第14話 皆の目標

 あの後、皆でダッシュして石釜亭に到着した私たちは、予定の時間より少し遅れたものの、無事親睦会を始めることができた。


 男子と女子で向かい合って座り、改めて自己紹介をし合い、そのあとはご飯を食べながら雑談となった。


 ハリー君は、子爵家の次男なのだがお兄さんが優秀らしくて、おそらく跡継ぎはお兄さんで決まりだろうとのこと。


 ということで、自分は他で生計を立てないといけないので、魔法師団を志望しているそうだ。


 デビット君は、レティと同じで、一般市民のごく普通の家に生まれて、普通に街の初等・中等学院に入って、魔法の成績が優秀だったから高等魔法学院を受験したらしい。


 そういう経緯で受験したからまだ将来の目標なんかは決まってないらしい。


 このクラスの男子は、デビット君を除いて将来の目標が決まっているので焦っているそうだ。


 一番分かりやすいのがマックスで、ビーン工房の跡継ぎになることを望まれており、本人も鍛冶仕事や物づくりが好きなこともあり、その道に進む予定。


 レインは諜報部志望。目標が定まってるのはいいことだけど、理由が意味分からん。


 ハリー君は今言った通り。


 女子の方は……そういえば、誰からも将来の目標を聞いたことなかったな。


 ヴィアちゃんは、お兄ちゃんのお嫁さんだろうし、アリーシャちゃんは私に対抗心を燃やして高等魔法学院に入学までしたけど、そういえば目標とか聞いたことない。


 デビーは、さっきみたいな奴らを見返してやりたい、っていうフンワリした目標は聞いたけど、具体的な話は聞いてない。


 レティは、そういえば元神子志望だって言ってたな。


「そういえば、レティは神子志望だって言ってたけど、今でもそうなの?」

「いえ、今は神子というより治癒魔法士になりたいと思ってます」

「へえ、そうなんだ」


 治療院は教会の付属施設だから治癒魔法の使える神子さんが治療に当たることが多い。けど、皆が皆神子さんなわけじゃない。


 一般の人もいるのだ。


「じゃあ、レティは将来の夢が決まっているんだ。シャルは? やっぱりアルティメット・マジシャンズ?」


 デビーにそう聞かれたので、私はちょっと考えた。


 アルティメット・マジシャンズに入団するのは、高等魔法学院に入学するのと同じで最低限の目標だ。


 私の本当の目標は別にある。


「もちろんアルティメット・マジシャンズは目指すよ。でも、それが本当の目標じゃない。それは就職先の希望かな」

「就職先って」

「私の本当の目標はね……」


 私は、デビーの目を真っ直ぐみて、ニヤッと笑った。


「パパから、魔王の称号を受け継ぐこと」


 私がそう言うと、皆が「なに言ってんだ? コイツ」という顔をした。


「アンタ、なに言ってんの?」


 言われた。


「そのままの意味だよ。私はいつか、パパみたいな魔法使いになって、魔王の称号を受け継ぐんだ!」


 力強く宣言したのだけど、皆は隣同士で顔を見合わせて首を傾げている。


 ん? そんな変なこと言ったっけ?


「まあ、シャルがそういう目標をお持ちなのは良いことですわ。それより、魔王の名はシャルが受け継ぐの?」

「もちろんだよ!」


 私がそう言うと、ヴィアちゃんは首を傾げた。


「あら? でも、確か魔王って、お爺様がおじさまに与えた二つ名だったと思いますけど? 称号でしたかしら?」

「む、そ、そう、だけど……」

「それに、もし魔王の名が継承できるとして、一番の候補はシルバーお兄様ではありませんの? もうすでに『魔王子』と呼ばれていると聞いておりますわ」

「ぐぬぬぬ!」


 そう、そうなのだ!


 お兄ちゃんは、高等魔法学院に首席で入学、首席のまま卒業、そしてアルティメット・マジシャンズへ入団と、魔法使いとしてのエリート街道を驀進中である。


 加えてパパの息子。


 そのお陰で、周りの人はお兄ちゃんのことを『魔王子』と呼び始めているのだ。


「順当に行けば、シルバーお兄様が次期魔王となるのが順当ですわねえ」

「ち、ちくしょう!」


 お兄ちゃんめえ!


 尊敬してるけど! 大好きだけど! これだけは譲れない!


「だ、だったら! 私は『魔王女』って呼ばれるようになるもん!!」

「あら、私と同じですわね」

「そういう意味じゃないよ!?」


 王女って言葉が入ってても、ヴィアちゃんとは全然違うから!


 ただの敬称だから! 権力とかないから!


「はぁ、まあ、アンタの目標はなんとなく分かったわ。それを踏まえて聞きたいことあるんだけど」

「なに?」


 デビーが、なんかちょっと呆れた目をしながら訊ねてきた。


「研究会、どうすんの?」


 その言葉に、皆は顔を見合わせた。


 そういえば、説明会は終わったけど誰も研究会に入ってないな。


「私は無理ですわ。お父様と違って、王城での勉強に加えて研究会にまで参加できる余裕はありませんわ」

「私は殿下と行動を共にするように仰せつかっていますので、私も無理です」


 ヴィアちゃんとアリーシャちゃんは、そう即答した。


「俺はどうしようかな。生活向上研究会に入ってもいいけど、それだと正直ウチで手伝いしてる方が身にはなるんだよな」


 マックスの家は、アールスハイド一の工房だ。


 学院の研究会なんかよりも勉強になるだろう。


「私は、攻撃魔法研究会に入ろうと思っている。この学院で一番大きな研究会だし、卒業生には魔法師団に就職した者も多いそうだからな」


 ハリー君はもう決めてるっぽい。


「僕はどうしようかな。正直、なにも決めていないから、今すぐ決めろと言われても難しいな」


 デビット君は迷い中と。


「それは私も同じね。正直、今日のあいつ等を見返すことだけしか考えてなかったから、それが達成できてしまったらなにをどうしていいか分からなくなったわね」


 デビーも同じ。


 っていうか、目標自体見失ったみたいだ。


「私は、聖女研に入ろうと思います」


 レティは、聖女研……ママのことを研究する研究会に入る。


「え、マジで?」

「はい」

「そんなとこ入るくらいなら、ウチでママに教わった方がいいんじゃない?」

「うぇっ!?」


 前から思ってたけど、レティって驚いたときの声が変だよね。


「そ、それも大変魅力的なんですけど……私、同担の人と一緒に推しを崇めたいんですよね」

「おぅ、そう。それなら仕方ないか」


 レティは同担歓迎なのね。


「で、シャルはどうすんの? シン様みたいに新しい研究会でも作るの?」

「そのつもりはないかな。私は、パパみたいに新しい魔法を作ったり、魔法そのものを解明したりできないもん」

「あれ? シャルはシン様の称号を受け継ぐんじゃないの?」

「デビー」

「なに?」

「パパはね……別次元の存在なんだよ……」


 私はパパの魔王の称号を受け継ぎたいと思っているけど、追い越せるとは夢にも思っていない。


 あれは、そういう次元じゃない。


 それこそ、創神教が認めるように神様から遣わされた人間だと言われる方が納得できる。


「そ、そうなのね……で、結局どうするの?」

「私は研究会に入るつもりはないかなあ。それより、家でママとかひいお爺ちゃんたちに教わった方がいいもん」

「はー、聖女様に賢者様から教わり放題ですか。贅沢なことで」

「あ、デビーも、予定がないならウチ来ない? ママは治療院に行ってることも多いけど、ひいお爺ちゃんとひいお婆ちゃんは、暇すぎてボケそうだって言ってるから、私たちが相手してあげると喜ぶよ」


 私がそう言うと、デビー、レティ、ハリー君、デビット君の視線が一斉にこっちを見た。


「え……い、いいの?」

「いいよ。元々アルティメット・マジシャンズだって、パパが同じクラスだった皆に魔法を教えてあげたのが始まりだし。ひいお爺ちゃんから指導受けてたらしいし」

「そ、そう、なの……。だ、だったら、お願いしようかしら?」

「いいよー。ならデビーは研究会なしね」

「あ、あのさ!」


 デビーが研究会に入らず、放課後は私と共に行動することが決まったとき、デビット君が立ち上がった。


「ぼ、僕も参加していいかな?」

「いいよー」

「軽っ! え、そんな簡単に決めていいの?」

「いいんじゃない? まあクラスメイトの特権ってやつだね」

「特権……そっか。うん、ありがとう、その特権、ありがたく使わせてもらうよ」

「うん。レティとハリー君は?」


 さっき入る研究会を決めていると言っていた二人に視線を向けると、凄く悩ましい顔をしていた。


「そ、それは……賢者様、導師様の教えも捨てがたい……しかし、研究会に入っていた方が就職に有利だし……」

「あ、言っとくけど、毎日じゃないよ? 私だって放課後遊びたいし、ひいお爺ちゃんたちももう歳だからねえ」

「……なら、教えを受けるときだけ行動を共にしてもいいか?」

「それでいいよ」

「わ、私もそれでお願いします!」

「分かった。あ、でもレティの場合はママからの指導の方がいいよね? その辺どうする?」


 私がそう言うと、レティはまた悩まし気に考え込んだあと、小さく頷いて私の方を向いた。


「聖女様のご指導が受けられるのはタイミングが合ったときでいいです。それより……私も、放課後シャルやデビーと遊びたいです……」


 モジモジしながらそう言うレティ。


 いやん、なにこの可愛い生き物。


「もちろんだよ! 一緒に遊ぼうね!」

「うひゃ! は、はい!」


 思わず抱き着いた私を、レティはまた変な声を出しながらも受け止めてくれた。


「シャルたちだけなんでズルイですわ。私も行きますからね」


 放課後遊びに行こうと頷き合う私たちに、ヴィアちゃんが膨れっ面になりながら割り込んできた。


「もちろんいいよ。けど、そうなると、また護衛の人たちが大変だなあ」


 私がそう言うと、なぜか周りの人たちが呆れ顔になった。


「え、なに?」

「なに言ってんの? アンタが遊びに行くときも、同じ状況になるでしょうが」

「……」


 そうでした。


「でも、私たち折角高等学院生になったんだから、その辺は慣れてもらおう。でないと、高等学院生活が堅苦しいことになっちゃうよ」

「そうですわ。こうした状況にも慣れてもらわないといけません。これも訓練ですわ」


 私とヴィアちゃんがそう言うと、デビーがポソっと言った。


「……ただの我儘じゃん」

「「違います!!」」


 我儘じゃない、街中での護衛訓練なんだよ!


 そういうことにしといてよ!


「そ、そういえば、レインはどうするの?」

「俺?」


 デビーの追求を誤魔化そうと、まだ聞いていなかったレインに研究会の話を振ると、話に参加せず黙々とご飯を食べていたレインが顔をあげた。


 そして、少し考えたあと、ニヤッと笑って言った。


「忍者研、作る」

「人数集まんの?」

「!」


 なんか、また変なこと言いだしたので正論をぶつけてやると、驚愕に目を見開いた。


 そして、私たちの顔を見渡した。


「言っとくけど、私は入んないからね」


 私の言葉に、全員が頷き、レインはショックを受けた顔をして項垂れ、それをアリーシャちゃんが慰めていた。


 なんで了承して貰えると思ったんだろうね。


 やっぱ、馬鹿なのかな?

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