第19話 王と英雄

 西方世界一の大国、アールスハイド王国。


 数年前に、前国王ディセウムからアウグストに王位が譲られてから増々繁栄を続ける、紛れもなく西方世界の中心国家である。


 そのアールスハイド王国王城にて、各局長が集まっての定例会議が行われていた。


 専制君主国家とはいえ、王一人で政務が行えるはずもなく、各項目において担当局が存在し、それぞれが担当した政務、問題点などを報告しあい、連携するのが目的の重要な会議である。


 その会議には国王アウグストも参加しているが、そのアウグストのもとに緊急の伝令がもたらされた。


「どうした? 定例会議中に伝令とは、よほどの緊急事態か?」

「は! そ、それが……」


 伝令を伝えに来た役人は、緊張した面持ちでアウグストに伝えた。


「シン様より、緊急の通信でございます」

「なんだと!?」


 役人の言葉を聞いたアウグストは、驚愕の表情を浮かべて勢いよく立ち上がった。


 伝令の内容が、個人から連絡が入った。それだけでここまで驚愕する。


 知らない者が見れば、なぜ? と思うだろうが、ここにいるのはシンの及ぼす影響を知る物ばかり。


 各局長たちもまた、アウグストと同様に驚きの表情を浮かべていた。


「内容は!?」

「それが、陛下に直接話すということで、まだ聞いておりません」

「他のものには聞かせられないということか……これは厄介ごとの予感がするな。皆の者、聞いての通り緊急事態が起きた。会議はしばらく休憩とする。再開は追って連絡する」


 アウグストがそう言うと各局長たちは揃って立ち上がり頭を下げた。


 それを見届けたアウグストは、役人の先導で王城の通信室に向かう。


 アウグストが現れたことを確認した通信室の人間は、素早く通信機を手渡し後ろに下がった。


 それを確認してから、アウグストは通信機に話しかけた。


「待たせたなシン」

『ああ、すまんな、忙しいときに』

「いや、構わない。お前がそれを承知で通信をしてきたということは、相当に厄介な案件なのだろう?」

『そうなんだよ。オーグさ、俺が海洋調査隊に出資してるの知ってるか?』

「ああ、南の海の海洋調査などと行うやつだろう? 今までも、いくつか新しい島や植物の発見など報告を受けている」

『そう、それ。その調査隊がさ、スゲエもん見付けてきたのよ』

「……なんだ?」


 シンが凄いという発見に、アウグストは若干冷や汗を流しながらも続きを促した。


 そして、もたらされた情報の大きさに、アウグストは眩暈がしそうになった。


『新大陸を発見した。そして、そこには独自の文化を築いている人間の国家があった』

「!!」


 あまりの衝撃の大きさに、アウグストは思わず叫びそうになったのをなんとか抑えた。


 新大陸、新国家、そんなものを見付けてきたという。


 そして、独自の文化形態……。


「待て。ということは、調査隊はもう現地の人間と接触したのか!?」

『ああ。なんでも言葉が通じたらしくてな。自分たちが外洋から来たと言うと、驚かれはしたけど、納得されたそうだ』

「納得した!?」


 シンからもたらされる情報に、アウグストは一つの可能性に思い至った。


 同じ大陸にあったクワンロンでさえ言語形態は違った。


 それなのに、海を隔てた別大陸で同じ言葉が使われていた。


 そして、外洋から人が来ることを不思議に思っていない。


「……まさか」

『さすが。多分、俺も同じこと考えた』

「……前文明崩壊時の脱出者……」

『それが一番可能性が高いと思う』

「自分たちが過去外洋からその大陸に辿り着いたというなら、外洋に大陸や国家があることを知っていても不思議ではないからな。そして、その事実が伝聞されている国家が独自の文明を築いているのか……興味深いが慎重に動かざるを得ないな……」

『あ、そのことなんだけどさ』

「なんだ?」

『向こうが、こっちの大陸と文化交流したいって言ってるらしいんだよ。それで、お前に報告したってわけだ』

「なるほどな……確かに重要案件だ。ちなみに、どの程度の交流を希望しているか聞いているか?」

『まずは交易だな。あと技術交流。なんか、独自に発展した魔法文明があるらしくて、調査隊ではよく分からなかったって言ってる』

「なるほど」

『詳しい話は、調査隊が向こうの使節団を連れて帰ってくるそうだから、そこでしてくれ。前情報としてこういう話があるってことだけ報告しとく』

「分かった。大変重要な報告だった。感謝する」

『おう』

「それで、その新大陸の国はなんという名なのだ?」

『ああ、それは……えーっと』


 手元のメモを見ているのだろう、少し時間を置いて告げた。


『ああ、あった。新大陸の国の名は『ヨーデン』。あのダームのヒイロさんがやろうとして失敗した、完全民主国家なんだってさ』


 最後の最後に、また特大の爆弾を放り込んできたシンに、アウグストは頭を抱えるのであった。


 そして、この情報は王城から正式にアールスハイド王国を始めとする西方世界全体に伝わり、世間には浮ついた空気が流れた。


 また、交流は新大陸を発見したアールスハイドを中心として行われるということで、また世界中の視線がアールスハイドに集まることになるのであった。


 そして、当然その噂はシャルロットたちの耳にも入ることになる。


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