●ジャパン・ブルース・カーニバル2002(02/5/26・東京・日比谷野外音楽堂)

【嵐を呼ぶブルカニ(Part 1)】


トップバッターは「コテツ&ヤンシー」のふたり。


ハープ&VOのコテツ、キーボード&VOのヤンシーのデュオ。昨年デビューの若手にもかかわらず、すでにブルカニには二回目の出演。


関係者からの評価の高さがうかがえます。アルバムも、早くもセカンドを発売したとのこと。


彼らのステージは、評判通り、やはり楽器演奏が素晴らしいです。


コテツは素の音でこい、アンプリファイでもこいのオールラウンド・ハーピスト。


ヤンシーも、ブルースピアノにとらわれず、ラグタイムやスイングからフリーまであらゆるジャズをカバー出来る引出しの持ち主。


曲はジャズ・ジラムの古いブルース「アイ・ウォント・ユー・バイ・マイ・サイド」、バディ・ガイもやっている「トゥー・メニー・クックス」、S&Gの「明日に架ける橋」など4曲。


ふたりの確かな演奏テクニック、リズム感は会場を唸らせました。


ただ、歌のほうは、プロの歌い手としては今ひとつでした。


ふたりともまだ、声が上手くマイクに乗りきっていない感じです。


まあ、そのあたりは、今後の成長に期待したいと思います。


【嵐を呼ぶブルカニ(Part 2)】


二番手は、元ストリート・スライダーズのハリー(Vo,G)が出演。


今回最大の異色キャストといえそう。


一昨年秋、スライダーズを解散して以来、ひさびさの野外コンサート出演。


少数ながらもコアなファンが来ているようで、しきりに「ハリー!」という歓声が上がります。


バンドはギター、ベース、ドラムスのシンプルな3ピース。


ドラムスの巨漢は、見たことがあるひとだな~と思ったら、元スライダーズの「ズズ」でした。


ちなみにベーシストは誰だか不明。


曲はまず、ロバート・ジョンソンの「ウォーキン・ブルース」を彼なりにアレンジしたような、ミドルテンポのブルース・ロックから。


一曲終わるごとにギターをチェンジするハリー。寡黙な彼らしく、ほとんどMCもなく、「イエー」とファンの歓声にこたえるくらいで、あとは黙々と演奏を続けます。


二曲目、三曲目は、あまりよくは知らないのですが、スライダーズ時代のナンバーのようです。


ミドルテンポのエイトビート・ロックで、いかにもスライダーズ風というか、ストーンズ風という感じの曲です。


ラストは最近の曲らしく、ロバジョンの「クロスロード」をモチーフにして、歌詞にもおり込んだナンバー。


でも全然ブルースっぽくなくて(笑)、あくまでもいつものハリーのサウンドでした。


前の組同様、曲は4曲でおしまい。ちょっと短かったな~という印象でした。ギターソロを延々とやるようなこともなく、あっさり終わってしまいました。


せめて、3曲目をスローにしてしつこく長めにやってくれれば、もう少しお客を引きつけることが出来たような気もしました。


 


まあ、このようなコンサートに彼が出演しただけでも、驚きでした。


理屈抜きに楽しむことは出来ましたし、イベントにおけるそれなりの「アクセント」にはなっていたので、ハリー自身にはさほど悪い印象はなかったのですが、彼をよんだ主催者がわの意図はいったいなんだったのでしょう?


単なる客寄せ? それなりにブルース・アーティストとして評価しているから? よくわかりません。


「一組はロック系をよぶ」というのが主催者の方針なら、来年はぜひ下山淳さんをよんで欲しいなあ。


【嵐を呼ぶブルカニ(Part 3)】


三組目は「鮎川・ホトケ・ブルースバンド」が登場。


日本勢、まずは若手(コテツ&ヤンシー)、続いてロック系(ハリー)ときて、次はいよいよベテランが出陣、ということだ。


メンバーはヴォーカル&リズムギターの永井ホトケ隆、リードギター&ヴォーカルの鮎川誠、ベースの小堀正、ドラムスの岡地曙裕という、JIROKICHIでもおなじみのメンツに加えて、先ほど登場したコテツもハープで特別参加。


まずはマディ・ウォーターズの「ローリン&タンブリン」で快調なスタート。


ホトケ氏の声のコンディションは残念ながら、いまひとつというところ。


鮎川氏はテレキャスでスライドを弾きまくるのだが、根がロックなひとだけに、あまりブルースっぽく感じられない。


小堀・岡地のリズム隊は、まずまずの堅実なプレイだが、格別目立ったものはない。


そんななかで、一番目立っていたのは、コテツのハープだった。


このステージではアンプリファイド・スタイルだったが、この音が実にいい。


彼のハープが加わっただけで、音がビシッとしまって、ブルースらしくなってくる。


もし、あとの4人だけでこのステージをやっていたら、相当シマリのないサウンドになったろうな~。


コテツさまさま、である。


続くは同じくマディの「マニッシュ・ボーイ」。


一応、「フーチー・クーチー・マン」風にコード・チェンジするタイプのアレンジ。


ようやくホトケ氏の歌もエンジンがかかってくる。鮎川氏はブラック・ビューティに持ち替えて弾きまくるが、ブルースとはいいがたいフレージング。


やはり、この曲でも光っていたのは、コテツのプレイであった。


3曲目には、鮎川夫人のシーナがゲスト参加。


あいかわらずお年を感じさせない、ティナ・ターナーか欧陽菲菲かシーナかという、はじけたミニスカ姿でところせましと動きまくる。


ビリー・ボーイ・アーノルドの「I Wish You Would」を下敷きにしたと思われる、日本語歌詞のナンバーを夫婦で熱唱。


でも、あいかわらず、ふたりとも、歌が進歩せんのう(笑)。


シーナは一曲のみで引っ込み、次はトレモローズのナンバー「シェイク・ハンズ」。


これはいかにも、ホトケ氏好みのR&Bという感じ。イベント用にしては選曲がシブ過ぎ(笑)。


ラストは、スペンサー・デイヴィス・グループの「ギミー・サム・ラヴィン」。


これはなかなかカッコいい。お客のノリもいい。


このノリをもう少し、全面で出せればよかったのだが。


 


以上5曲のステージだったのだが、音の良さで勝負する「ブルースバンド」、カッコよさで勝負する「ロックバンド」、いずれにもなりきれてなかったような気がしてならない。


あくまでもショービジネス的な意味に限った話だが、鮎川氏という特異な個性を持ったギタリストは、どうもホトケ氏のようなシンガーとあまり合わないような気がする。


ヴォーカリスト&ギタリストの双頭バンドは、ヴォーカルは強烈な個性を持った「前に出る」タイプのひとであるほうがよく、ギターはそれをうまくバックでフォローするのが望ましいのだが(ウルフとサムリンしかり、プラントとペイジしかり)、この鮎川ホトケバンドの場合、ギタリストが「視覚的に」目立ち過ぎて、本来主役たるべきヴォーカリストを食ってしまっている。


そのため、ホトケ氏が本来のカッコよさを発揮できずに終わってしまった。


ちょっと、残念である。


【嵐を呼ぶブルカニ(Part 4)】


さて、お次はいよいよ来日組の登場。


前日はジミー・ヴォーンが大好評を博したようだが、今日はピーター・グリーンとそのグループ。


彼は99年に続く、二回目の来日で、もちろん、ブルカニは初登場。


果たしていかがなりますか?


おなじみ、MCの後藤ゆうぞうさんのユーモラスな前説に続き、4人組で登場。


メンバーはピーター・グリーン、ナイジェル・ワトスン(ともにVo,G)、ピーター・ストラウド(B)、ラリー・トルフリー(Ds)。


ピーターはすっかり太って、総白髪。フリートウッド・マックの頃とはまったく別人のよう。


いでたちはカラフルな縦じまのシャツに、グリーンの帽子というおなじみのスタイル。


まずは、ロバート・ジョンスンの「トラヴェリング・リヴァーサイド・ブルース」から。


ナイジェルとピーターは座ってプレイ。


ナイジェルはエレアコ、ピーターはオレンジのストラトでスライドを演奏。


この曲ではナイジェルがもっぱら歌う。


続いて、同じくロバジョンの「ステディ・ローリン・マン」。


ピーターはグリーンのストラトに持ち替え、リード・ヴォーカルをとったほか、ハープも演奏。


歌はCDで聴かれるような、かなり低くてボソボソとした声だ。


いまひとつ迫力には欠けるかな~。


ロバジョン・カバーで、もう一曲。皆さんおなじみの「スウィートホーム・シカゴ」。


この曲ではふたたび、ナイジェルがリード・ヴォーカルをとる。


正直言って、歌は彼のほうが数段うまい。声量、パンチともにある。


観客側からもおのずと合唱が起こって、ステージは次第に盛り上がりを見せてくる。


とはいえ、座ったままの演奏では、いまひとつガッツが感じられない。


こんなので、いいのか、ファンの皆さん!?


ピーター・グリーンとそのグループのステージ、まさかこんなダルダル、ユルユルのまま続くわけではないだろうな~と思っていたら、さすがに4曲目からは座っていたふたりとも立ちあがって、ナイジェルもストラトに持ち替えた。


ここまでは、ピーターのスライド・プレイにもあまり光ったものがなかったから、これからが「本番」という感じだ。


まずは最近のレパートリー、「リーヴ・マイ・タイム」から。ピーターはヴォーカルとスライド・ギター。


続いては、昨年スプリンター・グループ名義で発表したアルバム「タイム・トレイダーズ」から「ランニング・アフター・ユー」を。この曲でもヴォーカルとスライドギターを担当。


そして同アルバムからもう一曲、「シャドウ・オン・マイ・ドア」を。


ここではナイジェルがリード・ヴォーカル、また派手なワウによるソロも聴かせてくれた。


ここまでのピーターのスライドギターは、派手さにはかけるが、ストラトから一音一音を丁寧に出しているという印象であった。


ストラトというギターの繊細さを、よく知るギタリストならではのプレイだと思った。


 


さて、ステージの終盤、ピーターはストラトをギブソンのセミホロウギター(モデル名不詳)に持ち替える。


いよいよ、華麗なスクウィーズ・プレイが聴けるのかな?という期待を持たせる。


ベーシストのストラウドが曲名を告げる。


「ブラック・マジック・ウーマン」


おお、ついに待望の名曲登場! ヴォーカルはナイジェル。


で、いつピーターの泣きのプレイが炸裂するのかと待っていたら、ブレイクの後、ソロを弾き出したのは、なんとナイジェルのほう。


以降も延々とソロは続くが、ピーターはあくまでもサブの位置にとどまったまま。


これはなんとも残念。


それでも、ナイジェルの歌とギターがなかなか素晴らしかったので、観客のレスポンスは悪くなかったが、かつて「神」ともよばれたギタリストの、あまりの現状に落胆。


続いてマック時代のレパートリー「ニード・ユア・ラヴ・ソー・バッド」を。リトル・ウィリー・ジョンのカバーだ。


これもタイトな音で出来はそう悪くないが、ピーターのギターには見せ場がなく終わる。


そして最後の一曲。聴き覚えのある、へヴィーなイントロ。


そう、「ザ・グリーン・マナリシ」だ。初期の「グレイテスト・ヒッツ」のトップにも入っていた、ピーターの名刺がわりのようなナンバー。


ハードな演奏は実にカッコよかったのだが、やはりピーターは大半のソロをナイジェルに譲り、バックに徹してしまっていた。


昔のあのエモーショナルなギターソロは、そっくりそのまま、ナイジェルが代演していたといってよい。


以上9曲、ピーターは全盛期のような見事なソロをほとんど聴かせることなく、終わってしまった。


ああ、まだ心身ともにコンディションは元には戻っていないのかな~という思いを強くしたステージであった。


でも、だからといって、往年のプレイの素晴らしさが損なわれることはない。


やはり、ブルブレやマックでの名演は、永遠に不滅、そう思った。


【嵐を呼ぶブルカニ(Part 5)】


5番目のトリはもちろん、バディ・ガイ。ブルカニでは一昨年に続く参加だ。


ここまでは、既にレポートしたように、観客席はいまひとつ盛り上がりに欠けていたが、バディの登場で一気にヒートアップする。


後ろの席の観客も立ちあがり、前に押し寄せてきて、係員との小ぜりあいも激しくなってくる。


後藤ゆうぞうさんの派手なアオリに乗っかって、おなじみオーヴァーオール姿のバディが、水玉ストラトを抱えて出現。


もう大変な拍手喝采。さっそく、アップテンポのブルース・ナンバーをブチカマす。


とにかく、ギターの最初の一音から、強烈!


ギュイイイイイイイイイイイイイイ~~~ン!!!!


てな感じで、もう耳に痛いほどの音圧。


さすが、ヒロさんが「メタルのごとし(笑)?」と表現されただけのことはある、ロック以上にロックな大音響だ。


そしてボーカル。これまた、前の4組と比較にならないくらい、耳を直撃するド迫力。


単に声量があるというだけでなく、ものスゴくマイク乗りがいいのだ。テンション高~い。


さすが真打ちやのう!


野音のステージをところせましと歩きまわるバディに、これまでの欲求不満はどこへやらという感じで、客席も大興奮。


バディのステージングの特徴は、曲にほとんど切れ目がないこと。一曲が終わったのかどうかよくわからないうちに、次の曲が始まっていることもしばしば。


つまり、従来、ほとんどのミュージシャンが守ってきた、「一曲、一曲はきちんとエンディングを持たねばならない」という固定観念から、彼はフリーのようなのである。


バディ・ガイというパフォーマーは、「独立した曲を聞かせる」ことよりも、さまざまな曲をコラージュして切れ目なく演奏することにより、バディ・ガイという「存在自体」を「観せて(SHOW)」いくことに重点を置いているように感じられた。


だから気が向くと平気で曲をストップして、次の曲にそのまま行ってしまう。


曲(カバーものが多い)自体の独立性・完成度より、いまの自分が何を歌いたいか、弾きたいかを優先させているのだ。


こういうサンプリング的なやりかたは、保守的なブルース・ファンには抵抗があるだろうが、若い世代の観客にはさほど違和感なく受け入れられているようだった。


根がミーハーロックファンであるワタシも、全然ノープロブレムでありました(笑)。


 


さて、今回のコンサートのもうひとつの主役は「嵐」(笑)。(もちろん、日本のアイドルグループ名ではない。念のため)


最初に後藤さんがアナウンスしたときは「今回はじめて土・日ともに晴れました」とのことだったが、残念ながら1組目の終わり頃にはパラパラと降り出し、2・3組目のころには雨具が必要な降りとなったが、その後いったん上がり、二重の虹が天空に美しいアーチを描いた。


ここでひと安心したのが、マズかった(笑)。


バディの演奏が始まったあたりから、次第に空は再び曇り出し、ほどなく雨が降り出した。


まあこれで最後のステージだから、少しくらい降られてもいいかとタカをくくっていたのが、見事に大降り、いやどしゃ降りになった。


稲妻が光り、雷鳴がとどろく。


ドンガラガッシャーン!!


近くに「落ちた」らしい。しかし、そこでバディ、少しも慌てず騒がず、歌い続ける。


ギターが雨でびしゃびしゃになる。これも気にせず、タオルで拭いて弾き続ける。


さすがのプロ根性である。


バディは、とにかく、若いファンにウケるためには、なんでもやる。


ピックの代わりに、ギターコードをムチのように使った「SM弾き(!?)」(スゴい音が出る)とか、背中弾き、歯弾き、なんでもござれ。


途中からはストラトをアコギに代えて、こちらもなかなかカッコいいプレイを聴かせてくれた。


 


バカうけだったのは、ブルカニでは毎度おなじみ、カメリア・マキちゃんこと静沢真紀さんをステージに呼んで、ふたりでギター・デュエットをしたのだが、そのうちバディの「エロオヤジ」モードが全開となり、そばに引き寄せ、耳元で彼女を口説くようにネットリ歌い始める。


いやー、笑った笑った。


こういうショーアップを、おん年66才になってもまったく照れることなく出来るバディは、やっぱりスゴい。


ブルースマンのワクを見事に逸脱した「エンタテイナー」であるなと感服した。


さて、バディの今回のステージで一番印象に残ったのは、以前のアルバムのタイトルともなっている「フィールズ・ライク・レイン」だった。


ときはまさに土砂降りの真っ最中。なんともシャレがキツイぜ!というシチュエーションだったが、彼は満面の笑みをたたえながら、この曲をしっとりと歌う。観客からも合唱が起こる。


ブルースにおける、ブチ切れそうなテンションの高さとは好対照なのだが、どこかホッとするようなこの曲が観客にも一番ウケていたように思った。


 


あまりの熱演に、予定時間を大幅に越え、それでも最後にきちんとアンコールに応えるバディ。


ピックを観客席に投げ入れ、ステージを縦横無尽に動きまくり、存在をフルにアピール。


クリーム時代のクラプトンを意識して、曲をメドレーにおり込むなど、かなりロック、ロックしていたのが印象に残った。


そして、ついに終演。もちろん、観客はまだまだ興奮のるつぼの中に合ったが、時計ははや8時近く。


さすがに時間切れである。


土砂降りの雨にたたられ、ズブ濡れ、もうボロボロのワタシであったが、同時に昂揚感と満足感もまた味わっていた。


後藤ゆうぞうさんがこう締めくくった。


「これまで25回くらい彼のステージを観てきましたが、今日のが一番テンションが高かったです!」


これはまた、なんという幸運か。


 


大荒れの天候だろうがものともせず、いやそれゆえにいっそう燃えて、絶好調のステージを聴かせてくれた、まさに「嵐を呼ぶ男(GUY)」、バディ・ガイ。


彼の息子のような年齢の中年男(つまりワタシ)も、孫のような年齢の若者たちも、一緒に熱くなった一夜でありました。

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