●tRICK bAG(01/4/27・高円寺・JIROKICHI)

昨年の10月に初めて観て以来、11月、1月、2月と観てきているから、これで5度目のtRICK bAGライブである。


私はtbのライブには、そのファンをひとりでも増やしていくために、できるだけ知り合いのひとを誘って行くようにしているのだが、今回一緒に行ってくれるというのは、会社で同期のM君だ。


彼は入社以来、女性ファッション誌畑一筋という編集者で、現在副編集長。「不定期日記」の11月29日の項に登場した、あのM君である。


好みの音楽はモダンジャズだとか。そんな彼は、私と同学出身でもある。


当日、午後6時半に待ち合わせの約束をしていたら、「どうも、すぐに出られそうにないんだ。今日片付けなきゃいけないホームページの校了が、急に入っちゃって」とか言い出した。


雑誌の校了だけじゃなくて、ネット関係まで原稿チェックしなきゃならないとは。IT革命とやらのおかげで仕事が増える一方だねえ。私はM君に同情した。


とりあえず、それが終わるまで編集部で待つことにした。


無事終わったのが7時50分くらい。ありがたいことに、車代は彼が持つと言ってくれたんで、タクシーに飛び乗って高円寺に向かうことにした。


道すがら、彼に今日出演するバンドの音楽性、メンバーの年齢・キャリアなどをざっと説明しておく。


彼はこう言う。


「いやあ、楽しみだなあ。おととしの大晦日だったか、娘にラルクのコンサートに連れてけって言われて行ったとき以来かなあ、ライヴなんて。


おまけに、ライヴハウスなんてここ十年以上も行ってないぞ。」


「それに、最近、うちの編集部の女のコたち(注・20~30代の女性編集者のこと)に、高円寺あたりの中央線沿線に住むのが流行ってるようなんだ。


時代を超越した独特のカルチャーがあるって話だぜ」


私が想像した以上に、彼は今日の行き先に興味津々のようであった。


ステージは8時スタートだから、我々が「JIROKICHI」に到着した8時半ころには、ファースト・セットはすでに半分くらいまで進んでいた。


演奏していたのは「Everyday, I Have The Blues」。


曲が終わると、ホトケ氏は「よう考えたらこの曲は『およげ!たいやきくん』みたいな歌詞ですなあ。毎日毎日イヤなことばかりなんて」などというMCで客席を笑わせている。


彼の軽妙な、関西弁のしゃべくりは、音楽とはまた別の、tbライヴの魅力ではある。


続いて、テレキャスターを抱えたモリ氏が聴き覚えのあるリフを弾きはじめた。そう、「It All Comes Back」だ。


このベター・デイズ・ナンバー、ホトケ氏はけっこうお気に入りのようだ。


「あんたが言うこと、やることに気をつけたがいいぜ。すべてあんた自身に返ってくるから」というその歌詞が、彼自身にとってのいましめになっているのかも知れない。


お次の曲は、これまたおなじみ、ベター・デイズつながりの「Please Send Me Someone To Love」。


こういう、純な男ごころを歌った歌詞が、ホトケさんは大層お好きのようである。私もフェイバリットな曲だ。


さて、次で曲調は一転、激しい16ビートになる。もちろん、「Big Leg Woman」である。


とにかくこの曲になると、コジ氏はがぜん、ノリノリ状態になる。とうぜん、満面の笑顔で。客席ももちろん、ビートに合わせて動く動く。


前半ラストは、レス・マッケーンの「Compared To What」。これまた強力なビートで、オーディエンスをアオるアオる。9時頃、ファースト・セット終了。


さて、休憩時間。私はM君に、これまでの感想を聞いてみた。


開口一番、彼はこう言った。


「いやー、笑っちゃうよな」


一瞬、目がテンになった私を尻目にM君はこう続けた。


「つまりさ、50になっても長髪にして、こうしてずっとバンド活動しているのがさ」


別にバカにしているわけではなく、「おれたちより年上もいるのによくやるぜ」って言いたいようだ。


演奏曲もそうだが、ヴィジュアルがまたそれ以上に強烈にレトロ、そーいうことであった。


たしかに、客観的に見て、tRICK bAGの連中の格好は相当キているわ。


10代、下手すると20代の子供くらいいてもおかしくないオヤジが、長髪によっちゃれジーンズ姿だぜ。


「いきなり、30年前にタイム・スリップしちまったって感じだぜ。オレもひとより少し遅れてだけど、まずビートルズのファンになって、それから吉田拓郎にハマってたのを思い出したよ」とM君。


それから、ふたりの会話はtRICK bAGをいささか離れて、最近テレビ番組でよく見かける、吉田拓郎の話に花が咲く羽目になった(詳細省略)。


M君は言う。「親が『これは聴いていい』とか『聴いてはダメ』とかいうのがあったよな。カーペンターズやサイモンとガーファンクルならいいとか、ハードロックはダメとか」


「そーそー、オレなんか、母親に『エレキを弾くやつは全部不良』とかいわれたから、『おーし、その不良になったろうじゃん』とか思って、親に内緒でエレキ買っちまったもんな」と私。


そんな「聴いていいポップス、悪いポップス」談義も、後半のステージ開始とともに中断となる。


まずはホトケ氏のフェイバリット、ジェームス・ブラウンの「Out Of Sight」でファンキーにスタート。


続いて、tbのステージではおなじみ、「I Go Crazy」(ジェイムズ・ブラウン作)でグイグイとドライブ。


三曲目は、ホトケ氏がもっとも愛好する女性ブルーズシンガーのひとりだというエスター・フィリップスの、ラスト・アルバム「A Way To Say Goodbye」よりタイトル・チューンを。


ホトケ氏のディープな歌いぶりに、我々もしばし、シミジミとしたのであった。


続いて、B・B・キングの名盤「ジャングル」に入っているナンバーを。タイトル失念。


おなじみのファンク・ナンバー、「Whatcha Gonna Do」がこれに続く。


さらに、濃厚なソウル・バラードが続くのだが、これもタイトルを聞きのがす。申し訳ない。


ファースト・セットを上回る熱演ぶりに、客席もいよいよヒート。


とどめを刺すかのように始まったのは、フレディ・キングの「Pack It Up」。当然、場内のグルーヴは最高潮に。


興奮のうちに、セカンド・セットが終わった。


しばらくなりやまない拍手に呼び戻された5人。アンコール・ナンバーは、「Ain't Nobody's Business(If I Do)」。


70年以上も演奏され続けてきたオールド・タイミーなナンバー。でも彼らが弾き歌えば、また新たな魅力が感じられる。これがtbマジック。


それから、もう一曲。最後はこれっきゃないでしょうと言わんばかりに始まったのが、「Shake, Rattle & Rol」などおなじみの曲が出てくるシャッフル・メドレーだ。


もちろん、観客たちは大ハリキリで乗りまくる。そして全ステージが終了。


11時15分ころ、私たちは高円寺を後にし、最後の目的地、新宿歌舞伎町へと向かった。


もちろん、とことん飲みあかすためである。


が、先ほどまでのtbのパフォーマンスが我々におよぼした「タイムマシン効果」はことのほか強力であった。


その夜、というか明け方近くになるまで、M君と私が、酒場の女のコたちまで巻き込んで、「ロック&ポップス原初体験」のハナシに明け暮れたのは、いうまでもない。

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