第13話

 その言葉は、ギャルゲーにはあまりにも重い言葉だった。

 ……いや、違う。ギャルゲーだけにとどまらず、人間の死を描いた作品は多々ある。だから正確に言うなら『僕の浮かれた頭には、あまりにも重い言葉だった』だろう。


 自殺……自殺? あのキャラクターってのは、誰だ? 誰かが、自殺してしまうのか?


 慌てて、その記述がある部分を真剣に読み始める。そこは攻略本の最後のほう、コラムのような……とにかく、この攻略本の作者の感想のような場所だった。


 ◆



 さて、ここまでこのゲームの攻略方法について書き連ねてきた。

 このゲームをプレイした人ならば、すべての人間が衝撃を受けたであろう、あのキャラクターの自殺。まさか、あのキャラクターが自殺してしまうとは、誰も思わなかっただろう。


 彼女が自殺してしまう理由は、作中では明かされない。さらに驚くべきことに、この物語を作った作者本人にすら、彼女の自殺理由はわからないという。

 創作をするものは『キャラクターが勝手に動く』という表現をすることがある。その感覚に従った結果、彼女は自殺してしまったという。


 誰一人として、彼女の心の闇に踏み込めなかった。主人公すらも、作者すらも見ることが許されなかった、心の闇。

 

 恐るべきことに、彼女はどのシナリオを攻略しても、同じ結末をたどる。理由はまったくわからず、説明もされない。それが、このゲームの評価を下げている要因の一つになっているのだ。



 ◆


 ……なんだこれは……何を言っているんだこれは……? キャラクターが勝手に動いた結果自殺? だから、自殺する理由はわからない? しかも、どのシナリオでも起こってしまう?


 じゃあ……止めようがないじゃないか。 どうあがいても『あのキャラクター』とやらは死んでしまうことになっている。


 誰だ……誰が死んでしまうんだ? 雪月風花の4人のうち、誰が死ぬんだ?

 

 ◆



 ネタバレ回避のため、自殺してしまうキャラクターの名前については伏せておく。この衝撃は、ぜひとも自分の目でお確かめください。



 ◆


「なんでだよ」


 思わずツッコんでいた。なんでここまで来てネタバレ回避をしなくてはならないんだよ。本当にネタバレ回避をしたいなら、そもそも誰かが自殺することを書くな。というか……そもそも攻略本なんて出すな。ネタバレの極みだろうに。攻略本を買う人はネタバレを期待して買ってるんだよ。



 ◆



 このキャラクターの自殺を知ったプレイヤーたちの反応は『意味がわからない』『最後で台無し』『主人公が死ねばよかったのに』という真っ当な意見で埋め尽くされている。



 ◆


 真っ当じゃない意見が混じってる気がする。なんだ『主人公が死ねばよかったのに』って。それって僕のことだろう。いやまぁ……恋愛が絡むゲームのの主人公は何かと恨みを買いやすいけれどさぁ……刺殺されて喜ばれるような人もいるけどさぁ……僕もその類なのか?

 

 ……まぁそうだろうな。自分でも自分の性格が悪いことなんて自覚している。しかし今更その性格が治るわけでもない。もはや自分の性格矯正は諦めているのだ。


 ……まぁ僕の性格については、今はどうでもいい。


 問題なのは『誰がどうして死んでしまうのか』という話である。攻略本を読み込んでも、その記述はどこにもない。というより、この攻略本は自称ネタバレ回避本らしいので、それぞれのシナリオの肝心な部分が載っていなかったりする。


 なんて役に立たない本なのだ。いや……それでも予言書としての効力を失ったわけではない。

 考える。


 ……どうすれば『あのキャラクター』とやらを救えるのか。死んでしまう雪月風花のうち、誰が死んでしまうのか。そして、どうすれば救えるのか。


 心の闇……抱えていそうなのは雪海ゆきみさんだけれど……いや、それは偏見か。他の3人だって、闇を抱えている可能性はある。


 迷う。こういうとき、僕は決断できない人間だ。悩みに悩んだ挙げ句、何も行動しないタイプの人間だ。


 誰かに相談したい。だけれど、攻略本の存在は知られてはいけない。それとなく、誰かに相談したい。


「誰か、じゃないよな」


 僕が何かを相談できる相手なんて、1人しかいない。あいつなら、きっと僕の相談に乗ってくれる。

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