第24話 留学生が来た!
ミーニョ先生からヨーデンについての授業を受けてから数日後、ついにアールスハイド高等魔法学院に留学生がやってきた。
「お前ら席に着け。さて、本日よりかねてから話のあった留学生が来ることになった」
教壇に立った先生のその言葉を受けて皆に緊張が走る。
私もそうだ。
なんせ、私がお世話係だからね。
どんな子なんだろう?
そんな期待を胸に、教室の扉を見つめていると先生の「入ってくれ」と言葉という言葉のあとに扉が開いた。
そして、教室に入ってきたのは……。
「おぅふ……」
身長はヴィアちゃんと同じくらい。
事前に聞いていた通り、褐色の肌と長い黒髪をポニーテールにした女の子が入ってきた。
その姿を見て、私は思わず声を漏らしてしまった。
だって……その子、ヴィアちゃん以上にボン! キュ! ボン! なんだもん!
ええ……同い年でしょ……?
なんでこんな差があるの……。
周りを見渡すと、男子は漏れなく見惚れているのが分かる。
レインだけ、なにを考えてるのか分からないけど……。
普段ヴィアちゃんを見慣れているはずのマックスまでボーッとその子を見ている。
なんだ、アイツ。
マックスだけじゃなくてハリー君とデビット君も間抜け面だ。
クラスの男子の関心を掻っ攫っていったことに少しムッとしながらも、あのプロポーションじゃあしょうがないよなと納得する。
だって、デビーやレティまで驚いた顔して見てるもん。
唯一余裕が感じられるのはヴィアちゃんだけだ。
「さて、この度ヨーデンから留学してきたラティナ=カサールさんだ。ではカサール、自己紹介を」
「はい、先生」
うぉお……声まで色っぽいぜ……。
「皆さん、初めまして。ヨーデンから参りました、ラティナ=カサールと申します。ヨーデンとこちらでは魔法の進化の仕方が違うそうで、我が国にはない魔法技術を習うためにやってまいりました。よろしくお願いします」
ラティナさんはそう言うと深々と頭を下げた。
ってか、ラティナさん! それはヤバイ!
肌が褐色な分、張りのある感じに見える胸が強調されてるって!
ハッとして男子たちを見ると、レインまでラティナさんの胸を凝視していた。
この、エロ猿どもめ!
私が揃って鼻の下を伸ばしている男子どもをイライラしながら見ている間に、先生が話を進めていた。
「それで、カサールの席なんだが……申し訳ありませんが殿下、ウォルフォードの隣にしたいので席を一つズレて頂いていいですか?」
「シャルがお世話係ですものね、分かりましたわ」
先生の要請を受け、ヴィアちゃんが席を立つ。
それに合わせてマックス、レイン、アリーシャちゃんも席をズレる。
「それではカサール、その席に着いてくれ。隣の席の彼女が君の世話係になるシャルロット=ウォルフォードだ。なにか分からないことがあれば彼女に聞くように。ウォルフォード、頼んだぞ」
「任せて!」
私が胸を張ってそう言うと、ラティナさんはクスッと笑って私の隣の席に着いた。
「よろしくお願いします、ウォルフォードさん」
「シャルでいいよ。よろしくね! ラティナさん!」
「はい! よろしくお願いしますシャルさん!」
私とラティナさんが挨拶していると、隣にズレたヴィアちゃんから声がかかった。
「オクタヴィアです。私もよろしくお願い致しますわ」
「え、あ、は、はい……よろしく、お願いします」
さっき、先生がヴィアちゃんのことを『殿下』って呼んだのを聞いていたのだろう、メッチャ緊張した面持ちでラティナさんは頭を下げた。
その様子を見ていた先生が苦笑しながら言った。
「カサール。緊張するなという方が難しいかもしれんが、この学院はアールスハイドにおける魔法の最高学府。ここで評価されるのは魔法の実力のみ。身分を忘れろとは言わんが相手の身分を見て忖度することは許されない。そのことを覚えておいてくれ」
「ふふ、先生のおっしゃる通りですわ。この学院に通っている以上、私はただの一生徒。皆さんと同じ立場なのですよ」
先生に追随するようにヴィアちゃんもラティナさんに声をかける。
ラティナさんに緊張させないように微笑みながら話しかけたもんだからラティナさんの顔が褐色の肌でも分かるくらいポッと赤くなった。
「ですから、私とも仲良くして頂けると嬉しいですわ」
「は、はい! 分かりました!」
ヴィアちゃんとラティナさんの二人の美少女が微笑み合っている光景は、女子である私が見ても眼福だ。
微笑ましい光景だというのに、先生の一言でその光景は終わってしまった。
「とはいえ、この学院を出れば王女殿下だからな。その辺りの線引きは間違えないように頼む」
先生の言葉に、赤くなっていた顔が今度は青くなっていく。
引き攣った顔をしてしまったラティナさんを見て、ヴィアちゃんは先生に向かって不服そうな顔を見せた。
「もう先生。折角気兼ねなく接してもらえそうでしたのに」
「いえ、申し訳ありませんがこればかりは譲れません。カサール、どういう態度で接すればいいのか分からないならウィルキンスやフラーに習うといい。二人も平民だからな」
「はい! お任せください先生!」
先生からの御指名にデビーが勢いよく立ち上がって自分の胸を叩いた。
「ラティナさん! 私はデボラ=ウィルキンス、平民よ! デビーって呼んでね!」
特別な感情を抱いている先生に御指名されたもんだから、デビーは張り切ってラティナさんに自己紹介していた。
「あ、は、はい。よろしくお願いします」
「あ、私はマーガレット=フラウです。私も平民です。レティって呼んでください」
「分かりました」
デビーとレティの自己紹介を受けたラティナさんだったが、少し首を傾げたあと私を見た。
「えっと……」
戸惑った様子で私を見ているラティナさん。
デビーとレティに習えって言っていたのに私に習えって言わなかったのが不思議だったんだろうな。
そんなラティナさんを見て先生は苦笑を浮かべた。
「あー、ウォルフォードは特殊でな。カサール、君たちがこの国に到着したときに色々とレクチャーしてくれた御仁がいただろう?」
「あ、はい。シン様ですね。この国……いえ、この大陸の英雄で、すでに私たちの魔法もマスターしてしまった史上最高の魔法使いだという」
え? パパ、もうヨーデンの魔法マスターしたの?
聞いてないんだけど!
「そうだ。そのシン様のフルネームは覚えているか?」
「ちょっと待って下さいね。シン様としか呼んでいなかったので……えっと、確か、シン=ウォル……あ」
「そうだ。ウォルフォードはシン様の娘でな。殿下とも幼馴染みで気安い関係なんだ。だから、ウォルフォードと殿下の関係は見習わなくていい」
「そ、そうなんですね……そうでしたか、シン様のご息女様でしたか……」
ご、ご息女様って……。
「ちょ、ちょっとやめてよ。私だって平民なんだってば。余所余所しいのはなしで」
「え、でも……」
「本当にやめて……凄いのはパパであって、私はまだなんにも凄くないから……」
確かにパパは超凄いし、大好きで尊敬してるけど、そのパパの娘だからってだけで敬われるのは本当に嫌。
いつかはパパに近付きたいし魔王の二つ名も継承したいけど、今の私はリンせんせーにいいようにあしらわれているただの学院生。
そんな状態なのに『ご息女様』なんて呼ばれたくない。
「私はただのシャルロットだよ。パパの娘っていう呼ばれ方は好きじゃない」
だって、そうでないと私はパパがいないと無価値な人間に思えるもの。
そんな私の思いが通じたのか、ラティナさんは一瞬目を見開いたあとフワッと微笑んだ。
「はい、分かりましたシャルロットさん。これから色々と教えてくださいね」
「おっけー、任せて! じゃあ、早速今日の放課後街に出ようよ。色んなお店を教えてあげるよ!」
「おいおい、朝から放課後の話をするんじゃない。これから授業だぞ」
「あ、そうだった」
先生と私のやり取りで教室が笑いに包まれる。
「さて、授業とは言ったが今日はカサールが初めて登校した日だ。まずは残った者たちの自己紹介と、お互いの交流を深める日にしようか。じゃあ、ワイマール。女子ではあとお前だけだから、ワイマールから自己紹介をしてやってくれ」
「はい。分かりましたわ」
こうして、アリーシャちゃんを皮切りに、マックス、レイン、ハリー君、デビット君も自己紹介をした。
貴族、平民が入り混じっていることに驚いてはいたものの貴族組であるアリーシャちゃんやハリー君が友好的な態度で接してくれたのでラティナさんも特別緊張しないで済んだようだ。
こうして、我がアールスハイド高等魔法学院一年Sクラスは、初めての留学生を概ね和やかに受け入れたのだった。
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