第7話 対決! シャルロットVSオクタヴィア
初めての対人戦闘がヴィアちゃんだなんて……!
ああ! 私はどうしたら!?
「よろしくお願いしますね、シャル」
「あ、うん。よろしくー」
悲劇の主人公っぽく言ってみたけど、パパの作った魔道具があるなら安心だ。
ヴィアちゃんの挨拶を受けて、私も軽く挨拶を返す。
それにしても、ヴィアちゃんが固定された的に向かって魔法を放っているところは見たことがあるけど、戦闘になるとどうなんだろう?
そんで、それは私にも言えることだ。
動いているヴィアちゃん相手に魔法を当てられるんだろうか?
いきなり未知数すぎるよ!
「では、魔石を渡す。ペンダントトップの裏に魔石をセットしたら、外れないようにしっかりとロックしろ」
「「はい」」
ロックは結構厳重で、確実に外れないようになってる。
私たちは、先生から受け取った魔石をセットしロックした。
その途端、私たちの周りを魔道具の防御魔法が覆った。
「わっ! すご!」
張り巡らされた防御魔法の強固さに、私は思わず感嘆の声を漏らしてしまった。
いや、マジですごい。
「さすが、おじさまの付与した防御魔法ですわね。誰の魔法も通りそうにありませんわ」
「そうでしょう。しかし、その防御魔法に魔法が当たるとダメージ判定しますので、自分に当たらないからと防御をおろそかにしないように」
「先生、それって、自分の出した防御魔法はダメージカウントしないってことですか?」
「そうだ。だから、ちゃんと防御魔法も行使するように」
「「はい」」
「よし。それでは、双方開始地点まで離れて」
先生にそう言われて魔法練習場の地面を見ると、中央に線が二つ引いてある。
ちょっと距離を取って書かれているそれは開始線なんだろう。
そこに辿り着くと、ヴィアちゃんも反対側の開始線のところに辿り着いた。
「よし、準備はいいか? それでは……始め!!」
ヴィアちゃんと向かい合うと、先生がすぐに開始の合図を出した。
まずは、先手必勝!!
「うりゃあ!」
私は、一番得意な火の魔法を矢の形にして放った。
魔力は少なめ。威力より、スピードを重視したものだったけど……。
「えい」
「うぇあ!?」
ヴィアちゃんも私と同じ考えだったようで、あまり魔力を込めずに魔法を放ってきた。
ヴィアちゃんの放った魔法は雷の魔法。
雷の速さは光と同じ。つまり……。
「ああ! いきなりダメージくらった!」
放たれたと思った次の瞬間、もう着弾したヴィアちゃんの雷は、私の防御魔法に当たりダメージ判定されてしまった。
私の火の矢は、ヴィアちゃん自身の防御魔法に防がれたのでノーダメージだ。
「うふふ、それ、それ」
「ちょ! 連発!?」
小魔法の打ち合いは完全にこちらに分が悪い!
だって、私は雷の魔法使えないもん! 難しいんだもん雷!
ジッとしていたらヴィアちゃんの魔法の的になってしまうのですぐに移動したのだが、私が移動する跡を追いかけるように雷が迫ってくる。
魔道具があるから私自身にダメージはないとはいえ、雷が自分を追いかけてくるのは相当な恐怖だ!
それに、ちょいちょいダメージが入っているのか、魔道具の色が最初に一発もらって青から水色になっていたのが、段々黄色になってきた。
これはマズイ!
「あらあ? 難しいですわね」
「ヴィアちゃん! 薄笑い浮かべながら魔法を撃ってこないで! 怖すぎ!!」
「うふふ」
私が懇願したのに、変わらずに薄笑いを浮かべながら魔法を撃ってくるヴィアちゃん。
え? なんで? もしかして、実は私のこと嫌いだったとか!?
……違うな。あれは、加虐者の目だ。
私が逃げ惑う姿が楽しくて仕方がないんだ。
オーグおじさんも、普段は立派な王様だけど、パパの弱みを掴んだらずっとそこを弄って遊んでいる。
これは、完全にオーグおじさんの遺伝だ!
「ほらほら。早く逃げないと、当たってしまいますわよ? ビリビリしますわよ?」
「魔道具があるから感電しないよ!」
薄笑いっていうか、むしろちょっと恍惚としてない!?
これは、なんとかしないと!
「っくぅ!!」
「え!?」
あんまりにもあんまりなヴィアちゃんの姿をあまり周りに晒さない方がいいと判断した私は、逃げ回りながらある魔法を行使した。
その魔法はヴィアちゃんの予想外だったようで、目を見張り動きを止めた。
「ど、どこに!?」
私が使ったのは『身体強化』の魔法。
それを自分の身体が耐えられる限界ギリギリで行使したのだ。
その結果、ヴィアちゃんの後ろを取ることに成功。
魔法の対人戦ということで、遠距離魔法だけを念頭に置いていたヴィアちゃんは、急に素早く動いた私を姿を見失ったのだ。
その間に、私は最大限魔力を高める!
「はっ!?」
私の魔力制御に反応し、後ろを振り向くヴィアちゃんだったが、ちょっと遅かったね!
「くらえ!!」
「くっ!」
私は、もう一度火の矢を、今度は魔力増し増しで放った。
ヴィアちゃんは、防御魔法を張ろうとするも不意を突かれたため不完全な防御魔法になってしまっていた。
その結果……。
「きゃああっ!!」
「っし!!」
ヴィアちゃんの張った防御魔法を粉砕し、魔道具の防御魔法にヒット。
ダメージ判定が入った!
「よし! 反撃開始……」
ピピピピピ。
ん? なに? この音?
「ストップ! ウォルフォード! ストップだ!」
「え?」
「魔道具が赤くなったらアラームが鳴ると言っただろう! これがその音だ! そして、アラームが鳴ったということは戦闘終了だ!」
「ええ?」
確かにそういう説明はあったけど、一発だよ?
「あの、まだ一撃しか入れてないんですけど……」
私がそう言うと、先生が頭を掻きながら近寄ってきた。
「あの魔道具は、致死ダメージを受けると音が鳴るように設計されている。つまり、お前の一撃で殿下は致命傷を負ったということだ。殿下、お身体に異常はありませんか?」
先生はそう言うと、倒れていたヴィアちゃんに手を差し伸べた。
「え? あ、はい。驚いて倒れてしまっただけですから。さすがシンおじさまの魔道具ですわね。これっぽっちもダメージがありませんわ」
ヴィアちゃんがそう言いながら先生の手を取って立ち上がると、先生はホッとした顔をした。
「良かったです。それにしても……さすがは首席と次席だな。いきなりこのレベルの対戦が見られるとは思いもしなかった」
先生は私に視線を移すと、感心したようにそう言った。
「そうですか? 自分でも結構無様な試合をした自覚はあるんですけど」
「私も、詰めを誤りましたわ」
私は前半ヴィアちゃんにいいように遊ばれたこと、ヴィアちゃんは後半詰めを誤って逆転されたことが不満で、揃って唇を尖らせた。
そんな私たちを見て先生は苦笑した。
「典型的な力と技の対決だったな。スピードで翻弄する殿下に対して、一撃で状況をひっくり返せるウォルフォード。お互いの長所が出せたいい試合だったと思うが?」
「遊ばれてたら意味ないよ」
「負けたら意味ありませんわ」
私とヴィアちゃんは、二人揃ってムッとした顔をして先生を睨んだ。
「はは、お互い負けん気が強くて結構なことだ。しかし、問題点が出たことは喜ばしいことじゃないか?」
先生のその言葉に、私たちはハッとした。
「殿下の魔法は、確かに早かった。しかし、短時間で連発していたため威力は小さくダメージ判定も小さかった。ウォルフォードはそこを冷静に判断して、防御魔法などで凌いで反撃するという手もあったな」
「ああ! そうだった!」
「殿下は、前半が自分に有利に進んだので調子に乗ってしまいましたね。ウォルフォードの移動先を先読みするなど出来ていたら結果は逆だったでしょう」
「うう……逃げ惑うシャルが可愛くてつい……」
逃げる私が可愛いってどういう意味!? やっぱりドSなの!?
「そ、そうですか……まあ、これで二人の特徴がある程度分かった。これから得意な点を伸ばし、苦手な点を克服するようにしていこう。そのための学院だからな」
「「はい!」」
こうして、私たちの初対戦は終わった。
はぁ、初めての対人戦で緊張したけど、楽しかった。
まあ、うっかりヴィアちゃんの性癖を暴露してしまったけど……。
私とヴィアちゃんは対戦が終わったので、ペンダントから魔石を取り外し先生に渡す。
魔道具が赤くなってしまったら、万が一の誤射に備えてアラームが鳴ったあと、最後に一回だけ防ぐと防御魔法が起動されなくなってしまうから、リセットする必要があるんだって。
こうして魔石を取り外すことでダメージ判定がリセットされるそうなんだけど……。
なんでこんな面倒な方法なんだろう?
パパならもっと簡単にリセットできる方法とか思い付きそうなのに。
「ねえ先生。なんで魔石を取り外さないとダメージ判定がリセットされないの? もっと簡単にリセットできた方が効率的じゃない?」
私がそう言うと、見学していた皆も同じ意見だったらしく、デボラさんやマーガレットさんも含めて皆うんうんと頷いていた。
すると、先生は「フッ」と鼻で笑ったあと、ちょっとドヤ顔をした。
あ、これ、パパの話をするときの顔だ。
「ウォルフォード、殿下、この魔道具の防御魔法はどうだった?」
「凄かったです」
「ですわね。シャルのあの魔法を受けて微塵もダメージを感じませんでした」
うんうんと先生が頷いたあと、ピッと指を立てた。
なんだろう? なんか癪に障る。
「そうだろう。それほどこの魔道具は素晴らしい。なにせ、魔石を使っているから常時起動し全ての魔法を通さない。不意打ちも効かない」
「ですね」
「……」
私はただ相槌を打っただけだけど、ヴィアちゃんはちょっと難しい顔をして考え込んでしまった。
「殿下は気付きましたか?」
「……ええ。これは、確かに制限を設けないとよろしくない類いの魔道具ですわね」
ヴィアちゃんの答えに満足したのか、先生は笑みを浮かべて頷いた。
「さすがは殿下ですな。よく勉強しておられる」
「それはどうも」
「え? なに? どういうこと?」
二人で納得し合ってるけど、どういうこと? 私にも分かるように教えてよ。
「この魔道具は素晴らしい。いえ、素晴らしすぎるのですわ。常時シンおじさまの防御魔法が展開され、こちらには一切ダメージが届かない。お父様なら問題ないでしょうけど後世……将来の王やその側近が野心家だったら? 自軍の兵士が無敵になれる魔道具があるとなれば、その野心は他国へ向かうかもしれませんわね」
「……あー、そういうことか。制限を持たせていないと、無敵の魔道具になっちゃうってことか」
「魔道具の再起動に、一旦ロックした魔石を取り外して再度付け直す必要があるが、戦場ではそんな時間的猶予はない。どんなに手早く取り換えるスキルを手に入れたとしても、一度は魔道具が機能停止するからどうしても無防備な時間ができる。そんな不安定なものを戦場に持って行こうとは思わないだろう?」
ヴィアちゃんの説明でようやく理解した私に、先生が補足で説明してくれる。
確かに、そんな不安定なもの、戦場には持っていきたくないよね。
「魔王様は、そこまでお考えになってこの魔道具を作られたのだ。お前たち学生のためにな」
先生はドヤ顔をしながらそう言った。
だから、なんで先生がドヤるのよ?
「さて、これで魔道具については理解したな? では第二試合だ。ビーン、マルケス、魔石を受け取って準備しろ」
「「はい」」
先生に言われて魔石を受け取りに行くマックスとレインを見送りながら、私は見学している皆と同じ場所で見学をする。
さて、あの二人はどんな戦いを見せてくれるんだろうか?
さっきは自分が体験したけど、外から見るのはこれが初めてだ。
私は、ワクワクしながらマックスとレインの対戦が始まるのを待っていた。
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