●ジャパン・ブルース・カーニバル2003(03/5/25・東京・日比谷野外音楽堂)

【なんでもあり、それがブルカニ】


今年もブルカニに行ってきた。他サイトでも既にいろいろとレヴューがアップされているようなので、詳細はそちらを見ていただくことにして、筆者なりの印象を綴ってみたい。


定時の4時に遅れること約10分。司会のゴトウゆうぞうさんの登場でステージが始まる。


皆さんご存じのように、今回は主役のアイク・ターナーが過去の麻薬使用歴を理由に、当局から入国を拒否され、即帰国してしまうという「トンデモ」なアクシデントがあった。


ゆうぞうさんのMCは、そのへんもさらりと笑いのネタにしつつも、やはり前代未聞の危機的状況であることはよく把握していらっしゃるのが、ひしひしと感じられるものであった。


「ここでお客さんを失望させるようなステージにしたら、もう来年はないかもしれない」というような。


で、急遽決まったのが、オープニング・アクトとしての「ゴトウゆうぞう&マイ・オールド・ブルー・フレイム」の出演だ。


メンバーはおなじみ、ゆうぞうさんの相方、カメリア・マキちゃん(g)、よくは知らない(メンゴ)カワモトシンイチさん(kb)、そしてバーべQ和佐田(b)、ニューファンキー末吉(ds)の元爆風スランプ組。


この俄かごしらえ、前日リハをしただけの5人で演奏したのは「エヴリデイ・アイ・ハヴ・ザ・ブルース~負けると知りつつバクチをしたよ」、「ROUTE66」、年に一度のお楽しみ(?)である「主催者からのお知らせブルース」、そして「ホワッツ・ゴーイン・オン」。


ゆうぞうさんの、関西弁のユーモアがたくみに溶かし込まれた歌詞もよかったし、マキちゃんの気合いの入ったソリッドなギター、そしてリズム隊の安定感も◎。臨時編成とはいえ、十二分に楽しめた。「ホワッツ・ゴーイン・オン」ならぬ「どないなっとんねん」には笑いました。


観客の反応も上々。ここで、「つかみはOK」という感じだったんだが……。


次に日本のシンガー/ギタリスト、ハリーが登場。去年に続いて、二度目の出演だ。


彼はいうまでもなく、ロック・バンド「ストリート・スライダーズ」のリーダーだったひと。


ステージはストーンズ・ナンバー「ユー・ガッタ・ムーヴ」から始まったのだが、この曲が終わったらすぐに一部の観客からヤジが飛ぶようになる。「つまんねーよ」「ブルースやれよ」みたいな。


もちろんハリー氏はクールなのがウリですから、そんなヤジなどまったく無視して演奏し続けるのだが、曲の間には毎度そういうヤジが入るので、こちらとしては耳障りでしょうがない。


曲は前回より少し多め。ニュー・アルバム「BOTTOLE UP AND GO」からのナンバーが中心だ。「Ready To Go」「Ramblin' Shoes」、「No Ecstasy」、「Easy Come, Easy Go」、「Give Me Your Love」というような曲順だったと思う。(タイトルが間違ってたらメンゴ。)


いずれもストーンズ、それもキースのスタイルの曲がほとんどだったんだが、それが一部観客の不満にさらに火をつけた。


「ブルースじゃねえだろ!」という。


爆音系ロックだって全然オッケーという筆者は、彼の大音量ギターもまるで気にならなかったが、中にはまったく受け付けないコア系ブルース・ファンもけっこういたようだ。


そのうち前の方で踊っているハリーの女性ファンと、ヤジっていた男性が殴り合いのケンカをはじめる始末。


もちろん、すぐに周囲から制止されたが、その光景を目の当たりにして、なんだか暗い気分になった。


そんなにイヤなら席を立って、休憩でもしてりゃいいのに。そう、思った。


ハリー氏にしてみれば、連続2回のブルカニ出場も、別に「志願」してやったことじゃないし、お仕事、ノルマなんだから文句言われてもねえ、って感じだろう。悪いのは彼じゃなく、よんだ主催者のサイドだろう。


彼のことを悪くいうなんて、まったく、了見の狭いヤツらだよな。


さて、ステージはルーファス・トーマスの「Walkin' The Dog」にて終了。ここにきて、ようやくブルースらしい曲が登場したという感じだが、ハリーの歌いぶりはあくまでも自分流。「JUST, JUST, JUST」の繰り返しとかは無しだったので、コアなファンにはいまいちのウケだったかも知れない。


とにかく、あまりにハリーが会場の雰囲気から"浮いて"いるので、観ていて気の毒になるステージだった。


こんな「非友好的」な観客の中で演奏するのは、さぞかし居心地がわるかろう、そう思った。


主催者も、無責任に出演者を決めず、次回はもう少し人選を考えたほうがいい。


さて、三番手はルイジアナで活躍するギタリスト、サニー・ランドレスがブラック・サンバーストのレスポールを抱えて、ひとり登場。


実は15年ほど前、他のアーティストのバックで来日したこともあるそうなのだが、彼自身にスポットが当たっての来日は初めて。


パッと見は若そうなのだが、実はもう50過ぎだという。


いろいろと自己紹介などのMCを交えつつ、彼ひとりで演奏するのは「ザディコ・シャッフル」「サウス・オブ・I-10」などのルイジアナ~ニュー・オーリンズ系のメジャー調の曲、「ブロークン・ハーテッド・ロード」「ヘル・アット・ホーム」などのブルース系の曲。(詳しいセットリストは、すかさんの「TODAY'S CD」のぺージに載っていますので、そちらもご覧あれ。)


サニーの弾くスライド・ギターは他のどのギタリストとも違って、ユニークそのもの。エコーを多用し、キラキラ感、浮揚感のあるサウンド。親指によるベース・ランニングが実に巧みで、もうどうやって弾いてるんだろうという驚きの連続。


好みの音かというと、必ずしもそうではないんだけど、とにかく「上手い」ということは認めざるをえない腕前です。ハイ。


でも、なにより素晴らしいと思ったのは、曲間のMCから感じられる、彼の人間性。ほんとに、性格のいいひとなんだろうな、と感じた。


掛け値なしのトップ・プレイヤーなのに、「オレのテクニック、スゴいだろ」みたいなひけらかしが全くなくて、好感が持てた。


ステージで一番ウケたのはやはりクラシックなブルース、「キー・トゥ・ザ・ハイウェイ」。そう、筆者も日頃演奏している曲だ。これは嬉しかったな。


ステージはその次の「バック・トゥ・バイユー・テック」でおしまい。観客にはおおむね好印象を残して、退場して行った。


さて、大トリはもちろん、ザ・キングズ・オブ・リズム。あるじのアイク・ターナー抜きでの登場である。ドラマーをのぞく全員、お揃いのスーツでビシッと決めている。


前日のクラブチッタ川崎では、ラストはサニー・ランドレスだったという。前日のキングズのウケが非常によかったので、順番を入れ換えたのだろうね。


まずはインスト・ナンバーが続く。1曲目はミディアム・テンポ、2曲目はアップ・テンポのブルース。


3曲目でようやく知っている曲が登場。ジュリアン・キャノンボール・アダレイのヒット、「マーシー・マーシー・マーシー」だ。これが実にごキゲンなノリ。ホーン・プレイヤーたちも入れ替わりでソロを披露するが、みなものスゴくうまい。


アイクなしでも十分「イケてる」ことが、証明できた感じだ。


もちろんこれは、この「緊急事態」に、いつもより緊張感を持って、気合いを入れて演奏しているということにもよるのだろう。


4曲目は早めのテンポの「カレドニア」。ここでのシャッフル・ビート、絶品でした。バンドの実力のほどはシャッフルをやらせると一発でわかるとよく言われますが、その通りだと思いましたわ。


5曲目はスロー・ブルース。ギタリストのソロをフィーチャー。この彼がわりと若めの白人なんですが、レイ・ヴォーンかバディ・ガイかという感じの大音量系。耳にキーンと来る。ひとによっては「ちょっと勘弁」というクチもいたかも。


6曲目は「アイクス・テーマ」というインスト・ナンバー。曲調はフレディ・キングの「スタンブル」に近い。


当然ながら、アイクに代わって、白人ギタリストが弾きまくる。もちろん、派手なトレモロ・プレイもやってくれた。


7曲目はスロー・ブルース。すかさんのレヴューを拝見するに「アフター・アワーズ」という曲のようだ。


ステージ向かって左端のピアニスト氏(sumoriさんによると、アイクの幼なじみだとか)のリード・ヴォーカル。うまいって歌ではないが、年輪を感じさせてなかなかナイスだ。


彼らのステージは、緩急とりまぜ、実にうまい曲順になっていて、次はなんと「ジョニー・B・グッド」。


ギタリスト氏がヴォーカルはとるわ、ギターは弾きまくるわの大活躍。


しまいには、アイクの向こうを張って、背中弾きまで披露。サービス精神、旺盛やな~。


9曲目はタイトル不明の、ミディアム・テンポのブルース。


10曲目はスライ&ファミリー・ストーンの「アイ・ウォント・トゥ・テイク・ユー・ハイヤー」。アイク&ティナ時代のナンバーということですな。


この曲もサイコーの盛り上がりを見せる。ほとんどの観客が踊っている状態。


ラストは「ブルース・イズ・オールライト」。客席とのコール&レスポンスでは、「ブルースは最高だ」という日本語の歌詞に変えて、大ウケ。


バック・バンドだけでも、観客を十分に楽しませるだけの底力がありました。


いったん退場し、その後、ゴトウゆうぞうさんの呼びかけにより、すべての演奏者がふたたびステージに登場して、セッション開始。演奏したのは2曲。「ウォーキン・ブルース」と「コンゴ・スクエア」。


いずれもサニー・ランドレスのしっかりとした采配により、(やや音を詰め込みすぎの嫌いはありましたが)ど迫力の演奏を延々と展開。


1曲目はギター中心、2曲目はホーン中心で、ソロもたっぷりと堪能。


フタをあける前は「風前のともしび」状態だった今回のブルカニでしたが、最後は「結果オーライ」となりました。


それもやはり、出演者たちの本気(マジ)な演奏ぶりに、観客も思わず感動した、ということでしょうね。


まさに、「ブルース・イズ・オールライト」ならぬ「ブルカニ・イズ・オールライト」でありました(笑)。

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