第22話 自業自得は遺伝
南洋の新大陸にある国、ヨーデンから使節団が来て一週間が経った。
その間、パパは王城から毎日呼び出されて使節団の人と交流を図っていた。
パパの身分は平民なのに、なんで国同士の話し合いに参加させられているんだろう? と疑問に思って聞いてみると、ヨーデン側が提案する交流の中にアールスハイドの魔道具技術の伝授があるらしい。
その代わり、ヨーデンからアールスハイドにない魔法技術の伝授があるとのこと。
アールスハイドの魔道具技術の発展はほぼパパの功績だし、ヨーデンからの魔法技術の伝授もパパが教えて貰うのが一番効率がいいかららしい。
パパ、天才かよ。
……天才だったわ。
ヨーデンから教えて貰える魔法技術というのがどういうものなのか教えてもらいたかったけど、ちゃんと習得してから皆と同じ時期に教えるということで、今はまだ教えて貰えなかった。
ただ、相当パパの気を引いたようで、家に帰ってきてからもパパの部屋……私たちは実験室って呼んでるけど、その部屋によく籠っている。
家に帰ってくるなりご飯のとき以外はずっと籠っているのでママが怒るんじゃないかと思っていたけど、ママもひいお婆ちゃんも苦笑するだけ。
なんでも、パパは昔から一つのことに集中しだすと周りが見えなくなるほど夢中になるんだそうだ。
その辺、ママはすっかり心得ているようで、ある程度籠る時間が経過すると休憩を促しに行く。
そして、しばらく出てこない。
相変わらず、いくつになってもラブラブなんだから、まったく。
けど、これだけ集中しているってことは、近々ヨーデンの魔法も習得できるんじゃないかなと思っている。
そんなある日のこと、家に帰ると珍しくリビングにパパがいた。
「あれ? どうしたのパパ? もしかして、もう魔法覚えた!?」
「あー、もうちょっとかな。それよりシャル、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「なに?」
「シャルのクラスってどんな雰囲気?」
「雰囲気?」
「ああ。シャル、時々友達を家に連れてくるだろ? あの子たちはヴィアちゃんとも仲がいいみたいだし、クラスメイトだけで結束しちゃってる感じ?」
パパからの予想外の質問に、私はクラスの様子を思い出した。
「うーん。仲は良いけど別にそこまで結束してる感じじゃないかな。男子と女子で別行動することも多いし」
「そっか。じゃあ、大丈夫かな」
「なにが?」
なんか一人で納得したパパに、意味が分からない私は理由を聞いた。
「ああ、実は、ヨーデン側から要望があってね、学生を数人こちらに留学させたいって言ってきてるんだ」
「留学生!? あ! だからクラスの雰囲気とか聞いたの!?」
パパの言葉で私はピンと来た。
留学生をウチのクラスで受け入れられないかと考えてるんだ!
「そう。まあ、Sクラスは定員十人だけど、パパたちの代じゃ途中でマークたちが増えたりしたし、厳密に十人でなくてもいいみたいだしな」
「あ、それなら大丈夫。一人欠員出てるから」
「え、もう? まだ入学して一ヶ月くらいしか経ってないのに?」
「うん。なんか、最初の授業で付いていけないって諦めちゃった子がいるんだ」
「そうなのか。じゃあ、ちょうどいいのかな」
「そうそう、それで? いつ、何人来るの?」
アールスハイドは、教育も文化も世界のトップを走っているから各国から留学生がよく来る。
しかし、私は留学生と実際に関わったことはない。
初めて留学生という存在と関われるかもという期待でワクワクしてしまう。
「いやいや、まだ打診の段階だからね。受け入れ側に問題がないかどうか確認して、それから留学生の選抜に入るから、いつ、何人になるかは分からないよ」
「えー」
期待させといてそりゃないよパパ。
不貞腐れる私に、パパは苦笑いを浮かべた。
「そう膨れるな。まあ、一人はシャルのクラスになるだろうから、それまで楽しみに待ってな」
「ちぇー」
私のクラスはSクラスで、しかも欠員が一人いるから確実に留学生は一人入るだろう。
選抜するって言ってるから優秀な人が来るだろうしね。
「あ、この話、皆にもしていい?」
「ヴィアちゃんは多分話を聞かされるだろうから大丈夫だけど、それ以外はダメ。まだ本決まりじゃないんだから」
「そっか」
あー、皆とこの話題でワイワイやりたかったのになあ。
そう残念がっていると、パパが私の頭をワシワシと撫でた。
「はは、本決まりになったらちゃんと教えてやるから、そう残念そうな顔をするな。それより、本決まりになったらシャルがその子の面倒を見てやるんだぞ?」
「私?」
「そう。シャルはパパの娘だろ? パパと繋がりのある人がお世話係になった方が、色々と都合がいいからさ」
パパと繋がりのある人……つまり、アールスハイドとヨーデンの話し合いに詳しい人ってことか。
「それって、ヴィアちゃんも?」
「お前……王女様にお世話係やらせるつもりか?」
「あ、そっか。ヴィアちゃん、王女様だった」
私がそう言うと、パパは大きなため息を吐いた。
「そこ忘れるなよ……」
パパがジト目でそう言ってくるけど、私もパパにジト目を向けた。
「パパに言われたくない」
私がそう言うと、少し離れたところで話を聞いていたママとひいお婆ちゃんが「「プッ」」と噴き出した。
「シャルの言う通りさね」
「本当ですね」
王族を王族と思ってないパパには言われたくないよね。
私と、ママ、ひいお婆ちゃんからそう言われたパパは「う……」と言って黙ってしまった。
自業自得だね。
そんなやり取りがあった翌日、学院の教室でヴィアちゃんに小声で話しかけた。
「ねえヴィアちゃん、留学生の話聞いた?」
私がそう言うと、ヴィアちゃんは一瞬周囲を見回してから小声で返してきた。
「聞きましたけど、ここでそういう話をするんじゃありません。どこで誰が聞いているか分からないんですよ?」
「だから小声で話してるんじゃん」
「そういうことではありません。そもそも話題に出すこと自体……」
「シャルロットさん、殿下。一体なんのご相談ですか?」
私とヴィアちゃんがコソコソ話していると、アリーシャちゃんが割り込んできた。
アリーシャちゃんは、私たちの側に立って腕を組んで見下ろしてきている。
「え? いや、別に?」
私は咄嗟にそう言って誤魔化したけど、アリーシャちゃんは不愉快そうに顔を顰めた。
いやいや、アリーシャちゃん、王族を敬ってるんだよね? その態度はよろしくないんじゃ……。
「シャルロットさんと殿下がそうやってコソコソ話し合っているときは、大抵碌なことにならないんですわよ!」
私たちの自業自得だった!
アリーシャちゃんに不審な目で見られている私たちは、過去の所業を思い返して二人で苦笑してしまった。
「いやいや、本当に悪だくみとかじゃないんだよ!」
「ごめんなさいアリーシャさん。これは、他の人には話せない内容ですの」
「……王家とウォルフォード家の話ですか?」
「まあ、そんなとこかな?」
「ええ、そうですわ」
私とヴィアちゃんがそう言うと、アリーシャちゃんはしばらく無言で私たちを見たあと長い溜め息を吐いた。
「……分かりました。信用します。殿下、ご無礼を働きました。申し訳ございません」
アリーシャちゃんはそう言ってヴィアちゃんに深々と頭を下げた。
「大丈夫ですよアリーシャさん。気にしないでください」
私もヴィアちゃんも、特に初等学院のころはアリーシャちゃんによく迷惑をかけたからなあ。
疑われても怒ることなんてできない。
むしろ、今まで迷惑かけてゴメンね、アリーシャちゃん。
そんなことがあったので、私は学院で留学生の話題をヴィアちゃんに振ることは止めた。
どこで誰が見てるか分からないっていう意味がよく分かったからね。
放課後も、大抵デビーが一緒にいるので中々ヴィアちゃんと二人きりになる状況というのが生まれなかった。
そんな状況なので、留学生のことについて話すことができないまま一週間が過ぎたころ、突然パパから告げられた。
「シャル、決まったぞ。シャルのクラスに一人、あと、別のクラスと他の学院にも数人留学生が派遣されることになった」
「え!? もう!?」
まだ打診されてから一週間しか経ってないじゃん!
なのに、もう決まったの!?
「早急に国に戻って協議したいっていうから、ウチから飛行艇を出したんだ」
「そりゃ早いよね!」
飛行艇を使ったら数時間で着いたらしい。
しかもアールスハイドからの随行員は無線通信機を持ってるから、選抜が終わったらすぐに連絡が来たそうだ。
仕事早すぎ。
「アルフレッド先生にも話を通してあるから、明日にでも発表があるんじゃないかな?」
まあ、ヴィアちゃんとコソコソ話すより皆と話した方がいいし、まあいいか。
こうして、ウチのクラスに留学生が来ることになったのだった。
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