第10話 愛称は友達の証

「ちょっとシャル、勝手に暴露しないでくださいませ」


 私たちの会話を聞いていたヴィアちゃんがそう文句を言ってきたけど、今二人に暴露したのは結構重要なことなのだ。


「いいの? ヴィアちゃん。今日二人ともウチに来るんだよ? そんな二人が前情報無しでお兄ちゃんに会ったら……」

「はっ!」


 どうやら気付いたらしい。


「デボラさん、マーガレットさん」

「「は、はい!」」

「分かってますわね?」

「「はいぃ!!」」


 怖えよ。


 けど、これは必要なこと。


 牽制なのだ。


 ヴィアちゃんの黒い笑顔に二人が怯えたところで予鈴が鳴る。


「あら、もう教室に戻らなければ。皆さん、行きましょうか?」


 そうやってふんわり微笑むヴィアちゃんにさっきまでの怖い様子は伺えない。


 デボラさんとマーガレットさんは、そんなガラリと雰囲気が変わったヴィアちゃんを見て目をパチクリしている。


「あ、あはは。ビックリした? ヴィアちゃん、お兄ちゃんが絡むとああなっちゃうから気を付けてね」

「え、あ、うん」

「い、今のはちょっと……」


 前を歩くヴィアちゃんに聞こえないように二人に忠告した。


 デボラさんは今までになく素直に頷いてくれ、マーガレットさんはヴィアちゃんの黒い感情が自分に向いたことでちょっと涙目になっていた。


 うんうん、分かる。怖いよね。


「シャル」

「な! なにかな!?」

「……ふふ、早く行きますわよ?」

「う、うん!」


 怖え……。


 余計なこと言うなって目が語ってたよ。


 その雰囲気に呑まれたのか、デボラさんとマーガレットさんはずっと緊張したまま教室に向かって歩いていた。


 事情を知ってるアリーシャちゃんはこっそり溜め息を吐いていたけどね。


 王国貴族令嬢としては、お兄ちゃんが絡んだヴィアちゃんを見るのは微妙なんだろうなあ……。


 そんな感じで教室に辿り着き、残りの授業を受ける。


 今日は座学ばっかりだった。一般教養も大事ということで、歴史と数学の授業だったけど……昼食後に座学は止めて欲しい。


 睡魔と戦うので必死だった。


 そんなこんなでようやく放課後。


 今から家に行くよ!


「さあさあ、デボラさんマーガレットさん、乗って乗って」


 学院に迎えに来たのはいつもの乗用車ではなく、少し大きいボックスタイプの車だった。


 一緒に帰る人数が増えたことを伝えてたからね、私たち五人と運転手さんたちが乗れる大人数タイプの車で迎えに来てくれた。


「あ、お、お邪魔します……」

「わあ、私、魔道車乗るの初めてです」


 デボラさんは緊張しながらお邪魔しますとか言っちゃってるし、マーガレットさんは魔道車に乗るのが初めてらしく、キョロキョロしながら乗り込んだ。


「あ、マックスのとこの同じ車だね」

「ですわね。あちらも人数が多いみたいですし」


 男子チームの方もマックスの家からの迎えが来ていて、私の迎えと同じ車だ。


「マックス君の家もお金持ちなのね」


 車が動き出し、後方に過ぎ去っていくマックスたちを目で追いながら、デボラさんが羨ましそうにそう言う。


「まあ、マックスの場合、お金持ちっていうか、あの車マックスの家で作ってるからね」

「あ、そういえばそうでしたね」

「大人数が乗れる車で迎えに来てるってことは、マックス君も無線通信機を?」

「それもマックスんちが作ってるから。私と同じじゃない? 試作機のモニター」

「……こういうの見ると、やっぱり貴女たちは私とは住む世界が違うって思うわね……」


 デボラさんは、嫉妬から憎悪の視線を投げかけてきた今までと違い、ちょっと寂しそうな顔で向かい合わせで座る私たちを見た。


「うーん、まあ、私が恵まれてるのは自覚してるよ。でも、それを私に施してくれるパパのことは知ってる?」

「当たり前でしょ!!」

「魔王様のことを知らない人がいるんですか!?」

「あ、いや、そういう意味じゃなくて……」


 あまりにも激しい反応に、思わず慄いちゃったよ!


「パパ、高等魔法学院の入学試験を受けるまで、山奥でひいお爺ちゃんと二人暮らしだったの知ってる?」

「知ってるわ」

「知ってます」

「じゃあ、そこがどんなとこかは?」

「「……」」


 私の問いかけに、二人は黙って顔を見合わせ、首を横に振った。


 パパのことは色んな書物が出ているから、生い立ちから結構知られている。


 魔物に襲われた馬車の唯一の生き残りで、身元を示すものが何もなくてどこの子か分からなかったから、ひいお爺ちゃんに拾われて孫として育てられたこととか、ママとの馴れ初めとか。


 ……幼いころは憧れたりしたけど、今の歳になったら親の馴れ初めとか正直聞きたい話じゃないわね。


 で、パパが『どういう』幼少期を過ごしたのか、ってことは広く知られているけど『どこで』過ごしたのか、までは知られていない。


 場所は明言されてないし、今も隠されてるからね。


「私は行ったことあるけど、本当に山奥だよ。ポツンと家だけあって、食料は自給自足。私も行ったときは、狩りをして食料ゲットしたもん」

「あれは大変でしたわねえ……」

「あそこから帰ってきたとき、私たちはなんと恵まれているのだろうと、自分の置かれている環境に感謝しましたわ」


 そのとき同行したヴィアちゃんとアリーシャちゃんが遠い目をしている。


 あのときは、キャンプしたい! って私たちが騒いだから、ならパパが昔住んでた家に行くかって言われて連れて行かれたんだよ。


 あそこはマジでやばかった。


 水とお湯の魔道具はあったから飲み水とお風呂には困らなかったけど、コンロの魔道具はないからかまどで薪を燃やさないといけないし、食料がないから狩りをしないといけないし、狩った獲物は解体しないと食べられないからパパが解体したんだけど私たちはそれを見て吐いちゃって、調理されたものを出されても生きてたときの姿を見ちゃったから食べられないし、空調の魔道具もないから暑くて寝れないし、マジでサバイバルだった。


 まあ、最終的には自分で解体できるようになったんだけど……。


 家に帰って来たとき、あまりの快適さに思わず皆で涙しちゃったもんなあ。


「パパはさ、そんなとこ出身なのよ。実際、王都に来るまでお金を使ったこともなかったって言ってた。それが、王都に来てからこれだけの改革をして一代で財を築いたのよ」


 私はそう言ったあと、二人を見て意識的にニヤッと笑った。


「夢のある話だと思わない?」

「「あんな天才魔法使いと一緒にすんな!!」」

「あるぇ?」


 おかしいな? パパの成り上がり一代記を聞いたら今の境遇からの逆転もあるんだぞってやる気になると思ったのに。


「そういうのはねえ、魔王様ほどの天才だからこそ成り立つ話なのよ!」

「私一般人です! そんな才能ありません!」


 そう言う二人にヴィアちゃんが静かに語り掛けた。


「確かに、おじさまの魔法は素晴らしいですわ。ですが、それは才能があるからではなく、努力の賜物だ……とお父様が仰っていましたわ」

「努力……」

「そうなんですか……」

「お父様曰く、おじさまが凄いのは観察力や思考。それを実際の魔法に落とし込む実現能力だとのことですわ」


 ヴィアちゃんはそう言うと、二人に向かって笑いかけた。


「ですから、努力を惜しまなければ、思考することを止めなければ、おじさまほどとはいかなくても、大成することはできると思いますよ」


 ヴィアちゃんのその言葉に、デボラさんはハッとした顔をした。


「デボラさんを馬鹿にした人たちを見返してやるのでしょう? 最初から諦めていれば成せることも成せなくなりますわよ?」


 さすがは王族というべきか、ヴィアちゃんの言葉には人をやる気にさせるなにかがあると思う。デボラさんはヴィアちゃんの言葉を聞いて、さっきまで羨ましそうにしていた顔から、キリッとした顔になった。


「そう、ですね。人を羨んでいてもしょうがないですよね」

「その通りですわ。自分の成長のために、利用できるものはなんでも利用してしまいなさいな。そのために丁度良い人が目の前にいるのですから」

「ちょ、そんな堂々と利用しろとか言わないで」


 冗談めかして言うヴィアちゃんのお陰で、車内の空気が弛緩した。


 そのとき、車が一旦停車した。


「あら、付きましたわね」

「「え?」」


 ヴィアちゃんの言葉を聞いて、デボラさんとマーガレットさんが窓の外を見た。


 丁度ウチの門の前に到着し、守衛さんが門を開けるところだった。


「さ、さすがウォルフォード家……守衛がいるのね……」

「は、はわわ、き、緊張してきました……」


 折角空気が弛緩したと思ったのに、今度は緊張から二人が強張ってしまった。


「そんなに緊張しなくても……」


 ウチはそんな怖い所じゃないんだけどなあ。


 ガチガチに緊張している二人だけど、お構いなしに車は門を通り家の前に付く。


 最初に車を降りた私は、車の中にいるデボラさんとマーガレットさんに向かって言った。


「私の家にようこそ!」


 そう言うと、二人は顔を見合わせフッと笑い合った。


「お邪魔するわ」

「はい、お邪魔します」


 こうして、高等魔法学院で新たにできた友達を家に招待できたのだった。




「はぁ……緊張したわ……」

「はぁ……聖女様、お美しかったです……」


 家に入ると親睦会の用意をしてくれていたママが出迎えてくれて、デボラさんとマーガレットさんはまた緊張でガチガチになった。


 噛み噛みの挨拶をしていた二人だけど、ママはそんな二人のことを笑わず、優しく歓迎してくれた。


 その雰囲気にやられたのか、私の部屋に着いてからも二人はどこかホワホワした様子だった。


「ふふ、さすがおばさまですわ。あの慈愛に満ち溢れた雰囲気はそうそう出せるものではありませんもの」

「ですね。シシリー様こそ、女性として目標とする御方ですわ」


 ヴィアちゃんとアリーシャちゃんもママのことは大好きで、来るたびに褒めちぎってくる。


 そんな二人に一番反応したのはマーガレットさんだった。


「そうですよね! やはり聖女様は素晴らしい御方ですよね!!」

「え、あ、うん。ママのこと褒めてくれてうれしいけど、そんなに?」


 私がそう言うと、マーガレットさんは自分が興奮してヴィアちゃんとアリーシャちゃんに詰め寄っていたことに気付いたのか、慌てて二人から離れた。


「す、すみません! 私、元々高等魔法学院ではなく、神子になるために神学校に行こうと思ってたから……」


 そういうことか。


 ママは神子じゃないけど、創神教本部から正式に聖女認定されているし、治癒魔法の実力も世界最高と言っていい。


「そうでしたの。神子志望だったのなら、おばさまに憧れても仕方ありませんわね」

「あら? でも、それならどうして高等魔法学院を受験なさったの?」

「あ、それは……」


 アリーシャちゃんの質問に、マーガレットさんは口ごもった。


「なにか特殊な事情でもおありになるのかしら?」

「もしそうなら言わなくてもよろしいわよ?」


 ヴィアちゃんとアリーシャちゃんの王族、貴族コンビが優雅にお茶を飲みながらそう言うと、マーガレットさんは逡巡しつつも話してくれた。


「えっと、実は、友達が高等魔法学院を受けるから一緒に受けてくれないかって誘われて……」

「付き添い受験だったの?」

「うん」

「で? その友達は?」


 私がそう聞くと、マーガレットさんはちょっと困った顔になった。


「……落ちちゃいました」

「「「「ああ……」」」」


 本命の子が落ちて、付き添いで受けたマーガレットさんが受かったと、それもSクラスに。


「なんで自分が落ちて私が受かるんだって凄い文句言われちゃって……それ以来その子とは疎遠になっちゃいました」


 あはは、と苦笑しながら言うマーガレットさんだったが、私は内心怒っていた。


「そんな子、放っておけばいいのよ。自分の力不足を棚に上げて他人を貶すなんて、人として最低だわ」

「やっぱり? デボラさんもそう思う?」


 怒ってたのは私だけじゃなかった!


 そのことが嬉しくて、ついデボラさんに詰め寄ってしまった。


「ちょ、近い! ま、まあ、そう思うのも当たり前でしょ。高等魔法学院は完全実力主義。落ちたのも合格したのもその人の実力。文句を言う筋合いなんてないわよ」

「うんうん」


 二人で盛り上がる私たちに、マーガレットさんがおずおずと訊ねてきた。


「えっと、気にしないでいいの?」

「当たり前でしょ? なに? アンタ、その子からなんか言われたの?」

「言われたっていうか……なんか、周りに私の悪口言いまわってるらしくて……その子意外の友達も疎遠になっちゃった……」


 マーガレットさんのその言葉に、私とデボラさんは揃って立ち上がった。


「ソイツ! 今すぐ呼び出せ!」

「そうだよ!! 私たちがお仕置きしてやる!!」

「はぇっ!? お、おしおき!?」


 憤る私たちに、マーガレットさんがあたふたしている。


 ってか、怒んなってほうが無理!!


「自分の力不足を棚に上げるだけに留まらず、マーガレットに嫉妬して嫌がらせ! なんて性根の腐った奴なの!!」

「しかも、ソイツに同調してる奴までいるんだね!? 信じられない! マーガレットさん! そんな奴ら友達でもなんでもないよ! そいつらもお仕置きしてあげるよ!!」

「え? え?」


 怒涛の勢いでマーガレットさんに詰め寄る私たちに、マーガレットさんは目を回している。


「は、はわわ……」

「二人とも、落ち着きなさい」

「った!」

「あたっ!」


 はわはわしているマーガレットさんに詰め寄っていた私たちは、ヴィアちゃんに頭を叩かれて物理的に止められた。


「もー、なによヴィアちゃん」

「なにじゃありません。マーガレットさんを見なさい。混乱してるじゃないですか」

「はぇ?」


 ヴィアちゃんに言われてマーガレットさんを見ると、マーガレットさんは目をグルグルさせて変な言葉を発していた。


「わあっ! どうしたの!? マーガレットさん!!」

「貴女たちが不穏なことを言うからでしょう?」

「え? いや、でも……」

「確かに、そのマーガレットさんの友人……いえ、もう知り合いと言うべきですね。お知り合いの方には憤りを覚えますが、暴力で解決しても意味がないでしょう?」

「う……」

「マーガレットさんも、そんなことは望んでいないのではないですか?」


 ヴィアちゃんはそう言ってチラリとマーガレットさんを見ると、気を取り直したのかコクコクと頷いていた。


「えと、あの……一応、お友達として過ごしてきましたし、その、お仕置きとかは可哀想なので……」


 俯きながらそう言うマーガレットさんに、私とデボラさんは気勢をそがれてしまった。


「アンタがそれでいいならいいけど……」

「うー、なんかモヤモヤする!」


 これ、完全にいじめじゃん!


 私とデボラさんが二人でモヤッてると、アリーシャちゃんがヤレヤレといった感じで首を横に振っていた。


「皆さん、嫉妬しているのですわ。ただでさえ難関のアールスハイド高等魔法学院にSクラスとして入学できるマーガレットさんに。たかだかそんなことで嫉妬して悪評を流して貶めるような者など友人でもなんでもありませんわ。疎遠になっているのなら、そのまま縁をお切りなさいな」


 わあ、やっぱりアリーシャちゃん、辛辣ぅ。


「え、でも……」

「そのお友達もどきに未練でも? 現在進行形で貴女を貶めていますのよ?」

「……」

「それに、高等学院が別になると疎遠になるものだと聞いてますわ。そこまでして繋ぎ止めておきたいほどの友情を感じてますの?」

「それは……ない、かも」

「ならいいではありませんか。それに、これからはこうやって集まることが多くなりますし、中等学院時代の友人と会う機会などほとんどありませんわよ?」

「あ……」


 アリーシャちゃんの説得に、マーガレットさんはハッと気が付いたように私たちを見た。


 私、ヴィアちゃん、デボラさんはマーガレットさんを見て頷いた。


「そうだよ! 今後は私たちで集まることの方が多いんだもん、そんな奴らのことなんか気にしなくていいよ!」

「そうですわね。そんな方たちのために心を痛めるのは時間の無駄ですわ」

「だね。私も、中等学院時代の同級生とは会いたいと思わないし。散々私のこと馬鹿にしてきた奴らだからね。今後すり寄ってきたら言ってやるつもりなんだ『今更もう遅い』ってね」


 私とヴィアちゃんは一般的な励ましだったけど、デボラさんの言葉には実感が籠っていた。


「デボラさん……」


 状況は違うとはいえ自分と同じような境遇のデボラさんがいたことが嬉しかったのか、マーガレットさんが潤んだ目でデボラさんを見ていた。


「デビーって呼んでよ、マーガレット」

「ふふ、じゃあ、私のこともレティって呼んで」

「はいはい!! 私もデビーとレティって呼びたい!!」

「……まあ、別にいいわよ」

「ふふ、いいですよ。じゃあ、私もシャルって呼んでいい?」

「もちろん!!」


 愛称呼び! なんか、さらに仲良くなれた気がする!


 私とデビーとレティの三人でキャッキャしてたけど、その輪の中にヴィアちゃんとアリーシャちゃんは入ってこなかった。


「ヴィアちゃんとアリーシャちゃんは無理かあ」


 私がそう言うと、ヴィアちゃんはちょっと寂しそうに微笑み、アリーシャちゃんは仕方がないと言わんばかりに息を吐いた。


「え? なんで?」


 事情が分からないデビーが首を傾げた。


「ヴィアちゃん、王族だからね。あまり特定の人間と仲良くしてると思われるとよろしくないんだって。デビーとレティのファーストネームを呼んでるだけでも相当懇意にしてると思われるよ?」

「え? でも、シャルは?」

「シャルは特別ですわ。お父様とおじさまが懇意なのは世界中が知ってますもの。今更私がシャルのことをウォルフォードさんなんて呼んだら、アールスハイド王家とウォルフォード家に確執が生まれたのかと勘繰られますわ」


 まあ、それを除いても物心付いたころからお互いシャル、ヴィア呼びだったけどね。


「え? じゃあ、アリーシャも?」

「私は別に構いませんことよ?」

「じゃあ、なんでさっき輪に入らなかったんだ?」

「それは……」


 アリーシャちゃんはチラッとヴィアちゃんを見てから言った。


「殿下を一人残してはしゃぐことなどできませんから」


 いやあ、ホント徹底してるよね。アリーシャちゃんの王族至上主義。


「え、じゃあ、アリーって呼んでいい?」

「構いませんよ、デビー」

「じゃ、じゃあ、私も……」

「ええレティ、よろしくお願いしますね」

「はい! アリーちゃん!」

「じゃあ私も! アリーちゃん!」

「却下ですわ、シャルロットさん」

「なんでよ!?」


 なんで私のことは頑なに愛称で呼んでくれないのアリーシャちゃん!?


 アリーシャちゃんが呼んでくれないから私も呼べないんだよ!


「貴女は私のライバルですから。慣れ合うつもりはありません」

「ちょっとくらい妥協しようよ!」

「却下です」

「アリーシャちゃーん!」


 私たちのやり取りを見ていたヴィアちゃんたち三人が声をあげて笑っている。


 ちょっと暗くなりかけてた空気が和んだのはいいけど、なんか納得できない。


 ムスッとしている私をヴィアちゃんがよしよしと慰めてくれていると、部屋の扉がノックされた。


「はーい?」


 反射的に返事をすると、部屋の外から男の人の声が聞こえてきた。


『シャル、入っていいかい?』


 その声を聞いた途端……。


「シルバーお兄様!!」


 さっきまで私を慰めてくれていたヴィアちゃんが勢いよく立ち上がり、部屋の扉に向かったのだった。


 ……所詮、友情より愛情なのね……。


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