第16話 春の競技会

 高等魔法学院で新たに催される新行事。


 選抜魔法競技会。


 今まではできなかった魔法による対人戦が、パパとお兄ちゃんが開発した魔道具によって実現された。


 その魔道具の開発により魔法による対人戦が可能になると、どうしても気になることがある。


 それは『誰が一番強いのか?』ということである。


 魔道具が開発された当時、学院のあちこちで対人戦を申し込んだり申し込まれたり、それに伴うトラブルも多く起こったそうで、それなら明確に順位付けをすればそういう諍いもなくなるだろうということでこの競技会が発案された。


 それが好評だったものだから、毎年の恒例行事にしようということになり、今年がその恒例行事になって一回目。


 二・三年は去年も経験しており、この日のために研鑽を積んでいる。


 私たち一年は、入学して間がないので不公平だということで学年ごとのトーナメントになっている。


 まあ、最終的には各学年の優勝者三人による総当たり戦で総合優勝者を決めるんだけどね。


 ちなみに、秋にも同様の競技会が行われ、そちらは全学年共通トーナメントになるそうだ。


 そんな春の競技会がいよいよ開催される。


 くじ引きによって対戦相手が決まると、私は対戦相手に向かって手を差し出した。


「お互い頑張ろうね!」

「あ、お、おう」


 私の初戦の相手はBクラスの代表である男子生徒だった。


 他の対戦も全て決まり、いよいよ競技会が開催された。


 まずは一年から。


 一回戦第一試合は、Aクラス男子とBクラス女子の試合。


 クラス分けは成績順だからAクラス男子が有利かと思われたが、Bクラス女子は魔法の威力に劣るものの精度が抜群で、なんとAクラス男子に勝利した。


 いきなり起こった下克上に、観戦している生徒たちは盛り上がった。


 そんな盛り上がる会場だけど、次に現れた生徒を見てシンと静まり返った。


 二試合目は、ヴィアちゃんとAクラス男子の試合だったからだ。


 間近で王女様を見るのが初めてだったのか、Aクラス男子は気の毒なくらい緊張している。


 その緊張を和らげるためにヴィアちゃんが話しかけるが、増々緊張するという悪循環。


 そんな中、非情にも審判役の先生による開始の声がかけられた。


 さて、ヴィアちゃんはどうするのか? と思っていると、ヴィアちゃんはいきなり雷魔法を炸裂させた。


 魔力の制御から発動までメッチャ早かった。


 相手が緊張して固くなっていたとはいえ、Aクラス男子が防御魔法を使う暇も無かった。


 防御魔法も展開せず、全くの無防備で被弾してしまったAクラス男子は、鳴り響くアラームを呆然とした表情で聞いていた。


 そう、一撃で終わってしまったのだ。


 ヴィアちゃんは、相手にペコリと礼をしたあと、つまらなそうな顔で試合場をあとにした。


 次の試合は、なんとSクラス同士、しかも、マックスとレインの試合だった。


 Sクラス同士の対戦ということで、皆の注目が集まる中、この二人はまたしても近接戦を交えた試合を行った。


 というか、レインがそう持ち込んだ。


 今回のマックスは、レインの土俵である近接戦になっても善戦していたけど、やはりレインを捉え切ることはできず、レインの削り勝ちになった。


 次の試合は、SクラスからアリーシャちゃんとCクラス男子の試合。


 この試合は、ヴィアちゃんの試合と同じく瞬殺だった。


 ただ、アリーシャちゃんの場合は、ヴィアちゃんみたいにデカい魔法一発で終わりではなく、授業と同じように小さい魔法の連発で防御魔法のダメージ判定を削り切った。


 しかも、セルジュ君のときの失敗を繰り返さないよう、一発一発確認しながらという余裕まであった。


 いやあ、強いねアリーシャちゃん。


 そして次の試合は私だ。


 さっきのBクラス男子との試合。


 この試合は、申し訳ないけど体力・気力の温存のために瞬殺させてもらった。


 私は、アリーシャちゃんと同様に小さい爆発魔法を放って防御魔法を展開させ視界を奪う。


 煙幕によってBクラス男子が私の姿を見失っている間に移動。


 防御魔法が展開されていない横合いから大きめの魔法を放つと、アラームが鳴った。


 視界が晴れるまでジッと留まってちゃ駄目だよ。


 いい的だった。


 次の試合は、SクラスのレティとCクラスの女子。


 この試合は、Cクラス女子が先に魔法を放ち先手を取ろうとしたけど、レティが冷静に魔法を避けカウンターで魔法を放ちダメージを与える。


 それの繰り返しで、Cクラス女子のアラームが鳴った。


 多分、これが一番オーソドックスな戦闘なんだろうなあ。


 二・三年生たちが「おお」って感心してる。


 私らのときは声も上げなかったくせに。


 レティの次はデビーの試合だった。


 相手はAクラス女子。


 Aクラスだけあって、デビーの対戦相手はやる気十分。


 いきなり大きめの魔法を放ってきた。


 対するデビーはというと、これまた大きめの魔法を発動しており、両者の間で魔法同士がぶつかった。


 そのあまりの衝撃に、Aクラス女子は思わず腕で顔を防御してしまう。


 反射だったんだろうなあ。


 ところがデビーは、想定内だったようで魔法の衝突という衝撃がのこっている試合場を冷静に移動。


 腕で顔を防御しているAクラス女子の後ろから魔法を放ち、防御魔法を展開させることもなく勝利した。


 そして一回戦最終試合はSクラス同士、ハリー君とデビット君の試合。


 この試合が、一番好勝負だった。


 ハリー君が魔法を放つ、デビット君がそれを防御しながら移動し、足元に魔法を放つ。


 私の真似か? 地面がめくり上りハリー君の視界を奪う。


 だがハリー君は私の対戦相手とは違い、すぐさま移動して魔法を放ってすぐのデビット君にカウンターを放つ。


 慌てて避けるデビット君だが、避けながらカウンターに対してカウンターを放った。


 まさか避けながら魔法を放ってくるとは予想していなかったのか、ハリー君は防御魔法が間に合わず被弾してしまう。


 そんな感じのカウンター合戦になり、最終的にはデビット君が競り勝った。


 試合が終わると、会場中から拍手が巻き起こるほどの好勝負だった。


 これで一回戦は全て終了。


 続けて二回戦が行われた。


 二回戦第一試合は、Bクラス女子とヴィアちゃん。


 Bクラス女子は、先ほどAクラス男子を翻弄して勝ち上がってきたが、今回は相手が悪かった。


 今回もBクラス女子は、序盤に小魔法を連発するがヴィアちゃんはそれを防御せず回避した。


 そして放たれる雷魔法。


 雷魔法は、発動から着弾までがとにかく早い。


 魔法を連発していたBクラス女子は防御魔法を用意することすらできず被弾。ダメージを受けてしまったのだが、雷魔法にはもう一つ特色がある。


 眩しいのだ。


 雷魔法を被弾してしまったBクラス女子は閃光に目をやられ視界を奪われた。


 これが致命的だった。


 慌てて防御魔法を展開するが、ヴィアちゃんは冷静に防御魔法が展開されていない後方に回り、特大の雷魔法を一発。


 これで決着した。


 二試合目は、レインとアリーシャちゃん。


 ある意味注目の一戦だった。


 レインがちょっとは手加減するかな? と思ったけど、レインは初っ端から全力だった。


 アリーシャちゃんが小魔法を用意している間に、身体強化魔法でアリーシャちゃんの背後を取る。


 慌ててアリーシャちゃんが後方に防御魔法を展開するが、もうそこにはレインはいない。


 唖然とするアリーシャちゃんの後方から魔法が着弾。


 驚いたアリーシャちゃんが振り向くとそこにはもうレインはいない。


 そして、また後方から被弾。


 それを繰り返し、レインがアリーシャちゃんを圧倒してしまった。


 終わったあと戻ってくるアリーシャちゃんは物凄く不機嫌そうで、レインは気になるのかチラチラ見ていた。


 まあ、あれだけなんにもできないと拗ねちゃうよね。


 頑張って機嫌を取りなよ、レイン。


 さて、次は私とレティの試合だ。


 レティは、入学当初に比べると格段に魔法が上手くなったが、やはり治癒魔法士志望だからなのか攻撃魔法はそれほど得意ではない。


 私が最初の魔法を放つまでに自分の魔法が用意できなかった。


 それを見越していたのか、最初から防御魔法を使ってきた。


 だが、私の狙いはレティ本体ではなく足元。


 レティが展開した防御魔法は魔法障壁で物理障壁ではない。


 風魔法で足元を破壊した私は、そのまま風魔法で石礫をレティに向けて飛ばすと、風魔法はレティの防御魔法に阻まれたが、石礫は素通りし、レティにダメージを与えた。


 防御したのにダメージ判定されたことに驚いたのか、レティの動きが止まった。


 その隙を見逃すはずがなく、私は魔法を叩き込み決着した。


 次はデビーとデビット君の試合。


 先ほど好勝負を見せたからか、デビット君に対する応援の方が大きかったのだけど、勝負はデビーの勝利で終わった。


 デビーは、毎日私と一緒にひいお爺ちゃんの訓練を受けてたからね。


 デビット君は、女子の家に入り浸るのは抵抗があったのか、マックスが練習に参加するときしか家に来なかった。


 その差が出た感じかな。


 デビーはデビット君の放つ魔法を防御するのではなく、それ以上の魔法で相殺に、余波をデビット君に浴びせていた。


 そうなると流れはデビーに傾き、デビット君は防戦一方になって敗れた。


 これでベスト四。


 次勝てば決勝だ。


 準決勝第一試合はヴィアちゃんとレイン。


 この試合もレインが身体強化魔法で攪乱してくるが、ヴィアちゃんは冷静に対処。


 身体強化魔法を発動しレインがヴィアちゃんの後ろを取った瞬間、待ち構えていたように雷魔法が発動。


 レインは、まるで自分から罠にかかりに行ったように被弾した。


 まあ、ワンパターンだからね。


 でも、躊躇なく後ろに魔法を放ったヴィアちゃんの胆力も凄い。


 もしそこに居なかったらとか考えなかったのだろうか?


 ともかく、突如雷魔法を被弾したレインは、音と閃光によって動きが止まってしまい、ヴィアちゃんに狙い撃ちされてしまった。


 決勝進出者の一人目はヴィアちゃん。


 これは、私も頑張らないとなと準決勝の相手であるデビーを見つめる。


 対戦するデビーは、初めて対戦したときのような憎悪の視線ではなく、好戦的な視線で私を見つめてきた。


 ここ最近はヴィアちゃんよりも一緒にいた相手。


 毎日魔法訓練をしていることで、格段に魔法の威力があがったデビーは、私に真っ向勝負を挑んできた。


 防御魔法なしの魔法の撃ち合いである。


 幾度となく二人の間で魔法が衝突し、威力に負けた方に魔法の余波が向かいダメージを受ける。


 そんな勝負を仕掛けてきたデビーに、私も真っ向から迎え撃った。


 まあ、デビーもここ最近魔法の実力が上がったとはいえ、私とはひいお爺ちゃんたちから魔法指導を受けていた年季が違う。


 力比べに悉く勝利し、最終的にダメージ判定を積み重ね勝利した。


 負けたデビーは「まだまだね」と言って妙にサッパリした顔をしていた。


 まあ、負けたとはいえお互い全力で魔法をぶつけ合ったからね。


 私も爽快感があって、デビーと笑いながら試合の感想を言い合っていた。


 そして決勝戦。


 奇しくも首席と次席の戦いになった。


 授業でもよく一緒に対戦しているヴィアちゃんとの決勝戦。


 とにかく、発動から着弾までが異様に早い雷魔法をどう避けるか。そして、避けながらどう魔法を放つかが重要になってくる。


 決勝戦が開始されてすぐ、ヴィアちゃんは雷魔法を連発してきた。


 私は小規模で放たれた雷魔法を防御魔法で防御しつつ、ヴィアちゃんに向かってダッシュした。


 防御魔法を展開しながらなので、身体強化はなしだ。


 ヴィアちゃんは、まさか私が突っ込んでくるとは予想していなかったのか、目を見開いて驚いている。


 すぐさま雷魔法で迎え撃たれるが、防御魔法を完全に突破することはできなかった。


 多少漏れてダメージを負ってしまったけど、それは想定内。


 魔道具の防御魔法が防いでくれることを信じて最小限の魔法に留めた。


 そして、魔法を撃ち終わって無防備になったヴィアちゃんに魔法を叩きこむ。


 防御できなかったヴィアちゃんはまともに魔法を喰らい、アラームが鳴った。


「んあー! やられましたわ! 悔しい!」


 ヴィアちゃんは、普段見せない表情で負けを悔しがった。


 その姿に、会場にいる生徒たちがどよめいているのが分かる。


「そりゃあ、ヴィアちゃんより魔法の訓練してる時間は長いんだもん。負けてられないよ」

「……私も、もう少し魔法訓練の時間を増やそうかしら?」

「王女様のお勉強は?」

「……お父様に叱られますわね……」


 ヴィアちゃんには、王女様という責務があるので魔法の訓練ばかりしていられない。


 今は戦時中でもないし、オーグおじさんの時みたいに魔法の訓練に明け暮れるわけにはいかないし、必要がない。


 そんなことを、あの合理主義のおじさんが許してくれるとは思えないよね。


「しょうがないですわね。一年優勝おめでとうですわ、シャル」

「ありがと」


 こうして、春の競技会一年の部は私の優勝で終わった。


 続いて二年・三年の試合が行われ、最後に各学年の優勝者による総当たり優勝戦が行われた。


 その優勝戦で、なんと私が勝ってしまった。


 二年と三年の優勝者は、試合が始まると同時に視線を交わし合い、真っ先に私を潰しにかかってきた。


 まさか二人同時に攻めてこられるとは思ってなくてちょっと慌てたけど、咄嗟に身体強化魔法を使って二人の背後に移動。


 二人は、対人戦で身体強化魔法を使うことに慣れていないのか、アッサリと私を見失った。


 ……対人戦に身体強化魔法を取り入れているのは一年だけなのだろうか?


 それとも、私やレインが特殊なんだろうか?


 まあ、とにかく二人は急に目の前からいなくなった私を見失って狼狽した。


 その二人に、まとめて爆発魔法をぶっ放したのだ。


 完全に私を見失っていた二人はまともに被弾し、あっという間にアラームが鳴り響いたのだ。


 あまりにも呆気なく終了してしまったので、二人だけでなく私まで呆然としてしまった。


 ともかく、これが私が学院最強となった瞬間だった。


 私は、目標として首席卒業と魔王女と呼ばれること、そしてゆくゆくは魔王の称号を受け継ぐことを目指す身としては、まず学院最強という称号を手に入れたことが嬉しくて仕方がなかった。


 そして、翌日以降、学院中から対戦を申し込まれることになり、私は嬉々としてそれを受け入れていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る