●tRICK bAG(01/8/23・高円寺・JIROKICHI)

ここのところ、メンバーのスケジュールがなかなか合わず、マイナス1でやることの多いtRICK bAGだったが、ひさしぶりにフル・メンバーで出演するというので、JIROKICHIにかけつけた。


8時より少し前、ホトケ氏以外の4人のメンバーがステージに上がる。


さっそくインスト・ナンバーが始まる。それもなぜかフォー・ビート・ジャズ。


ジャム・セッションでよく演るタイプの、ヘッド・アレンジだけざっと決めておいて、後はどんどん回していく、そういう感じの曲だ。


彼らのテーマとも言える「tRICK bAG」から始めるのならともかく、あれれ??…という感じだ。


今日のステージ・セッティングは、左からコジのピアノ&キーボード、ツルのドラムス、クマのベース、そしてモリのギター。コジとモリがいつもとは左右逆だ。これもちょっと??である。


コジがエレピをひとしきり弾いてソロをモリに渡す。モリが弾くのは黒ボディ、茶ピックガードのストラト。


ジャズっぽくオクターヴ奏法なぞを披露してから、次第にサウンドを変化させていくモリ。


ブルースの硬質なフレーズ、そしてフリー・フォームなロック・ギターへと突入していく。


続いてはクマのベース・ソロ、さらにはツルのドラム・ソロ。


曲も終盤かと思われた頃、ようやくリーダー、ホトケ氏登場。


そのまま彼がヴォーカルをとって、「tRICK bAG」へなだれ込んだ。


ツルはいつもより激しくスネアを叩いている(ように聴こえる)。妙に気合いの入ったドラミングだ。


長かった最初のメドレーが終わると、間髪を入れず、次の曲へ。


ツルがおどろおどろしくドロドロとロール。ホトケ氏はマラカスを持ち出して来て、しきりに振る。


これにモリのワウ・ギターがからみ、始まったのがネヴィル・ブラザーズそしてミーターズのナンバー、「FIRE ON THE BAYOU」。


粘っこいビート、泣きのギター、いかにも南部風のアーシーな曲だ。


クマ、ツル、コジも、リフレインではコーラスで参加。


ソロがコジに渡される。一瞬の静けさの中、彼の張りつめたようなピアノ・ソロが流れる。


ホトケ氏は後半、タンバリンに持ち替え、熱っぽい雰囲気をいやましに盛り上げていく。


さて、曲が終わって、ホトケ氏のMC。ここでようやく、今日のイレギュラーな進行の「タネあかし」がされる。


なんと、ホトケ氏は近所のコンビニに行ったまま、開演時刻になっても帰ってこなかったのである。


それを聞くや、客席からはクスクスと笑い声が上がる。


しかたなく後の4人で、セッション風の曲で時間稼ぎをした、というわけだ。


それはそこ、ステージ慣れしている彼らのこと、いかようにでも時間調整してしまえるのである。


そのへんを、変に悪びれずにさらりとネタにして笑いをとってしまうところが、またホトケ氏らしい。


場がなごんだところで、次のナンバー。おなじみの「だれも知らない」である。


デレク・アンド・ドミノスで知られるこの曲、実は相当古くて、70年以上昔のブルース。


コジはそれをふまえてか、懐かしのスイング・スタイルでピアノを弾く。


モリはここで、ギターをギルドのSGに持ち替える。


クリーン・トーン、そう先日亡くなったチェット・アトキンスを思わせるスタイルで弾くモリ。


彼の相変わらずの引き出しの多さに、改めて感心してしまう。


曲が終わると、歌詞の説明をして、またまた客席を笑かすホトケ氏。


続いて始まったのは「ワン・ウェイ・アウト」。


サニーボーイIIの、間男を題材にしたブルースだ。


モリはスライドを弾き、ホトケ氏はマラカスを操る。


中盤、コジのエレピ・ソロ、そしてモリのスライド・ギター・ソロ。 これが最初はおだやかに、そしてコーラスを重ねるにつれ、エキサイトして行く。


デュアンもかくやという、熱の入ったプレイに客席もノッて来る。


終盤は、思い切り引っ張った、エンディング。


実に中身の濃い、御本家オールマンズも顔負けのロング・プレイであった。


ここで、ひと息。ホトケ氏は客席に座っていた、ひとりの少年を呼ぶ。


「きょうのゲスト、フジクラ君です」


そして彼がまだ16歳ということを告げる。16歳……、ン!?


そういえば、ちょっと前に「tRICK bAG tRIBE」の最新号が配信されてきたが、そこに「天才少年ギタリスト出現!」みたいなことが書いてあったのを思い出す。


そうか、その少年のことなんだ、と納得。


彼は顔立ちも体つきも、どこかまだ幼さを残した、「少年」そのものという感じに見えた。


彼はモリの右となりの、若干空きのあった場所に立つ。そうか、そのために、今日はギターのポジションを変えたのかと、疑問氷解。


さっそく黒のストラトを持って「キーはA」という打合せの後、tRICK bAGとの共演が始まった。


曲はおなじみのブルース・メドレー。


ホトケ氏の歌に続いてほどなく、彼にギター・ソロのおはちが回ってくる。


アゼン、とはこのことだろう。ギターの音の立ち上がり、そしてスピード感が、同年輩の少年達とはまるで違う。


フレーズも誰かの代表曲をもろにコピーしたようなものではなく、多くの曲をっじっくり聴き込んで、自分なりに消化、再構成したものであった。これはスゴい!


そのフレーズの中には、BBはいうに及ばず、バディ・ガイやマジック・サム、さらにはスティーヴィー・レイ・ヴォーンといった、さまざまなギタリストの影響が読み取れた。


しかもだ。彼が共演しているのは、きのう今日、バンドを始めた同世代の少年達ではない。


平均年齢45歳を超えようかという(笑)、自分の父親より下手すれば年上、超ベテラン揃いのtRICK bAGの中に入って、まったく臆することなく、堂々とプレイをしている。


なんたるステージ度胸!


自分が16歳のころといえば、もちろん、こんなレベルではなかった。クラプトンの(不完全な)コピーをして、イキがっている、そういう程度であった。


メドレーが終わったとき、彼はもはやただの16歳の少年ではなかった。


そう、場内のだれもが、彼の並はずれた才能を確信したのである。


しばらく、彼に対する賞賛の拍手は鳴りやまなかった。


するとホトケさんは、また合図をして、もうひとりゲストを呼んだのである。


立ち上がったのは、まだ小学生とおぼしき、小柄できゃしゃな体つきの少女だった。ストレートのロング・ヘアーにミニスカートのドレスと、女のコっぽいいでたちだ。


えっ!? もしかして彼女があの……。


「ドラムスの大久保初夏さんです」


予想通りの紹介がホトケ氏からあった。


ブルース関係のHPではかなり名の知られた、小学四年生、弱冠10歳のブルース・ドラマー、大久保初夏ちゃんだったのである。


この「連続パンチ」には、さすがにビックリ。


でもよく考えてみたら、今日はまだ夏休みの最中。


だから彼らも、親御さんの付添いのもと、大人たちの場所、ライヴハウスに来れたのだろうなと納得。


ホトケ氏は、「自分が小学四年だったころは、まだビートルズも知らず、ただただ野球に熱中する少年でした」と告白。


もちろん、ブルースのブの字も知らない、無邪気な子供だったというわけだ。


さて、初夏ちゃんはそれまで鶴谷氏が陣取っていたドラム・セットの前に座る。ちなみに、彼女はツル氏にドラムを習ったこともある。いわば、まな弟子というわけだ。


大人用のドラム・セットに座ると、小柄な彼女がいっそう小柄に見える。こんなきゃしゃな女の子にドラムが叩けるのだろうか…。


そんな不安は、オーティス・ラッシュで知られるスロー・ブルース、「ソー・メニー・ローズ、ソー・メニー・トレインズ」が始まると、一瞬にして消し飛んでしまった。


プレイに、まったく危なげがないのである。


パワーはさすがに女のコかなという感じはあるものの、とにかく、確実にビートをたたき出しているだけでもスゴい。10歳ですよ、10歳。


さらにいえば、tRICK bAGの連中は、彼女のビートに乗って気持ちよくプレイしているといってもよい。


言ってみれば、老練な猛獣tRICK bAGを仕切っている猛獣使いのごとし。


このさらなる「アンファン・テリブル」の登場に場内は、これがtRICK bAGのライヴだということを完全に忘れてしまった(笑)。


初夏ちゃんだけでなく、フジクラ君も負けじと入魂のソロ。モリがその後をフォロー。もう、完全に世代を越えて「互角」の勝負である。


曲が終わると、場内はもちろん、惜しみない拍手の渦。


このメンツでさらにもう一曲、おなじみの「ジャスト・ア・リトル・ビット」。


ロスコ・ゴードン、マジック・サムほか、さまざまなアーティストで知られるこのナンバー、初夏ちゃんはさらにしっかりとしたビートで一隊を引っ張り、エンディングのキメも、パーフェクト。


いや、スゴいわ。


ふたりとも、もちろん、ブルースがいつも聴けるような恵まれた家庭環境で育っているのだろうが、かといって、乳飲み子の頃からブルースを聴かせりゃ、誰でもBBやオーティスになれるってものでもない。


やはり、これはまぎれもない「天賦の才能」だ。


ここでファースト・セットが終了。


筆者は残念ながら都合により、ここで店を後にしなければならなかった。


だが、今日は実に素晴らしい「才能」を観ることができたという充実感で、一杯であった。


tRICK bAGはもちろん、スゴい才能の集合体だが、彼らにひけをとらないスーパーな才能が確実に育っている。


日本の音楽界にとって、実に心強いことではないか。


「RISING GENERATION」という言葉は、まさにフジクラ君、初夏ちゃんらのためにあるような表現だと思っている。

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