第40話 ヴィアちゃんの変化
今までの亀の歩みのような進展具合はなんだったのか? と言いたくなるくらい急展開だった日の翌日。
またヴィアちゃんがキモい状態になっているんだろうな、と思いながら登校した。
ある程度覚悟して教室に入ったんだけど、そこで見た光景に、私は別の意味で目を見開いた。
「あら、シャル。おはよう」
そこには、慈愛に満ち溢れた笑顔で挨拶をしてくるヴィアちゃんがいた。
なんか、後光も差している気がする。
「あ、お、おはよう」
「今日は素晴らしい日ですわね」
窓の外を見る。
今にも雨が降ってきそうだ。
「え……そう、かな? 雨降りそう……」
「天気なんてどうでもいいのです。だって、私の心はこんなにも晴れやかですもの!」
そう言って「うふふ」と朗らかに笑うヴィアちゃんは、別の意味で気持ち悪かった。
「ちょ、ちょっとシャルロットさん! 殿下のアレ、どうしてしまったのですか!?」
アリーシャちゃんが慌てた様子で私の腕を引っ張り、ヴィアちゃんに背を向けて詳細を聞きに来た。
昨日、ビーン工房で別れる前まではあんな状態じゃなかったからなあ。
日が変わってあの状態になっていたら、そりゃビビるよね。
「あー、昨日ね、お兄ちゃんとちょっと進展があって……」
「え!? ま、まさか!? 殿下とシルバーさん、お付き合いをされるようになったのですか!?」
「え……」
「「ん?」」
ヴィアちゃんに背を向けてコソコソ小声で話していたのだけど、そうすると私たちの身体は教室の入り口を向く。
すると、小声で話していても教室に入ってきた人には聞こえてしまう。
驚いた声が聞こえてきたのでアリーシャちゃんと二人して顔をあげると、そこにはラティナさんがいた。
「あ、おはようラティナさん」
「おはようございますわ」
「あ、お、おはようございます。あの、シャルさん、今の話、本当なのですか?」
今の話?
「ああ、ヴィアちゃんとお兄ちゃんの話? いや、まだ付き合ってはいないよ」
私がそう言うと、ラティナさんはなぜかホッと息を吐いた。
「そ、そうなんですか」
「まあ、時間の問題だとは思うけどねえ」
昨日の様子を見るに、ヴィアちゃんの勝ちは確定している気がする。
あとは、文字通り時間の問題だ。
「……え?」
私が昨日の様子を思い出してちょっとゲンナリしていると、ラティナさんが固まっていた。
「ん? どしたの?」
「あ、いえ! なんでもないんです!」
「そう? あ、今日はママがいるから治癒魔法の訓練する? するなら連絡しとくけど」
「お、お願いします」
「おっけー。じゃああとで連絡しとく」
なんで固まってたのかは分からないけど、ラティナさんにとって一番大事なのは治癒魔法を覚えてヨーデンに帰ること。
折角お世話係に選ばれたんだから、少しでもラティナさんにとって実りある留学にしないとね。
今日の放課後の予定も決まり、いつも通りに授業を受ける。
いつもとあまりにも雰囲気の違うヴィアちゃんに、デビーとレティが教室に入ってくるなり『ビクッ!』としたり、ミーニョ先生から心配されたりしていたけど、概ね問題なくこの日の授業は終わった。
そして、放課後になりラティナさんと魔法の訓練を始めたのだけど……。
「ラティナさん? 集中が乱れていますよ?」
「は、はい! すみません!」
「うーん」
どうもラティナさんの調子が悪いみたい。
治癒魔法を覚えるために、まず魔力量の増加を図っているんだけど、その魔力制御にいつものような繊細さが見られない。
それが気になったのか、ママが何回か声をかけているが、すぐに集中が乱れてしまう。
これは、なにか問題でもあるんだろうか?
私でもそう感じるくらいだから、ママがなにも感じないわけがない。
少し考えたママはラティナさんに声をかけた。
「ラティナさん。今日の訓練はやめておきましょう」
ママにそう言われたラティナさんは、絶望したような顔をしてママを見た。
「え? そんな……それって、もう教えて下さらないということですか?」
「ああ、違いますよ。今日のラティナさんはどうにも集中力が持続しないみたいですから、ちょっとお話をさせていただこうかと思いまして」
「お話……ですか?」
絶望の表情から困惑の表情に変わるラティナさん。
「ええ。魔法は心に非常に敏感に反応します。今の状態で訓練をしても身になりませんし、なによりラティナさんの悩みを解決した方がいいと思いましたから」
「悩み……」
「ええ。というわけでシャルたちは訓練を続けていなさい」
ママはそう言うと、ラティナさんを連れてゲートで家に帰ってしまった。
「……王女様、置き去り?」
今日はヴィアちゃんも一緒に来ていたのだが、ママはヴィアちゃんもここに置いて行ってしまった。
「まあ、ここは人気もありませんし、大丈夫ですよ」
自分を特別扱いしないママに、ヴィアちゃんは特になにも思うところはないらしい。
「それより、ラティナさん、なにかに悩んでたのかな?」
「……さあ、私には分かりかねますわ」
「だよねえ……はぁ、私、お世話係なのに、気付けなかったなあ」
私がそう言うと、ヴィアちゃんはクスクスと笑った。
「シャルに他人の心の機微が分かるとは思えませんわ」
「それは非道いよ! ヴィアちゃん!」
私だって他人に気遣いくらいできるよ!
「ほらほら、遊んでないで練習しないと。シシリー様、そういうのすぐ見破るじゃん。怒られるよ?」
デビーの一言でここに訓練をしに来ていることを思い出した私たちは、すぐに魔力制御の練習に取り掛かった。
べ、別に、ママのお仕置きが怖かったんじゃないんだからね!!
……嘘です。超怖かったです。
その後、しばらくしてからママとラティナさんが戻ってきたんだけど、どんな話をしていたのかは教えてもらえなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます