第10話

 おそらく攻略本は本物だ。それは月影つきかげさんとの出会いで実感した。バスケットボールが飛んでくる瞬間なんて、人力では細かくコントロールできないのだから。


 攻略本が本物ということを知って浮足立つ僕の気持ちと、自分自身のコミュニケーション能力のなさを憂う気持ち。その2つの気持ちが混在している。


 そんな状態で、帰宅。いつものように親との事務的な会話を済ませて、自室に引きこもる。


 そして部屋に入るなり、すぐに攻略本を開いた。かつてここまで本気で書籍を読み込んだことがあっただろうか。


 今日の出来事を探す。雪海ゆきみさんとの出会いはもう読んでいるので飛ばして、月影つきかげさんとの出会いの場面。


 ◆



 飛んできたバスケットボールに直撃した場合、つきに付き添われて保健室に向かう。

 そして、お詫びの品を渡すことを約束される。それから家まで送るという申し出を断ると、「何かあったら、すぐに連絡して」と言われ連絡先を交換する。これは、家まで送ってもらった場合も同様である。



 ◆


 家まで送ってもらう……あそこも分岐だったのか。だったら僕が断らなければ、本当に月影つきかげさんに家まで送ってもらえたらしい。


 ……しかし……本当にこれは予言書らしい。それはもはや疑いようがない。今日起きた出来事が、完璧に記されているのだから。


 そしてその前後のページを行ったり来たりしていると、キャラクター紹介と呼ばれるページがあったので、読んでみる。とりあえず月影つきかげさんのページを見てみた。


 ◆



 攻略ヒロインの1人『月影つきかげつき

 高校2年生にして、バスケ部のエース。スタイルが非常に良い。優しい性格であり、怒るということを人生で一度もしたことがない。そんなこともあってか、基本的にどんな選択肢を選んでも好感度が上がる。攻略の際に、特に考慮すべき点はない。チョロいので最初の攻略対象にはうってつけだ。


 

 ◆


 基本的にどんな選択肢を選んでも好感度が上がる……ということは、一応今日の選択肢でも好感度は上がったのかな……?


 というか……この攻略本、口悪いな……チョロいので、とかゲームの攻略本に書くなよ……月影つきかげさんが見たら、人生初の怒りの感情を抱くんじゃないか?


 さて……次は何を見よう……花咲はなさきさんとの出会いのシーンでも見ようか。


 ◆



 ヒロインの1人『花咲はなさきはな』との出会いは、校門で主人公とぶつかるところから始まる。

 はなは図書室に忘れ物を取りに行っている最中、主人公とぶつかる。そして、選択肢によっては『風音かざねふう』との出会い方が変わることになる。


選択肢A 「ああごめん……なんかぶつかった感触が気持ちよくて……」

選択肢B 「あんまりキミがキレイだったから、見とれてしまったよ」

選択肢C 「あー! 肩が外れちゃったよ……慰謝料を貰わないとなぁ……」

選択肢D 土下座して地面を舐める


 ちなみに、主人公が感じた柔らかい感触というのは、胸の感触である。



 ◆


 Aの選択肢……気持ち悪すぎる……選ばなくてよかった。選んでいたら、今頃警察のお世話になっていたかもしれない。

 というか……あの感触は胸の感触だったのか……しっかりと謝るべきだったな……よくぞ花咲はなさきさんは僕のことを許してくれたものだ。


 しかし……このイベントで風音かざねふうとの出会い方が変わるというのはどういうことだろう……? 気になったので、その部分を読み進めてみる。


 ◆



 選択肢Bを選ぶとはなに気に入られ、一緒に図書室に来ないかと誘われる。それを承諾すると、図書委員である風音かざねふうと出会うことになる。

 図書室に向かう選択肢以外を選ぶと――



 ◆


「図書室に向かう以外の選択肢を選ぶと……」思わず、僕は文章を読み上げていた。「主人公が家に帰ってしばらくして、風音かざねふうから電話がかかってくる……?」


 言い終わった、瞬間だった。


 僕の家の、電話が鳴った。

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