしていたシルベスタは、咄嗟に止めることができず、そのまま放ってしまったのだ。
怒りに任せた全力の魔法。
それを、父に向かって放ってしまった!
「と、父さん!!」
シルベスタは、思わ声を上げてしまうが、当のシンは……。
「わっ」
そんな、ちょっとビックリした、くらいの態度で、シルベスタの全力魔法を、障壁で防いでしまった。
それも、その場で全て防いでしまうと余波が周りに広がってしまうので、障壁に少し角度を付けて、魔法が空に向かうように進路の変更まで行っていた。
一瞬の間にそこまで成し遂げてしまったシンに、シルベスタは唖然としてしまい、自分の目指す頂点があまりにも高いことを悟った。
と同時に、さっきまで感じていた怒りが、大分薄まっていることにも気が付いた。
「あ、ご、ごめんなさい、父さん」
「はぁ、まったく。いくらヴィアちゃんが狙われたからって我を忘れ過ぎだ。犯人を捕らえて背後関係を調査しないといけないのに、消し飛ばしてどうする」
『お前が言うな!!』
怒りで我を忘れたシルベスタに説教をするシンに、かつての仲間たちの大合唱が聞こえてきた。
「ん?」
「あ」
シンとシルベスタが振り返ると、シルベスタの魔法で腰を抜かしていた襲撃者たちが、すでに捕縛されていた。
「シシリーが狙われたときは、我を忘れて魔人を殲滅したくせに」
「あぁ、あはは」
呆れ顔のマリアにそう言われたシンは、今自分がシルベスタにした説教は、かつて自分がよく言われていたことだと思いだした。
「まったく、シルバーはパパによく似ていますね。マーリンお爺様とシン君の関係によく似ています」
「え? 母さん?」
シン、マリアに続いて現れた母に、シルベスタは目を丸くする。
そういえば、どうしてこのタイミングでこの人たちは現れたのだろうか?
そう思って周囲を見渡すと、襲撃者を取り押さえているのは、シンのかつての仲間たちであることに気が付いた。
「やれやれ、久しぶりにいい運動になったな」
「お父様!?」
襲撃者の一人を取り押さえているのが、自分の父であり国王であるアウグストであったことに驚いたオクタヴィアが、思わず声を張り上げた。
「っていうか、陛下があんまり前に出ないで下さいよ」
「心臓に悪いで御座る」
襲撃者を捕縛しながら、いい笑顔で汗を拭っているアウグストに、かつての側近であったトールとユリウスが苦言を呈する。
それはまるで学生時代にタイムスリップしたような光景で、シンは懐かしい気持ちになったが、他の面々は違っていた。
「ホントですよー、なにかあったらどうするんですかー」
普段は子爵夫人として普段はお淑やかで優しい雰囲気のアリスが、襲撃犯を取り押さえながらアウグストに軽い調子で文句を言う。
「え? 母様?」
今まで見たことがない母の姿に、息子のスコールは呆然とアリスを見ている。
「あれもアリス。人は、色んな面を持ってる」
「そ、そうなの? リンおばちゃん」
アリスの親友で、今は高等魔法学院の臨時講師であるリンがショックを受けているスコールを諭す。
「やれやれ、いつまで経ってもシンの周りは騒がしいねえ」
「まったくっスね」
アルティメット・マジシャンズの幹部、トニーとマークも、捕らえた襲撃犯を立たせながら懐かしい光景に笑みを浮かべる。
「はいはい。襲撃犯集めてねぇ。魔道具で拘束しちゃうからぁ」
学生時代から周囲に色気を振りまいていたユーリが、大人になってさらに増えた色気を振りまきながら魔道具で襲撃犯たちを縛り付ける。
「周囲にはもう誰もいませんね。襲撃犯はこの人たちだけみたいです」
他に襲撃犯がいないか索敵魔法を使って周囲を警戒していたオリビアが、周囲の安全を確認してアウグストに知らせた。
「そうか。ならこれにて捕縛終了だ。皆ご苦労だった」
『はい!』
アウグストの号令で、あまりにも鮮やかな捕縛劇は幕を下ろした。
それを見ていたシャルロットたちは、自分たちの親世代が、なぜ英雄と言われているのか、初めて目の当たりにした。
「す、すごい……」
シャルロットは、ただ素直にシンたちの動きをみて称賛し、
「……あの母さんが、あんなに冷静に周囲を把握してるなんて……」
普段は、母親としてのオリビアしか見たことがないマックスも、オリビアが英雄の一人として荒事に慣れている様子なのに驚いていた。
他の人たちも、普段は優しいおじさんとおばさんばかりだと思っていたのに、恐ろしい襲撃犯をなんの気負いもなく、まるで赤子の手をひねるように捕縛してしまったのを見て、シャルロットたち高等魔法学院生は、英雄がなぜ英雄と呼ばれているのか、その理由を思い知った。
「私たち、まだまだだね」
「そうだな。俺ももうちょい真面目に特訓するかな」
「そうしなよ。今のままだとオリビアおばさんにも勝てないよ?」
「う……そんなはずないって言いたいけど、今のを見せられると足元にも及ばない気がしてきた……」
シャルロットがマックスとそんな会話をしていると、二人に近付いてくる人影に気が付いた。
「あ、ヴィアちゃん。大丈夫だった?」
「怪我無いか?」
二人にそう訊ねられたオクタヴィアは、ニッコリと笑った。
「ええ『皆さん』のお陰で、かすり傷一つ負っておりませんわ」
オクタヴィアのその言葉を聞いて、シャルロットたちはホッと安堵した。
まさか、このタイミングでオクタヴィアたちを襲撃する者がいるなんて思いもしなかったからだ。
オクタヴィアになにごとも無くて良かったと安堵している面々に対して、オクタヴィアは更に笑みを深める。
「ところで」
一仕事終えて晴れ晴れとした顔をしている皆を見据えて、オクタヴィアはさっきから疑問に思っていることを告げた。
「どうして皆さまはこちらにいらっしゃるのかしら?」
それは、さっきシルベスタが抱いた疑問と同じもの。
そして、オクタヴィアはその答えを正確に把握しており、、満面の笑みを浮かべていながらも額には青筋が浮かんでいる。
「まさか、覗いていたりしませんわよねえ?」
そう問われた一同は思った。
(ヤバ、超怒ってる)と。
「さて、もう安全になったようだし、戻ってバーベキューの続きをするか」
アウグストが、オクタヴィアを無視し、皆に戻るように促した。
「なっ、お、おとっ」
「それに」
自分のことを無視する父に文句を言おうとしたオクタヴィアは、ジッとこちらを見るアウグストに言葉を遮られた。
少しの間ジッとオクタヴィアを見ていたアウグストだったが、すぐにニヤッと笑って言った。
「今日は我が娘ヴィアの思いが成就した記念日だ。皆で大いに祝ってやろうではないか」
『おおっ!!』
やっぱり、見られていた!
自分の人生で最高の瞬間を、よりにもよって両親や友人知人たち皆に見られていた!
そんな辱めを受けてしまったオクタヴィアは、プルプルと震えたあと、その怒りを爆発させた。
「おとーさまのばかあっ!!」
怒りと共に発動した雷の魔法は、真っすぐにアウグストに向かって行ったが、その魔法はあっけなくアウグスト自身の障壁によって防がれた。
「ふむ。どうやらよく研鑽を積んでいるようだ。これからも精進するようにな」
自分の全力を簡単に防がれたオクタヴィアは、怒りのあまり肩で息をしながらも、自分と父との間にある実力差を思い知らされていた。
それは奇しくも、恋人となったシルベスタと同じ境遇だった。
「やっぱり、オーグおじさんも凄いね」
「むきーっ! お父様のバカ! アホ!」
父の凄さを実感しながらも、自分のことを揶揄ってくるちちに対して悪態をつくオクタヴィア。
そんなオクタヴィアの頭を慰めるようにポンポンと撫でながら、シルベスタはオクタヴィアを宥めた。
「ま、まあまあヴィアちゃん。これで両親公認になったと思えば色々省略できていいんじゃないかな?」
「そ、それはそうですけどお」
オクタヴィアは、早速お祝いだとバーベキュー会場に戻っていく面々の後ろ姿を見ながら、あの場面を皆に見られていた恥ずかしさと、お祝いされる嬉しさと、あの瞬間は自分だけで独占しておきたかったという悔しさとが胸の内で渦巻いていた。
そんな自分の感情を持て余していたオクタヴィアだったが、一定のリズムで頭を撫でられていることで段々と落ち着きを取り戻し、自分の頭を撫でているシルベスタの手を取り、スリスリと頬ずりした。
「ヴィアちゃん?」
急にそのような行動に出たオクタヴィアに、どうしたのかと声をかけると、目を瞑って手をスリスリしていたオクタヴィアが、シルベスタの胸に飛び込んできた。
「ずっと……」
「うん?」
「ずっと、こういうことがしたかったんです」
「そっか」
オクタヴィアが、自分の胸にグリグリと頭を擦り付けているのを、されるがままにしているシルベスタは、そのままギュッとオクタヴィアを抱き締めた。
「僕も、ヴィアちゃんに抱き着かれるたびに、こうしたかったよ」
「……本当ですの?」
オクタヴィアは、今までのシルベスタの行動を思い出して、胡乱気な表情でシルベスタの顔を見上げた。
「当たり前だよ。僕のことを身体全体で好きだと現してくれている美少女が、こんなに密着してくるんだよ? これでなにも思わなかったら男じゃないでしょ」
シルベスタの言葉に気を良くしたオクタヴィアは、さらにシルベスタにしがみ付く力を強めた。
「じゃあ、シルバー様は、もう我慢しないんですか?」
それは、まるで挑発とも取れる発言。
いや、明確な挑発だった。
シルベスタの胸元で、上目遣いになりながらそんなことを言うオクタヴィア。
そんな恋人を見て、シルベスタはフッと笑みを溢した。
「ああ、もう、我慢しない」
シルベスタはそう言うと、オクタヴィアの顎を持ち、クイッと上を向かせた。
顎クイだ!
咄嗟に理解したオクタヴィアは、顔を羞恥で真っ赤にしながらも、そっと目を閉じた。
そして、そんなオクタヴィアにシルベスタの顔が近付いていき。
その影が重なった。
しばらくして離れた二人は、しばらく見つめ合ったあと、お互い照れ臭そうに笑った。
「は、恥ずかしいですわ……」
「僕は、嬉しかったよ」
「! も、もう!」
照れ隠しでシルベスタの胸をぽかぽか叩くオクタヴィア。
そんなやり取りすら、二人にとっては楽しくて仕方がなかった。
「さて、そろそろ行かないと、皆に怪しまれちゃうな」
「ですわね。まったく、あの覗き集団ときたら……」
二人揃ってバーベキュー会場に戻ろうとしたとき、二人は見てしまった。
もう会場に戻ったと思っていた皆は、実はそんなに離れていない場所にまだいて、二人のやり取りをずっと見ていたことに。
そして、皆がニヤニヤしながらこちらを見ていることを。
「!!~~」
またもや皆に恥ずかしい姿を見られたことに、恥ずかしさが限界突破してしまったオクタヴィアは、またしても全力で魔法を放った。
「ばかあぁっ!!」
結局、その後バーベキュー会場にてシルベスタとオクタヴィアの『交際おめでとうパーティー』が催されたのだが、オクタヴィアは、終始膨れっ面だった。
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