第27話 街歩きにスイーツは必要
授業が終わったあとの放課後、ラティナさんは魔法練習場の補修を手伝ってくれた。
変成魔法は補修が得意、という言葉通り私よりも綺麗に魔法練習場の床を綺麗に補修していた。
お陰で予定より大分早く、そして綺麗に補修が完了した。
思わずラティナさんに抱き着いて御礼を言っちゃったよ。
マジ女神。
ちなみに幼馴染み三人とデビーとレティは、それが終わるまで待っていてくれたけど、結局手伝ってくれることはなかった。
「はぁ……ラティナさんは手伝ってくれたのに、皆は冷たいよね」
補修が終わったあと、学院から徒歩で帰宅しながら私がジト目で皆を見ると、ヴィアちゃんが呆れたように言い返してきた。
「そもそも、あれはシャルに対する罰でしょう。私たちが手伝っては意味がありませんわ。本当なら、ラティナさんにもお手伝いは控えて頂きたかったですわ」
ヴィアちゃんがそう言うと、ラティナさんはペコペコ頭を下げながら弁明した。
「も、申し訳ありません! その、どうしても早くシャルさんのお家に行きたかったものですから!」
その必死な表情から、ヴィアちゃんの不興を買ったと思っているんじゃないかな?
王女様の不興……平民にとっては途轍もなく恐ろしい言葉に聞こえるよね。
だから、ラティナさんは必死の形相だ。
「ラティナさん、そんなに謝らなくてもいいよ。ヴィアちゃんは真面目だから正論を言ってるだけで、怒ってるわけじゃないから」
必死なラティナさんを見て哀れに思ったのか、マックスが気にしなくていいとフォローする。
「そ、そうなのですか?」
ラティナさんは、本当にヴィアちゃんが怒っていないかどうか、恐る恐るヴィアちゃんを見た。
そんなラティナさんの態度に、怖がられているヴィアちゃんは苦笑していた。
「本来なら、と言ったでしょう? 今回はラティナさんの事情も分かりますから、別に怒りませんわよ」
「あ、ありがとうございます」
確かに、ラティナさんが手伝うと言ったときも、実際に手伝っているときもなにも言ってなかったな。
あのときは、ラティナさんの変成魔法に見惚れて気付かなかったけど、今までのヴィアちゃんなら確実に止められてるケースだ。
ラティナさんの心情を慮ってくれたんだなあ。
「それに、シャルは今まで罰を受けすぎて、感覚が麻痺している気がしますから、ちょっと釘を刺したのですわ」
ヴィアちゃんのその言葉に、デビーとレティが吹き出した。
「ば、罰を受けすぎたって! シャルって一体何やらかしたんですか!?」
「えっと……シャルさんたちってアールスハイド王立中等学院出身ですよね? あんな名門校で罰?」
デビーは大爆笑で、レティは困惑しつつも笑いが堪えられない様子だ。
「色々やらかしてますわよ? 初等学院時代には男子生徒と大乱闘になって罰掃除やらされてましたし……」
「しょ、初等学院から! 男子と乱闘!」
ああ、デビーはダメだ。
なにを聞いても笑いのツボに入るモードになっちゃった。
「中等学院時代も、なにを思ったのか花壇の花に治癒魔法をかけて、大量に枯れさせて、一人で植え替えをやらされてましたわね」
「なんで!?」
デビーはもう息も絶え絶えだ。
いや、花の一部が病気になってたから、治癒魔法かけたら治るかな? って思ったんだよ。
そういえば、あれ本当になんで枯れたんだろう? パパに聞いても説明が難しくてイマイチ理解できなかったんだよなあ。
「まあ、数え出したらキリがありませんが色々やらかしていますからね。反省を促すためにも罰の軽減などさせられないのです。ラティナさんも、今回はしょうがありませんが、今後は注意してくださいませ」
「は、はい。かしこまりました」
うーん。
これって、私が今後もやらかして罰を受ける前提で話が進んでる?
「ちょっとヴィアちゃん、もう高等学院生なんだから、そうそうやらかしたりしないよ!」
「今日早速やらかした人間がなにを言ってますの!?」
「そうだった」
「も、もうダメ……」
ああ……デビーがお腹を抱えて座り込んでしまった。
これは、笑いの発作が収まるまで動けないかも。
「デ、デビーさん、大丈夫ですか?」
ラティナさんが心配そうに声をかけるけど、ただ笑ってるだけだから心配なんて必要ないよ。
デビーが動けなくなってしまったので、私は辺りを見回す。
この辺は、かわいい雑貨屋や手軽に食べられる食事処なんかが多いので高等魔法学院だけでなく、近くにある学院の生徒たちも多く行き交っている。
そう言えば、留学生が来たら紹介しようと思ってたお店とかも、この辺には多いんだよね。
「ねえねえラティナさん、あそこのお店のクレープが美味しいんだよ。食べてみない?」
「くれーぷ? ですか?」
「そう! ぜひ食べてみて!」
私たちは、未だにヒーヒー言ってるデビーを引き摺ってクレープ屋さんの前に行く。
そして、そこでメニューを見た私は、衝撃を受けた。
「な!? チョ、チョコトッピングの期間限定セール……だと!?」
チョコレートは、大陸の南で採れるカカオという身の種を加工したもので、メッチャ美味しいんだけど、そんなに沢山採れない希少なものなのでお値段も高い。
それが、期間限定とは言えセールされているとは!!
「こ、これは、チョコトッピングをするしか……でも……!」
そう、チョコレートは希少なので値段が高い。
それは、たとえセールをしたとしても、おいそれと手を出せる値段ではない。
どうする?
ここはやはりチョコトッピングに……いや、それをしてしまうと今月のお小遣いが……また魔物狩りに行くか?
「てい」
「痛っ!」
どうしようか悩んでいると、ヴィアちゃんに頭をチョップされた。
「ちょっ! なにすんのよヴィアちゃん! 私が真剣に悩んでるときに!」
「その悩みにかまけて、ラティナさんのこと放置してるんじゃありませんわよ」
「あ」
ヴィアちゃんに言われてラティナさんを見ると、私たちのやりとりに顔を引き攣らせていた。
「ご、ごめんねラティナさん。えっと、これはクレープって言って、薄いクレープ生地に色々とトッピングができるスイーツなんだ」
「へえ、どれも美味しそうですね」
「どれも美味しいんだよ! でね、そのトッピングの中でも、一番高いチョコトッピングが値引きされてるんだけど……それでも高いからどうしようか悩んでて……」
私がそう言うと、ラティナさんはキョトンとした顔をした。
「え? チョコって高いんですか?」
「え?」
ラティナさんの言葉は全員の視線を集めた。
急に注目され、あたふたするラティナさんだったが、どうにか話を続けてくれた。
「えっと、ヨーデンではカカオはよく採れます。なので、チョコレートは安価なおやつとして小さい頃からよく食べてましたね」
その言葉を聞いた私とヴィアちゃんは、二人揃ってラティナさんの手を握った。
「わひっ!」
「ラティナさん!! 有益な情報をありがとうございますわ!!」
「本当だよ! これは早速パパに……いやオーグおじさんに報告しないと!!」
「ええ!!」
「え、ええ?」
凄い! これは凄い情報だよ!!
ヨーデンからカカオ豆が大量に輸入できれば、チョコの値段が下がる!
ヨーデンとの交易品に、ぜひともカカオ豆を入れてもらえるようにオーグおじさんに交渉しないと!
「ちょっと! シャルも殿下も落ち着いてくださいよ!」
私とヴィアちゃんが興奮して、どうやってオーグおじさんに交渉しようかと騒いでいると、ようやく復活したデビーに止められた。
「「あ」」
またラティナさんを放置してしまった。
「ご、ごめんね。じゃ、じゃあ、クレープ買おうか」
「はい!」
ラティナさんは再三放置したにも関わらず、怒ったりせず許してくれた。
マジ女神。
そんなラティナさんに、クレープ屋のメニューを見せ、その内容を説明していく。
そうして説明を終えたあと、ラティナさんが選んだのはイチゴと生クリームたっぷりクレープだった。
ヨーデンは、さっきラティナさんが言ったみたいに南の方にある大陸なので気温が高めで、甘い生クリームを使ったスイーツとか、ほんのり温かいスイーツとかは流行ってないんだって。
なので、ラティナさんにとっては珍しい生クリームたっぷりのクレープを選んだのだそうだ。
ちなみに、私は悩みに悩んだ挙げ句、チョコバナナクリームにした。
これで、今月のお小遣いがほぼ無くなったので、デビーを誘ってまた魔物狩りに行かないといけないな。
「! おいしいです!!」
クレープを頬張ったラティナさんが、満面の笑みを浮かべている。
それにしても、なんで他人が食べてるものって美味しそうに見えるんだろう?
ラティナさんのイチゴクリームが美味しそうだったので一口もらう。
お返しに、私のチョコバナナクリームも一口あげる。
お互いのクレープを食べさせ合い、その美味しさに揃って笑い合う。
あー、やっぱり仲良くなるにはスイーツだよねえ。
「それにしても……ヴィアちゃんのは、相変わらず割り切ってるよね」
「そうですか?」
ヴィアちゃんが頼んだのはチョコのみ。
他のトッピングは一切なしという、実に割り切ったクレープだった。
「私はチョコを味わいたいのです。他のトッピングなど雑味にしかなりませんわ」
「潔すぎて尊敬するわ」
こういうスイーツだと、普通色々悩むよねえ。
それなのに、ヴィアちゃんは昔からチョコ一択。
「それに比べて……」
私は視線をヴィアちゃんからレインに向けた。
そこには、生クリームとフルーツを沢山トッピングしたクレープを幸せそうな顔して食べているレインの姿があった。
「うま……幸せ」
「ああ、ほら。またクリームが付いてますわ」
その横で、アリーシャちゃんが甲斐甲斐しく世話をしているのもいつも通りだ。
そう、レインはスイーツ大好き男子で、クレープ屋に来るといつもああなのだ。
「マックスも食べればいいのに」
もう一人の男子に声をかけると、マックスは「うっ」という顔をした。
「いや……もう匂いだけで歯が浮きそうだから……」
マックスはレインと違って、スイーツ苦手なんだよなあ。
嫌いってわけじゃないけど、甘すぎるのが苦手なんだそう。
そんな感じでワイワイ言いながら改めて家に向かおうとすると、レティの顔が強張った。
「ん? どしたん? レティ」
「え、あ、いや」
レティはそう言うと、視線を逸らして俯いてしまった。
「?」
なんだろうと思ってレティが視線を向けていた方を見てみると、そこにはどこかの高等学院と思われる制服を着た三人の女子がいた。
同い年くらいかな? まあ、この辺では珍しくない組み合わせだけど、レティの様子がおかしい。
「どうし……」
「あれえ!? そこにいるの『卑怯者レティ』じゃない!?」
レティにどうしたのかと訊ねようとする前に、その三人組の女子の一人が大きな声を出した。
到底、聞き逃せないようなことを叫びながら。
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